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1kWhの電気代はいくら?
前回は、自宅ガレージに200Vのコンセントを設置した話だったが、今回のテーマは電気代。電気代は契約によってかなり金額が違う。また自宅にソーラー発電やV2H(ビークルtoホーム)を入れている場合は、さらに違ってくる。ここでは筆者のように特別な条件なしのケースを想定してみよう。筆者の電気契約は東京電力からソフトバンクでんきに変更している(携帯電話の契約とセットで)が、東京電力を例にとって電気代を考えていこう。
東京電力プレミアムSの場合、基本料金が10Aにつき286円、定額料金が400kWhまで9879.63円、従量料金(401kWh~)が29.58円/1kWhだ。BEVに充電するのは、家庭での通常の電量消費に上乗せになる部分と言うことで、「29.58円/1kWh」で計算する。電力会社はさまざまなプランを用意していて、たとえば「夜トク」プランなら23時以降に使う分の単価は約21円/1kWhになるし、水力100%(CO₂フリー)プランなら30.57円/1kWhとなる(基本料金も違う)。
日産アリアB6を1週間使うと
BEVの電気代、HEVのガソリン代/軽油代
というわけで、日産アリアB6(バッテリー容量66kWh WLTCモード電費 166Wh/km)を借り出して765.6km走ってみた。平均電費は6.6km/kWh(平均時速48km/h)だった。ということは756.6÷6.6=114.6kWhの電力を消費したことになる。すべてを自宅の普通充電(29.58円/1kWh)で充電したとすると
114.6×29.58≒3390円となる。1km走るためのコストは4.4円/kmだ。
では、トヨタ・ハリアーHEV(FFモデル WLTCモード燃費 22.3km/ℓ)で同じように走ったらどうなるか。ガソリンが160円/ℓだとすると756.6÷22.3≒33.9ℓ 33.9×160=5424円となる。7.2円/kmだ。これを見ると圧倒的にアリアB6の方がコストが低い。
急速充電で充電すると
普通充電で充電するとBEVの走行にかかるコストは低いし、なにより計算が立つ。契約内容で多少幅はあるが30円/1kWh前後と思っていれば、大きくは、ずれない。
問題は急速充電だ。
日産の充電プラン
急速充電だけで充電仕様とすると……
急速充電器が増えればBEVの充電に関する課題は解決すると考える人もいるが、果たしてそうだろうか? コストから考えてみる。 先ほどのアリアB6を普通充電ではなく急速充電だけで運用しようとするとどうなるか?
現在主流である出力50kWの急速充電器で114.6kWhを充電しようとしたら、日産の場合は3年契約で月額4950円(税込)の「プレミアム20」に加入する必要がある。このプランは10分間の急速充電を20回できる(それ以上は330円/10分間)。出力50kWの急速充電器で実際に充電できるのは、ざっと45kWh/1時間。10分間に直せば7.5kWhだ。20回分なら150kWh分だ。
150kWh分が4950円なら33円/1kWhだ。普通充電の1割増しになる。
BEVの走行コストを複雑しているのは、充電プランだけではない。インフラ側の急速充電器の性能によっても単価が大きく変わるのだ。もしロスがゼロなら理論的には
出力90kWの急速充電器 15kWh/10分間
出力50kW 8.3kWh/10分間
出力30kW 5kWh/10分間
出力20kW 3.3kWh/10分間となる。
当然単価もまったく違ってくる。ガソリン・軽油価格はガススタンドによって価格差があったとしても、±15%程度だろうが、急速充電の場合は、急速充電器の出力によって3~4倍違うことがある。
さらに難しくしているのは、車載側、つまり受け入れ側の充電器の性能も大きく影響することだ。
たとえば、日産アリアB6(車載充電器の性能130kW)と日産サクラ(同じく30kW)を同じ充電スタンド(首都高大黒PA)で30分間充電した場合に実際に充電できたのは
日産アリア:29.2kWh
日産サクラ:10kWhだった(表を参照)。充電できた電力量は3倍違うが同じプランならコストは同額だ。
充電に使用した大黒PAの急速充電器は最新のもので、最高90kWの能力を持つ。充電した状況では他にクルマがいなかったので、フルに充電器の能力が使えるはずだった。だとすると、アリアなら40kWh程度は充電できるはず、と思っていたのだが実際は29.2kWhだった。その理由を後日、日産広報部に問い合わせてみると、以下の回答を得た。
「大黒PAの急速充電器はe-Mobility Powerの6台設置でパワーシェアのものです。この充電器は連続定格125A、短時間定格(ブースト)で200Aの能力で、充電のシェア状況によって出力がそれぞれ変わってきます。今回は1台での充電と想定して回答いたします。ブースト時間は15分、平均バッテリー電圧360Vで充電と仮定すると、15分ずつで、360V x 200A x 1/4 Hour + 360V x 125 x 1/4 = 29.2 kWh となります。温度影響がなくても充電量は妥当であると推察します」
急速充電も条件によって時間当たりで充電できる量が違う
なかなか複雑だ。ガススタンドなら、リッターいくら、と単価が明示されていて明朗会計となるが、BEVの急速充電だとそうはいかない。すべてを普通充電で賄えば、間違いなく走行にかかるエネルギーコストはガソリン/ディーゼル車より安く済むが、急速充電という要素を少しでも混ぜてしまうとコストは一気に上昇する。問題は、急速充電の料金体系が「時間制」だからで「従量制」になれば、明朗会計にはなる。しかし、そうなると急速充電器を設置する事業者は、普通充電の30円/1kWhではまったく割が合わないので、おそらく100円/1kWhの価格設定でもペイしないだろう(詳しく試算したわけではないが)。つまり、充電インフラは現状のようにさまざまな補助金や助成制度がないと成立しないし、普及しない。
かくして、現在の「電気自動車の家計簿」は、不確定要素が大きい。BEVの走行にかかるコストを下げるには、「普通充電が基本。やむを得ず急速充電を使う場合は、自車の充電器の能力とインフラ側の充電器の出力、そして自分が加入している充電プランを考え合わせて行なうこと」が必要だ。電気は生モノ、時価ということである。