脱・温暖化その手法 第56回 ―太陽光発電の土地をどうするか その3 漁業との融合―

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Ellica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

内湾での発電をしっかりと考えてみる

前回、前々回と太陽光発電を行なうための土地の確保をどうするかについて、林業及び農業との融合について述べた。

日本は海に囲まれているため、内湾の面積もかなり大きい。ここにパネルを浮かべることでも大きな発電ができる。

内湾は沿岸漁業、養殖、船の航行に使われている。

日本の内湾の総面積は3.6万km2である。国土面積が38万km2であるから、その約1割の面積となる。但しこの面積の中には相模湾のように外洋に広く開けているところもある。

パネルを水上に敷設するという考え方は、普通に誰でも思いつくことである。その当たり前のことでも、太陽光発電をやることについての現実性はどうかを検討したい。

まず前提としては、何回目か後に紹介するフレキシブル太陽光パネルを用いることを前提にする。このパネルは0.05mm厚のチタンに数ミクロンの太陽電池材料がコートされ、かつ、このパネル全体が防水性なので比重は1を少し上回る。これを水に浮かせるためには比重を1以下にすることが必要で、フレキシブルな発泡材を薄く貼り付けることにする。これを広く形成して水面に浮かべてパネル間を結線することで発電を行なうものとする。

フレキシブル太陽電池のイメージ図
軽量で、曲げることが可能な太陽電池。整地されていない地面や田圃、波で
変形する海の表面にも設置することが可能。

太陽光パネルを内湾の比較的波の穏やかなところに浮かせることで、大量の発電ができるが、考慮すべきは養殖漁業、沿岸漁業および船舶の航行の妨げにならないことである。それとともに台風や嵐によってパネルが破壊されるが、これらのないことも重要である。

まず、養殖漁業を見たい。養殖漁業には魚類、貝類、そして海苔に代表される海藻類があるが、これらの生産量は2022年の農林水産省からの公表データで2020年の統計で98万トンあり、これらの生産額が2020年の統計で4400億円で、利用している面積は26 km2である。内湾の面積に比べると無視できるほど小さい。 
 沿岸漁業はその売上げは7800億円であり、内湾全域が近海漁業の漁場となっている。航路は東京湾のようなところでは網目のように張り巡らされているが、他の内湾ではかなりまばらである。

こうして見ると内湾の総面積に比べて養殖漁業で使われている面積はごくわずかであるし、航路として是非とも必要な面積も限られている。これらの想定から太陽光パネルの設置には内湾の3分の1の約1.2万km2を用いるものとする。すると年間の発電量は1.2兆kWhとなる。

また漁業従事者は2021年の統計で約13万人であり、その大半は養殖と沿岸漁業に従事している人々である。

漁業との融合のイメージ図
海水面上にフレキシブルなパネルを浮かせ、パネル間をケーブルで繋ぎ、
高電圧を作る。絶縁には特に注意する。パネルが移動しないようにアン
カーを付ける。

漁場の保守には慎重な調査が必要

内湾にパネルを設置する時の最も大きな問題となり得るのは、湾内で漁業をする人々の漁場を荒らさないかということである。内湾の約3分の1にパネルを敷設することによりその下の海面に光が行かなくなる。これによって魚の生態系にどのような影響があるかは恐らく誰もが未知の分野である。このために内湾にパネルを置くことについては慎重に研究し、影響を十分に把握した上でということになるが、仮説として、ここでは内湾の約3分の1の面積にパネルを設置することで漁業への影響は大きくはないと考えたい。設置は複数のパネルを直列に繋いだ上で高圧とし、この電力を湾岸に設置する電源設備まで送電する。その送電距離は海岸までの最大数kmとなる。

台風や嵐でパネルが流されないようにするために、海底まで、あるいは水中のかなり深いところまでアンカーを取り付ける。

またパネル間を繋ぐケーブルの特にパネルとの接続があるところでは完全な防水とし、かつこれが海水により腐蝕しない構造と材質とする。

こうして太陽光パネルと漁業の融合ということになるが、発電する電力の利益を2円/kWhとすると、1.2万km2の面積で2.4兆円になる。

漁業での売上げは年間1.2兆円であったから、この金額の約2倍の利益がパネルの設置で生まれる。パネルの設置者は公的機関の関連か、電力会社等の大きな資本が投下できるところになる。その保守のために漁業者には利益が分配されるものとする。漁業と太陽光発電の融合で最も難しいのは、内湾内の沿岸漁業の漁場と、パネル設置場所の取り合いである。ここの調整には、行政が深くかかわることが重要である。

漁業地域に収入が増え地域の発展にも貢献

結果として、林業、農業との融合と同様に漁業者にとっても大きな収入源となる。

現在漁業は高齢化が進み、若い働き手で新たに就業する人々は減っている。

もし太陽光発電との融合で収入が大幅に増えることになれば、漁業に従事しようという人口も増えてくる筈だ。

ここまで、太陽光発電には広大な面積が必要であることと、そのためには林業、農業、漁業の第1次産業との融合が有効であることを述べてきた。

これにより日本で必要なエネルギーがまかなえるし、第1次産業で働く人々の収入も大幅に増やすことができ、そのおかげで、この分野で働く人々が増えて来ることになる。

過疎化に悩む日本であるが、その理由は地域での収入を得ることが難しいためであって、太陽光発電との融合がこの問題の改善にも大いに役立つことになる。ここまでは第1次産業と太陽光発電の融合について述べてきた。次回は視点を変えて、空中を利用する可能性について述べたい。

2003年、東京モーターショーへのEliicaの展示 その2
この展示では、慶応大学全体から70人の学生が参加してくれた。そのとり
まとめをしてくれたのが電気自動車研究室の約30人のメンバーだった。展
示会場の設営、パンフレット等の配布物の制作、映像制作、広報、展示の
説明を行うMCの練習と、実演などの展示のすべてを学生の力で行った。お
かげで多くの入場者が足を止めてくれた。

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著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…