脱・温暖化その手法 第64回 ―太陽光発電の経済効果を考えるー

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Ellica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

太陽光発電は経済的にも有利

第63回までで、太陽光発電を電力の起源とすれば、セメント以外のCO2発生はゼロに出来ることを述べてきた。

ここまでの検討が現実的であるためには、電力の価格とその経済効果を見ておくことが必要である。

現在、中国製のシリコン型太陽光パネルの日本の価格はPXP社によると3万円/kWである。PXPのフレキシブルパネルは、これより安くなる見込みとのことであるが、ここではこの金額を前提に電力価格を見積もる。

日本の気候では1kWのパネルで年間1000kWhの発電ができる。パネルの寿命を20年とすると、寿命までに2万kWhの発電ができる。するとパネルの価格だけから見た発電原価は1.5円/kWhとなる。パネルで起こした電力を利用可能とするには、直流電流をパワーコンディショナーで交流に変換する。試みにパワーコンディショナーの価格を調べると国内T社のものが33kWの容量で70万円とのことである。1kW当り約2万円となる。1kWの太陽光パネルで年間1000kWhの発電が可能であることと、パワーコンディショナーの寿命は太陽光パネルより短く15年とされているので、この期間に毎年1000kWhの電力変換することになり、パワーコンディショナーの単価は1.3円/kWhとなる。したがって、太陽光で得た電力をパワーコンディショナーで交流に変換したものを太陽光発電の原価とすると2.3円/kWhとなる。

ここから送電線に繋ぐことで電力は利用可能となる。繋ぐための最も安価な材料はアルミの電線を使うことである。2023年6月1日のアルミ価格は34万円/トンとかなり高い。アルミ精錬に必要な電力は1万4000kWh/トンとされているので、もし電力料金を2.3円とすると電力費用は3万2000円/トンとなる。アルミ精錬のためにはボーキサイドを採掘し、そこから酸化アルミを取り出し、電解槽で精錬が必要であるが、電気料金が安価になるので、現在のアルミ価格より1桁近く安価にはなる。するとパワーコンディショナーから送電線に繋ぐための電線価格は発電原価に比べて無視できる水準になる。

発電のための太陽光パネルの設置や、その後の簡単なメンテナンス携わるのは第一次産業の従事者が行なうとし、その利益を1円/kWhと仮定する。すると日本で必要な2.4兆kWhの電力を得るためにその利益は2.4兆円となる。農林水産省の統計によると2020年の木材生産額は4800億円であった。この林地で太陽光発電との融合をすることで1兆kWhの発電をすると1兆円の新たな収入となり、林業の売上げは約1.5兆円と3倍になる。これは減り続けている林業従事者の収入を大幅に上げるための現実的な方法になる。

農林水産業の収入が上がり電気料金が下がる

農業との融合について見る。米の生産額は全国で1兆7000億円となっている。農業との融合では1兆2000kWhの発電ができるので、これに利益を1円増やしたとして売上げが1.7倍にも増える。このことが農業従事者の増加に直結する。

漁業との融合でも1.2兆円の新たな収入が期待できる。2020年の海面での漁業産出額は漁業と養殖を加えて1.2兆円になる。するとここでも産業規模は2倍になる。

さらに一般消費者の電力料金はどうなるだろうか。2023年1月の全国平均電力価格は31円/kWhであった。それがこの6月から値上げになる。その原因はLNGを主体とする発電用燃料の高騰である。2020年の統計ではこれが20円/kWhに値上がりしている。この原価に送電費用、配電費用、電力会社の管理費が約10円/kWh上乗せされたものが消費者の電力料金になる。これが今回求めた太陽光発電原価である2.3円になると、消費者の電力料金は一挙に約12円まで下がる。電力会社の利益を確保した上で料金が約1/3になるということになる。

さらに日本の貿易の面で見ると2021年のLNGの輸入額は約400億ドルで、現在の円・ドルで換算すると5兆6000億円となる。原油輸入については2019年度で約8兆円である。

今回はフレキシブルパネルを用いる太陽光発電の経済効果を見たが、第一次産業の収益が大幅に伸び、電力価格が著しく低下し、輸入に頼っていた莫大なエネルギー輸入代金が不要になる。従ってその経済効果は極めて大きい。

次回は自動車のすべてが電気自動車に替わるか否かについての分析が残っていたので、これについて述べることとする。

Eliicaの組み立て風景
ボディの仕上げ。成形したボディの表面の凹凸を
パテを用いて修正している工程。

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著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…