クラウンスポーツは、なぜトヨタマークが小さいの? カッコ良さの秘密は?

クラウンスポーツがカッコよく見える秘密をデザイナーに訊く。プラス40mmのボリューム感が素晴らしい

なんともボリューミーでなまめかしいクラウンスポーツのリヤセクション
プロトタイプの取材会が行なわれたクラウンスポーツ。シリーズきってのスポーティ&エモーショナルなモデルとなるクラウンスポーツ。実車を目の前にすると、そのカッコ良さ、ボリューム感、新しさに圧倒される。エクステリアデザインを担当した小出幸弘MSデザイン部グループ長にデザインの「キモ」について訊いた。
TEXT:世良耕太(SERA Kota)PHOTO:山上博也(YAMAGAMI Hiroya)

クラウンスポーツのデザインはリヤから生まれた

クラウンスポーツのエクステリアデザインを担当した小出幸弘さん(トヨタ自動車Mid-Size Vehicle Company MSデザイン部グループ長)

クルマのデザインはフロントから手を付け始め、サイドに移り、リヤに向かって進めていくのが一般的だ。ところが、クラウン(スポーツ)は、「リヤから生まれている」という。その理由を、エクステリアデザインを担当する小出幸弘氏は次のように説明する。

「外形開発をするときはまず全体を考えたり、フロントから絵を描いたりするのですが、クラウン(スポーツ)の場合はリヤから生まれています。『リヤのしっかりしたかたまりがいいね』というところから始まり、そこを起点に、フロントはどうしたらいい、サイドはどうしたらいいという流れを生み出していきました」

上がクラウンスポーツ(全幅1880mm)下が左からクラウンクロスオーバー(全幅1840mm)クラウンエステート(全幅1880mm)、クラウンセダン(1890mm)

クラウン(スポーツ)の全幅は1880mmで、クロスオーバーより40mm広い。片側20mmずつだが、リヤドアからリヤフェンダーにかけての張り出しは、20mmという数字から想像する以上にボリューム感にあふれ、大胆だ。

「キャビンはグッと締まっているいっぽうで、リヤはガンと出ている。その落差に非常にこだわりました。リヤのドアハンドルあたりを(内側に)入れることで、張り出しをより強調しています。(内側に)入れるところは入れ、出すところは出すことで、実際の幅以上に張り出しを感じます。そこにはもうひとつポイントがあり、鉄板のプレス技術をものすごく頑張ってやってもらい、艶やかさを出しました」

ボリューム感に溢れるリヤフェンダー部分。プレスが難しかったという。
クラウンスポーツのデザインはリヤが出発点だと説明する小出さん
最高レベルのプレス技術がこのデザインを可能にしたという

生産技術の限界に挑むプレス技術がデザイナーの想いを現実にした

これまでも生産技術系の部署と一体となって開発に臨んできたつもりではあるが、クラウン(スポーツ)に関してはより意識して臨んだという。

「クロスオーバーもそうなのですが、結構早い段階でプレスの人たちにデザインに来ていただき、クレイモデルをしっかり見てもらいました。すると、『こういうことがしたいんだ。カッコイイね』と、みんなで意識を共有し、同じ方向を向くことができる。過去にはデザインの意図がプレス側にうまく伝わらないことがありました。今回は難しいデザインを実現するために、全員がひとつの方向に向くことにこだわりました」

大きく張り出したリヤフェンダーや、張り出しと入り込みがなだらかにつながるリヤドアを設計どおり、プレスで再現するのが難しかったという。

「プレスしてもデータどおりにはならない。そのあたりを現場で調整していただき、なんとかここまでできたという感じです。まさに職人技ありきです。トヨタで長年受け継がれている伝承があり、そこに新しい技術が加わることで、こうした立体感のある形状ができるようになった。はっきりしたキャラクターラインを入れるクルマが多いのですが、このクルマは線をあまり入れていない。リヤのドアハンドルの下を通るラインは前に向かって変化し、消えていく。このあたりの加減はクレイモデルとデータ、プレスで作ったものを比べながら地道に調整していきました」

トヨタマークが小さい理由

トヨタマークの小ささがわかるだろうか。

艶やかなパネルが映し出す光や景色の変化を存分に味わってもらおうと、バックランプやADAS(先進運転支援システム)のセンサー類などの機能部品は、外板パネルに設置せず、フロントとリヤに設けた黒い帯の中に収めている。

小さいながらも目を引くのがリヤのトヨタバッジで、4眼のリヤコンビネーションランプを結ぶ黒い帯の中央に、腕時計の文字盤程度のバッジが鎮座している。

「リヤの4眼はアスリート時代からのアイデンティティです。それを現代風にアレンジした際、左右をつなぐ部分は薄くしたかった。その薄い中になんとか収めたかったのです」

最近のレクサス(RXなど)のように、リヤはバッジなしとし字間広めの英文字を配置するという選択肢は検討したのかという質問に対し、小出氏は「ケースバイケースです」と返答した。

「(スポーツの場合は)トヨタブランドを大事にしたい思いがありました。コーポレートマークなので難しいところはあったのですが、みんなで議論し、現在の形に落ち着きました。黒い帯からはみ出してしまうと外板面に浸食してしまうので、細い帯の中に収めようと。遠目ではわかりづらいかもしれませんが、近寄ると『ある!』とわかる感じです」

ちなみに、このトヨタバッジ、バックドアのオープナーを兼ねているわけではなく、純粋にバッジである。オープナーはバックドアの下端裏側に隠れている。

ボンネットフードはアルミ、バンパーは樹脂、フロントフェンダーはスチールという異素材が集まるセクション。
大径タイヤもデザインの重要ポイント

大胆に張り出したリヤに目を奪われがちだが、実はフロントセクションも全幅いっぱいに張り出している。スポーツは「足まわりを強調する」考えのもと、フロントフェンダーにも張り出しを持たせた。ボンネットフードとハンマーヘッドのライティングとのつながりも気を配った部分だ。

「実は、ここが一番苦労した部分かもしれません。ボンネットの中央寄りは割りとシャープな面質をしています。いっぽうで、(ハンマーヘッドの)目頭にかけては艶やかな面とし、シャープな面と艶やかな面を融合させています。そのつなぎがデザイン上のポイントで、なかなか苦労しました。艶やかで動きがあるけど、キャラクターラインを多用して構成するのではなく、シンプルに作り込んでいます。ここも見どころのひとつです」

ボンネットフードはアルミ、フェンダーはスチール、フロントバンパーは樹脂だ。異なる材料がデザイナーの意図通りの形で製作され、寸分違わず組み合わさってシャープで艶のある、見どころたっぷりの造形を生み出している。クラウン(スポーツ)のエクステリアデザインは前から後ろまで、見どころたっぷりだ。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…