ホンダ・フィットRSは操舵感も走行感も滑らかで、気持ちの良い走り! 【フィット e:HEV RS プチ試乗】

フィットに追加された「RS」に試乗した。フィットが持つ懐深さを残しながらスパイスを効かせた乗り味は、どんな印象をもたらしたのか。
REPORT:安藤 眞(ANDO Makoto) PHOTO:井上 誠(INOUE Makoto)

ロードセイリングの名のごとくすっきり爽快

ホンダ“フィット”といえば、コンパクトカー随一のマルチプレーヤー。全長約4mという小さなボディサイズながら、ガソリンタンクを前席下に搭載する“センタータンクレイアウト”のおかげで、後席をたためば大きな荷物が積めるだけでなく、体格次第では車中泊もできてしまう(メーカーの車中泊提案サイト=https://www.honda.co.jp/outdoor/stay-car/fit/)。

SUVテイストのクロスターを除きフィットの全長は3995mmだが、RSのみ4080mmに延長されている。この大型バンパーとフロントグリルの存在は、フィットのスタイルを「おとなし過ぎる」と感じている人にはちょうど良いのでははいか。

今回はそんなフィットの中から、“e-HEV RS”グレードを試乗車に選択。1.5Lエンジンと2モーターを組み合わせたハイブリッド・パワーユニットを搭載する。ラインナップ中、もっともスポーティなグレードだが、“RS”はポルシェのようなRacing Sportではなく、Road Sailing。目を三角にして速く走るのではなく、ヨットで帆走する滑らかな走りをイメージしている。

フィットのハイブリッドも2モーターとなり、十分な余裕を手に入れた。

運転席に座って「おっ!」と思ったのが、シートの大きさと包まれ感の心地よさ。座面も背もたれも、樹脂マットをバネで吊って体重を分散支持する構造を採用しており、骨盤の安定性も上半身のホールド性も申し分ない。表皮はRS専用で、ステアリングホイールとコーディネートした黄色いステッチの入ったものだが、中身はグレード間で違いはないので、どれを買ってもこの快適さが手に入る。

RSでも、室内に派手な演出はない。イエローステッチが特別感をさりげなく演出する。

メーターパネルは7インチのフル液晶。表示のデザインはソフトウェア次第でいかようにもできるが、あえて必要な情報だけのシンプル表示を選択している。それでいて外の明るさに応じて表示の輝度を変える“連続可変調光”を採用するなど、液晶のメリットを活かした高機能化も行われている。

スッキリとモダンな印象のインパネは、フィット自体の特徴だ。

ステアリングコラムの右横にあるPOWERスイッチを押してシステムを起動。当然ながら、エンジンはかからない。この日の外気温は24℃だったので、エアコンは23℃にセットする。エアコンも電動式なので、エンジンが止まっていても冷気が出る。

セレクトレバーを“D”に入れて発進。パーキングブレーキは電動なので、アクセルペダルを踏むだけで自動的に解除される。ちなみにホンダの電動パーキングブレーキは緊急停止機能も持っており、ドライバーが意識を失うなどの緊急時には、同乗者がパーキングブレーキスイッチを引き続ければ、ESCと協調しながら緊急停止させられる。

小気味良く響くエンジン音が走りのスパイスに

エンジン音がまったくしない車内は静か。ロードノイズは聞こえるが、レベルはそれほど高くはない。路面の変化による音の増減も、コンパクトカーとしては上出来だ。タイヤはRS専用に開発された横浜ゴムのBluEarth-GT AE51。サイズは185/55R16と、エアボリュームもほどほどにあり、指定空気圧は前240kPa/後230kPaと極端に高くはしていない。タイヤの転がり感はスッキリ滑らかだ。

ヨコハマのBluEarth-GTは、RS専用開発だ。55扁平16インチのサイズは、上級グレードのLUXEと共通。

サスチューンはほどほどの引き締まり感があるが、欧州車ほど絞めてはおらず、あえて言うなら欧州車“フレーバー”。バウンス方向にはそれほど硬くはなく、左右にねじれた路面で少しヒョコっとするので、スタビを締めて減衰力を上げたのではないか。前後コンプライアンスは大きめな感じで、突起通過時には少しブルっと身震いする。

操舵感はスッキリしており、ロールも小さい。街中のカーブや交差点でも「なるほどこれが“Sailing”感か」というのは伝わってくる。ワインディングに持ち込めば、ヒラリヒラリと舞う感じになるのではないか。

そんなシーンで役に立ちそうなのが、RS専用に装備されるパドル式の減速セレクター。パドルを引くことで、回生ブレーキの強さが4段階に調整できる。フットブレーキも回生協調式なので、パドルを引いても回生量が増えるわけではないが、コーナー進入時に荷重移動のきっかけが作れ、旋回プロセスのリズムが良くなる。

EV走行からエンジンが始動するタイミングは、バッテリーの充電状態に依存するため、20km/hぐらいでかかることもあれば、50km/hぐらいまでかからないこともある。ベースがシリーズ式ハイブリッドなので、エンジン始動時にショックはないが、音と振動でそれとわかる。同時にメーターからもEVの表示が消え、瞬間燃費表示のバーが右から左へと急減する。

エンジン振動はゴロッとした感じで、空気伝播より固体伝播が多い印象。ノートe-POWERが「どこか遠くでプロペラ飛行機が飛んでいる感じ」なのに対し、フィットは明確にエンジンルームでエンジンが回っている感じが伝わってくる。

彼我の差がどこから来るのか考えて思いあたったのが気筒数。ノートは3気筒で、フィットは4気筒だ。3気筒エンジンは爆発間隔が長いので、燃焼音の周波数が低いし、機械的な振動では二次振動が発生しない。一方でフィットは4気筒なので、トルク変動に起因する振動の周波数はノートの1.33倍。しかもその2倍の周波数で二次振動が発生するから、全体に振動の周波数が高く、音や振動が誤魔化しにくいのではないか。

とはいえ、グレードがRSならば、エンジン音は走りのスパイスにもなる。アクセル高開度時には有段AT的にエンジン回転数が変わるので、ちょっと元気に走る際の演出としては、音の存在は悪くはない。

エンジンの存在を感じさせるというのも、今や嬉しいポイントだ。

ということで、フィットe:HEV RS は総じて好印象。操舵感も走行感もスッキリ滑らかで、バランスの良いクルマだと思う。特に走りに興味のない人は、うねった路面でヒョコつき感が気になるかもしれないが、そういう人は他のグレードを買っても十分、満足できると思う。ステアリングヒーターが最上級グレードにしか付かないのは残念だけれど。                                                            

ちなみに燃費は、9.7kmの試乗で28.9km/l。渋滞のない郊外路だったこともあり、WLTCの「郊外モード」(29.0km/l)とほとんど同じ数値となった。ヤリスのような30km/l越えは難しそうだが、燃費性能はノートと同等かそれ以上ではないかと思う。

ホンダ フィット e:HEV RS
全長×全幅×全高 4080mm×1695mm×1540mm
ホイールベース 2530mm
最小回転半径 5.2m
車両重量 1210kg
駆動方式 前輪駆動
サスペンション F:マクファーソン式 R:車軸式
タイヤ 前後:185/55R16 

エンジン種類 水冷直列4気筒横置
エンジン型式 LEB
総排気量 1496cc
内径×行程 73.0mm×89.4mm
最高出力 78kW(106ps)/6000-6400rpm
最大トルク 127Nm(13.0kgm)/4500-5000rpm
トランスミッション 電気式無段変速機

燃費消費率(WLTC) 27.2km/l

モーター種類 交流同期電動機
モーター型式 H5
最高出力 90kW(123ps)/3500-8000rpm
最大トルク 253Nm(25.8kgm)/0-3000rpm

価格 2,346,300円

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著者プロフィール

安藤 眞 近影

安藤 眞

大学卒業後、国産自動車メーカーのシャシー設計部門に勤務。英国スポーツカーメーカーとの共同プロジェク…