新型エクストレイルの走行感は完全に電気自動車だ!【新型エクストレイル 深掘り解説&試乗コラム】

VCターボエンジンを初搭載したe-POWERの採用で一気にアップデートされた新型エクストレイルは、四駆機構e-4ORCEも含め技術的な見どころいっぱいの新世代SUVだ。初代エクストレイルに愛車として24万キロ乗ったという著者が公道試乗でその実力を試した。
REPORT:安藤 眞(ANDO Makoto) PHOTO:中野幸次(NAKANO Koji)

脱炭素時代に向けて大きな一歩を踏み出した四世代目

全長4660mm×全幅1840mm×全高1720mm。ラギッドなスタイリングでボリューム感が増したように見える新型エクストレイルだが、意外なことに全幅以外は旧型モデルを下回る数値だ。

SUVの人気がオフロード系から都市型へと向かい始めた20世紀末、乗用車のプラットフォームを使用しながら、オフロード系のような荒っぽい使いかたができることを売りにした“タフギヤ”としてデビューしたエクストレイル。

僕は初代T30型に約24万km乗り、降りる頃にはサイドシルは凹み、後席のドアハンドルは片側がもげかかる(ルーフキャリヤから転げ落ちた鉄パイプが直撃)という満身創痍状態になっていたが、タフギヤぶりを存分に発揮してくれた。

その後、北米で人気が出たことから、3列シートになったり上質感を追求したりと路線が変わってしまったが、22年に新型となったT33型は、少しワイルドさが戻ってきた。一方で、全グレードがシリーズ式ハイブリッドシステムの“e-POWER”になり、脱炭素時代に向けて、大きな一歩を踏み出してもいる。

e-POWERとは、エンジンは発電に徹し、その電気でモーターを駆動するシステムだが、発電用エンジンの技術が凄い。クランクシャフトとコンロッドの間をシーソー運動するリンクで結び、シーソーの反対側の位置を動かすことで、圧縮比を8〜14の間で可変させるVCR 機構を採用する。

エンジンは発電のみに使用されるe-POWERだが、エクストレイルの1.5Lエンジンは圧縮比可変機構を世界初搭載するという代物。

パワーが不要な領域では、圧縮比を14に高めて燃費を稼ぎ、アクセルが深く踏まれると、圧縮比を8まで落としてターボで過給し、1.5Lの排気量から250Nmというトルクを引き出す二刀流エンジンだ。ここでは詳しい話は書けないので、ぜひモーターファン別冊ニューモデル速報 第624弾「新型エクストレイルのすべて」をご参照願いたい。

駆動方式も4WDは後輪を専用モーターで駆動する電動4WDの“e-4ORCE”。前輪に150kW、後輪に100kWのモーターを装備し、駆動力を100:0〜30:70の間で自在に制御する。FFをベースにクラッチで後輪にトルクを伝えるシステムでは、後輪リッチになる制御はできないが、このシステムならそれが可能になり、より幅広い領域で運動性能を高めることができる。

プラットフォームはアライアンスグループ(日産・ルノー・三菱)で共用するCMF-C/Dで、車重2トンを超える三菱アウトランダーPHEVにも展開される。文字通りタフなプラットフォームだ。

235/55R19インチを履く。銘柄は韓国ハンコック社の「Ventus S1 evo3 SUV」だ。

走行騒音は条件の悪い一般公道でも十分静か

テストコースでの試乗の際に、その静かさに驚かされたエクストレイルだが、ようやく一般道で試す日がやってきた。試乗車は最上級Gグレードの4WDモデルだ。

スタートスイッチを押すと、システムはスタンバイ状態になる。前後スライド式のスイッチ式シフトノブを操作してDレンジに入れる。操作ロジックはノートなどと同じなのだが、日産独自なので、慣れるまではちょっと戸惑う。

ボリューム感があり、高い質感も備えたインストルメントパネル。

発進から低速走行領域では、電池がある間はエンジンはかからない。走行感は完全に電気自動車だ。アクセルを踏めば、即座にクルマは前に押し出される。エンジン車の場合、トルクコンバーターがロックアップされない低速ではスリップ感が拭えないが、そうした遅れはまるでない。「シフトスケジュールが感覚と合わない」ということがないのも、電動車の良いところだ。

走行騒音は、一般道でも静か。試乗コースは路面の粗さが頻繁に変わる箇所があるのだが、そうした場所でもロードノイズの変化は小さい。装着タイヤは韓国ハンコック社のVentus S1 evo3 SUV。指定空気圧が前後とも250kPaと高めで、235/55R19という薄いサイズなのに、ジョイント通過時でも硬さはないし、腰がしっかりしていて減衰感も良い。

シャシー剛性が高く、サスペンションがよく仕事をしているという側面もあるだろうが、日本や欧州のトップブランドと比べても、劣るところは感じない。

車速を上げていくと、40〜50km/hぐらいでエンジン音が聞こえてくる。といっても、耳を澄ますと遠くでプロペラ飛行機が飛んでいるような音がしているように感じる程度だ。ただし、アクセルオフでEV走行を誘っても、エンジンは止まらないことが多いし、回生に入っているのにエンジン発電していることもある。何度か自分でEV走行をコントロールしようと試みたが、徒労に終わった。システムを操ろうとは思わず、システム任せで走るのが正解のようだ。

気になった点も三つ挙げておく

まず急ブレーキ時の初期制動感だ。交差点直進時に、強引に右折してくる車両があり、急ブレーキを踏まされる場面があったのだが、その際に初期の踏みごたえが曖昧で、「ホントに止まれるのか!?」とヒヤリとするシーンがあった。実際にはきちんと減速でき、衝突軽減ブレーキを作動させることなく回避はできたのだが、ベンツEQCで似たようなシーンに遭遇した際の絶大な信頼感に比べると、改善の余地はあると言えそうだ。

ふたつ目は、衝突軽減ブレーキが不要なシーンで作動したこと。撮影に使用している公園の出入り口には、幅2.4mくらいの間隔で鉄柱が立ててあるのだが、徐行で通過したにもかかわらず、非常ブレーキが作動することが1回あった。

三つ目は、車両接近警報音がけっこう車内で聞こえること。音を鳴らすか否かは車速にのみ依存しているので、聞かせるべき対象がいない場面でも、終始音が出ている。これはエクストレイルだけの問題ではないが、最近のクルマには360度全方位を把握するセンサーが付いているのだから、必要なときだけ鳴らすようにすることもできるのではないか。

最後に燃費を報告。いつものコース(郊外の市街地を含む一般道9.6km)を走って17.6km/lと、モード燃費の96%弱は立派だが、画期的エンジン+ハイブリッドなら、ライバルを蹴散らすぐらいの数字が欲しい。

タフギア感が増したスタイリングも新型エクストレイルの魅力だろう。
日産 エクストレイル G e-4ORCE


全長×全幅×全高 4660mm×1840mm×1720mm
ホイールベース 2705mm
最小回転半径 5.4m
車両重量 1880kg
駆動方式 四輪駆動
サスペンション F:ストラット R:マルチリンク
タイヤ 235/55R19

エンジンタイプ 水冷直列3気筒DOHC 
エンジン型式 KR15DDT
総排気量 1497cc
最高出力 106kW(144ps)/4400-5000rpm
最大トルク 250Nm(25.5kgm)/2400-4000rpm

フロントモーター BM46
最高出力 150kW(204ps)/4501-7422rpm
最大トルク 330Nm(33.7kgm)/0-3505rpm

リヤモーター  MM48
最高出力 100kW(136ps)/4897-9504rpm
最大トルク 195Nm(19.9kgm)/0-4897rpm

燃費消費率(WLTC) 18.4km/l

価格 4,499,000円

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著者プロフィール

安藤 眞 近影

安藤 眞

大学卒業後、国産自動車メーカーのシャシー設計部門に勤務。英国スポーツカーメーカーとの共同プロジェク…