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開発と納入はトヨタ自動車
人の移動や物資の運搬、戦闘への投入など、ミリタリー分野で4WDのニーズは常に大きい。いわゆる『使えるヨンク』は古今東西の軍事組織で必需品だ。
1980年代から90年代にかけて新世代・軍用小型四輪駆動車のニーズが高まり、米軍でその具体化がなされたのが「Humvee(ハンヴィー)」(HMMWV: High Mobility Multipurpose Wheeled Vehicle=高機動多用途装輪車両)だった。ハンヴィーの量産開始は1985年。非装甲だが大型で頑丈な車体に大パワーの心臓部、高い走破性を持つ脚周りの組み合わせは、便利な軍用四駆として一気に普及した。
自衛隊も同様に新世代の軍用小型四輪駆動車を開発、導入を開始した。それが「高機動車」だ。部内では「コウキ」などと呼ばれる車両である。人員輸送用車両の位置づけで1980年代後半に登場。開発と納入はトヨタ自動車。製造は日野自動車が行なった。
高機動車は陸上自衛隊向けの専用開発車両だが、同時期にトヨタはその民生版として「メガクルーザー」を登場させ、大きな話題となったことを憶えている読者もいるだろう。航空自衛隊では消防車両系統の「場外救難車」という名称と用途でメガクルーザーを導入、現在も使っている。
高機動車は1993年から現場部隊で使い始めた。まずは普通科(歩兵)部隊へ導入されてゆき、現在では普通科全部隊への配備が完了。普通科に続いて特科(火砲やミサイル部隊)や施設科(戦闘工兵部隊)、通信科部隊など、職種をまたいで導入されてきた。
高機動車のエンジンはトヨタ・ダイナやトヨエースなどに使われた「15B」を基にするものだそうだ。その直列4気筒直噴ディーゼルにターボ/インタークーラーを装備した「15B-FT」を本車の当初モデルに積んだ。その後は、排ガス規制に対応する「15B-FTE」へ変更されているという。
エンジンの主要スペックは排気量4104㏄、約170馬力。オンロードでは最高速度105km/hを出せる。これは後部6名と前席2名を含めた人員8名のフル乗車時やトレーラーなどを牽引する場合の値で、運転席と助手席に2名のみの乗車時なら125km/hが可能だという。
車体サイズは全長4.91m、全幅2.15m。駆動系はフルタイム4WDで、ロック機構付きセンターデフを持つ、電動デフロック機構付きLSDだ。脚周りは4輪ダブルウィッシュボーンサスペンション。ハブリダクション機構もついていて最低地上高を向上させている。後輪には「逆位相4WS」機構を搭載したことが当時話題となった。
大柄な車体なのに小回り性能はすこぶる優秀だ。最小回転半径は6.5m以下となり、演習場内の勾配のキツいタイトターンをグイグイ曲がる。最大積載時の総重量は約4トン。輸送機での航空輸送や、輸送ヘリが機外に吊り下げての空輸も可能だ。
タイヤサイズは「37×12.50R 17.5-8PR LT」、ブリヂストンのマッドデューラーを履いている姿を見かけることが多い(銘柄等は納入時期や交換時期などで差異はあると思う)。タイヤはランフラットタイヤだ。空気圧調整装置も積んでいて、被弾し空気圧が低下したとしても、ある程度の走行が可能だという。全般的にトヨタ・ダイナなどの基礎構成や技術を使っているから一般路での走行性や使用性も良好で、定評ある汎用トラックの信頼感を持っている。
派生モデルには装甲の施されたものも
高機動車には多くの派生モデルがある。地対空や地対地ミサイルを積んだものや、通信装置、レーダーを積んだものなどだ。これは後部荷室が平床で、コンテナを積み易いことが関係している。モジュール仕様とされたコンテナ装備・装置をそのまま搭載できる設計が優秀で、汎用性も大きい。
また、装甲が施された高機動車もある。「国際任務仕様車」と呼ばれるものだ。主要改修点はフロントガラス内側に防弾ガラスを追加、車内への防弾板の追加。さらには車外へ身体を出す隊員保護のためのワイヤーカッターを装備、前席へのエアコン装着など。外観はほぼ国内仕様のまま、海外任務に合わせた改修をしているそうだ。
国際任務仕様車はイラク復興支援で初めて使われた。イラク派遣終後も生産され、その多くは国際活動教育隊(静岡県)などに置かれているが、海外派遣の先遣隊となる中央即応連隊(栃木県)などにも配備されているという。
モーターファンフェスタ2022でも高機動車は展示され、後部荷室への体験乗車が行なわれた。希望者は昇降台を昇って荷室のベンチシートに座り、担当員の解説を聞いた。左右のベンチシートに3名ずつ、計6名で座るとやや窮屈な感じはあるのだが、荷室内の高さや車幅が広く、車内空間にはゆとりがあって、居住性は意外と良いことに気づいた方も多いと思う。
高機動車は最初期型の登場から約30年が経つが、後継車両の計画は聞こえてこない。それだけ素地も使い勝手も良い車両なのだろうし、今後も使い続けてゆくはずだ。