ル・マン100周年記念大会がついに開幕!王者トヨタとライバルの『ハイパーカー』を一挙紹介【ル・マン24時間初心者向け解説】

TOYOTA GR010 HYBRID
トヨタはGR010 HYBRIDでル・マン6連覇に挑む。
耐久レースの代名詞、ル・マン24時間レースの本格的な走行が6月7日に開始。初開催からちょうど100年となる2023年、最高峰カテゴリーである『ハイパーカークラス』にLMH規定車両のほか、LMDh規定車両が参戦できるようになり、近年では一番の盛り上がりを見せている。この記事では王者トヨタを始め、同クラスで総合優勝を争うマシンを簡潔に紹介する。

100周年のいまがル・マンの最高期

世界3大レースのひとつに数えられるル・マン24時間レース(以下ル・マン)が、フリープラクティスが実施される6月7日に開幕した。1923年に初開催された耐久レースの代名詞は、大会100周年の節目に黄金期を迎えようとしている。
今年のル・マンには、賞典外の特別参戦車両も含めて62台がエントリー。総合優勝は、FIA世界耐久選手権(WEC)の最高峰『ハイパーカークラス』のマシンによって争われる。そしてこのクラスでは今年、大会5連覇中のトヨタに対し、欧米の自動車メーカーが戦いを挑むという構図となっている。

ポルシェ963
2023年のWEC/ル・マンにはポルシェがLMDh車両の963で復帰を果たしている。

ふたつの技術規則を採用

ハイパーカークラスは2021年、その前年までのLMP1に代わるWEC/ル・マンの最高峰クラスとして創設された。昨年までは原則、その名を取り入れたLMH(ル・マン・ハイパーカー)規定車両によって競われていたが、今年からはLMDh(ル・マン・デイトナh)規定車両もエントリーできるようになった。なお、技術規則や車両特性の異なるマシンによる競争を成立させるために、主催者は各車両に性能調整(性能の高いマシンの最低重量を重くする。トヨタは34kgのウェイトを積む)を施し、パフォーマンスの均衡化が図られる。


LMH規定はFIA(国際自動車連盟)とACO(フランス西部自動車クラブ)が作った技術規則で、2021年に導入された。コンストラクターはこの技術規則の下、公道を走行可能なハイパーカーの競技仕様車両、あるいはプロトタイプカー(レース専用車両)を製作。プロトタイプカーでも外観を“ハイパーカー風”に仕立て上げることで、それぞれのブランドイメージを前面に押し出したマシン作りが可能だ。ハイブリッドシステムの搭載が可能(義務ではない)で、独自開発も認められている。
2021年の発足当初、このレギュレーションに則って作ったマシンを走らせていたのはトヨタとグリッケンハウスのみだったが、昨季途中からはプジョー(ル・マンは欠場)が、今季からはフェラーリとヴァンウォールが参入を果たした。


一方のLMDhは米国のIMSA(国際モータースポーツ協会)が、DPiに代わる新トップカテゴリーとして創出したもの。マシンをイチから作るLMHとは異なり、LMDhは次世代LMP2シャシーをベースとする。また、モーターやバッテリーといったハイブリッドシステムなどは全車が共通したものを使用することが義務付けられる。メーカーが独自開発しなければならない領域を狭くすることで、低コスト化が図られているが、ボディワークについてはメーカーが独自にデザインすることが可能になっており、それぞれの色を打ち出すことができる。
現時点でLMDh車両を実戦に投入しているのは、キャデラック、ポルシェ、BMW、アキュラの4ブランド。このうちキャデラックとポルシェが今季のWEC/ル・マンにエントリーしている状況だ。


自動車メーカーにとっては魅力的なふたつの技術規則を採用したことにより、今年はハイパーカークラスの規模が拡大。昨年のクラスエントリー数は3車種5台のみだったが、今年は7車種合計16台へと増加した。また参戦メーカー数も2社から5社と大幅増を果たし、ル・マンは再び名実ともにメーカーの威信をかけた競争の場となったのだ。
そこで本記事では、この記念すべき大会で覇を争うハイパーカーたちを簡潔に紹介していく。

TOYOTA GR010 HYBRID

トヨタGR010HYBRID
GR010と昨年から車名に変更はないが、車体の各所が刷新されている。

トヨタは先述のとおり、2021年のハイパーカークラス創設当初から継続参戦。同年からWEC/ル・マンを戦うLMH車両のGR010 HYBRIDは昨年までル・マン連覇を達成。今季ここまでのWECでも3戦全勝とライバルを圧倒している。2023年仕様ではボディワークがアップデートされており、操作性と空力安定性が向上された。エンジンは3.5L V6ツインターボで520kW/707PSを発生。また、リチウムイオン電池を備えたハイブリッドシステムの出力は200kW/272PSとなっている。エンジンで後輪、モーターで前輪を駆動する。

PEUGEOT 9X8

プジョー9X8
競技車両にはお決まりとも言えるリヤウイングを持たず、特徴的なエクステリアとなっている9X8。

プジョーは2022年のWEC第4戦モンツァ(イタリア)でLMH車両の9X8をデビューさせた。このマシンの最大の特徴は、ライバルたちとは異なり、リヤウイングが装着されていないこと。ウイングの代わりに左右リヤフェンダーの後端にフラップが設けられており、ここが角度調整可能な造りとなっている。エンジンは2.6L V6ツインターボ。トヨタなどと同様ハイブリッドシステムを搭載しており、バッテリーはプジョー・スポールと、F1向けのバッテリーも手掛けるサフトと共同開発されたものを採用する。WEC参戦2年目を迎えているが、成績的には参戦初年度のフェラーリの後塵を拝している。

FERRARI 499P

フェラーリ499P
499Pはデビューイヤーながら王者トヨタを上回る速さを見せるときもある。

フェラーリがLMHマシンとともに、50年ぶりに耐久レース最高峰に戻ってきた。499Pは往年の名車312Pにちなんだ名前で、“499”はエンジン1気筒あたりの排気量、“P”はプロトタイプを意味するという。車両後部に搭載される2.9L V6ツインターボは、フェラーリの新型GT3車両296 GT3をベースにしており、500kW/680psを発生。ハイブリッドシステムのバッテリーには、フェラーリがF1で培った経験が活かされている。デビュー戦となった今季のWEC開幕戦セブリングではいきなりポールポジションを獲得するなど速さを見せた。

GLICKENHAUS 007

グリッケンハウス007
グリッケンハウスはプライベーターながらハイパーカーカテゴリーを支え続けている。

グリッケンハウス・レーシングは、アメリカの映画監督で自動車収集家のジム・グリッケンハウスが立ち上げたチーム。トヨタ以外で唯一2021年のハイパーカークラス創設当初からLMHマシンで継続参戦している。007はトヨタなどと異なりノンハイブリッド。エンジンはフランスのエンジンコンストラクターであるピポモチュールが手掛けた3.5L V8を搭載する。今季開幕戦セブリング(アメリカ)ではノーポイントだったが、その後2戦は連続入賞を果たしている。

VANWALL Vandervell 680

ヴァンウォール・ヴァンダーヴェル680
見た目はモダンなヴァンダーヴェル。しかし中身は旧式というウワサも……。

近年のWEC/ル・マンの最高峰クラスにプライベーターとして参戦してきたバイコレス・レーシング。彼らはハイパーカークラス参入を主催者側に一度“却下”されたものの、今年自前のLMH車両ヴァンダーヴェルを携えて耐久レース界最高峰の舞台に復帰を果たした。F1の初代コンストラクター王者の名前『ヴァンウォール』の名を関したマシンは今季開幕戦セブリング(アメリカ)で8位入賞を果たしたが、その後はノーポイントが続いている。

CADILLAC V-Series.R

キャデラックVシリーズR
実はVシリーズRもコンセプトスケッチ段階ではリヤウイングレスだった。

北米のIMSAウェザーテック・スポーツカー・チャンピオンシップの最高峰DPiクラスに参戦していたキャデラックは、後継のGTPクラス、さらにWEC/ル・マンのハイパーカークラスにLMDhマシンV-Series.Rを投入した。ベースとなるシャシーはダラーラ製を選択。エンジン形式はDPi時代と同様5.5L V8NA。ポルシェなどLMDhのライバルは既存のエンジンをベースにしている一方、キャデラックはハイブリッド化にともないエンジンを新たに設計し直している。

PORSCHE 963

ポルシェ963
ポルシェは新車の963で通算20回目のル・マン制覇に臨む。

ポルシェがル・マンの総合優勝を争えるクラスに戻ってくるのは、LMP1クラスから撤退した2017年以来のこと。LMDhマシンである963のベースはマルチマチック製。これは2015年からル・マンを3連覇を果たした919ハイブリッドや、GTE車両の911 RSRなどのダンパーで関係が深かったことが影響しているという。エンジンは4.6L V8ツインターボだが、これは市販車の918スパイダーのエンジンを元にターボ化したもの。

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著者プロフィール

上坂元 宏樹 近影

上坂元 宏樹

メジャーリーグなどアメリカンスポーツ関連ニュースの翻訳業務を経験した後、2016年10月にモータースポー…