テレビで見て一目惚れ! 昭和の小型ワンボックス代表ミニエース! 【クラシックカーフェスタIN尾張旭】

昭和の時代に生産された古いクルマを愛好しているのはベテランオーナーが多い。ところが近年になって自分が生まれる前のクルマを手にする人もいる。自分と同じ歳の商用車を手に入れた人は何を考えて旧車の世界に飛び込んだのだろう。
PHOTO&REPORT●増田 満(MASUDA Mitsuru)
1974年式トヨタ・ミニエースコーチ。

古いクルマを近年になってから愛用する人に多いのが、漫画やアニメの劇中車を見て好きになるというパターン。代表的なのは「頭文字D」や「よろしくメカドック」などに登場するスポーツカーたちで、AE86レビン・トレノを筆頭に中古車価格が高騰するほどの人気ぶり。非常にわかりやすい例だが、それが例えば昭和のワンボックスカーとなると話は別。エアコンはおろかクーラーさえない商用バンに魅力を感じるのは異例だが、決してわからない趣味ではない。働くクルマには独自の魅力があるものだし、広い室内を有効に使えば最高の遊びグルマになる。

コーチは商用ではなく乗用車登録になる。

5月21日に開催されたクラシックカーフェスタIN尾張旭の会場にも、古い商用車が何台か展示されていた。中でもトヨタのワンボックスはライトエースとミニエースの2台が参加していたほどで、なかなかに人気があることを示している。しかもミニエースは新車時の塗装がツヤのあるままに残る程度の良さそうな個体。一体どんな人が乗っているのか興味を抱いて近くにいたオーナーに話しかけてみた。

フロントのカバーを持ち上げて室内へ空気を循環させる。

ちなみにミニエースは1967年にパブリカと同じ空冷水平対向2気筒エンジンを搭載するトラックとして発売されている。全長3585mm全幅1380mmと小さなボディだから、排気量が800ccしかない非力なエンジンでも荷物を載せて満足できる走行性能を確保していた。小さなボディは街中での配送にも有利で、軽トラックでは荷物を積みきれないような場合に最適なサイズだった。

さらに68年にはワンボックスタイプのバンと、乗用車登録となるコーチも追加されている。バンやコーチは主に個人商店向けとも呼べるモデルで、この時期に多かった平日は仕事に、休日にはファミリーカーに使われるようなパターンとして愛用された。

新車購入したのは個人商店だったのだろう痕跡。

このミニエースも恐らく個人商店が新車購入したようで、助手席ドアには商店名と電話番号が筆書きされていた。この当時の商用車に多く見られた特徴で、車両を経費で賄う目的だったのだろう。そんな文字が残っているということは、ミニエースの塗装は新車当時のものといえる。そこでオーナーに話を聞いたのだ。

左側面にだけ装備されるスライドドア。

ミニエースのオーナーは49歳になる大西基一さん。ただ車検証上の所有者は奥様だそうで、ミニエースを欲しがったのも大西さんというより奥様だったようだ。しかも購入したのは2020年と、つい3年前のこと。なぜ旧車、しかも古い昭和のワンボックスだったのだろうと会場へ来ていた奥様に質問すれば「もともと古いクルマが好きで主人がミニに乗っているんです」とお話しが始まった。

スライドドアを閉めないと給油できない。

旧ミニは今でも人気があるし非常にわかりやすいモデル。ではなぜミニエースなのかと続けると「テレビで見て一目惚れしちゃったんです」とのこと。昭和のクルマを扱うBS系のテレビ番組で、毎回さまざまなモデルとオーナーが登場していた。楽しみにされていた番組だそうで、続けて視聴していた。するとある時、番組でミニエースを取り上げていたのだ。その時初めてミニエースの存在を知り、スタイルの可愛らしさに引き込まれてしまったとか。

荷物の出し入れに適したサイズの開口部。

いくら一目惚れしたといっても、相手は古いワンボックス。一般に市場へ流通しているわけもなく、手に入れるならヤフオク!に代表されるインターネットオークションなどの個人売買になることが一般的。ところが大西さんは違った。当時、長野県に住むレストアラーを突き止めたのだ。

その人は個人でパブリカ系車種のレストアを繰り返し、完成すると個人売買で手放すことを繰り返されていた。今ではUP WORKSというショップとされているが、その前にインターネット検索で見つけ出し交渉することになる。

タコメーターのないシンプルなメーター周り。
クーラーはなくヒーターのみ装備。コラムシフトだ。

すると大西さんが生まれた1974年に生産された個体があるという。大好きなホワイトボディの個体で、さらには商用車ではなく乗用車のコーチ。つまり毎年車検ではなく2年ごとの車検で済み、7人乗りという利点もある。ほぼ即決だったそうで、購入して改めてサイズ感や色に惚れ直したとのことだ。

フロントのベンチシートはリクライニングしない。
乗用車のコーチなので3列シートになる。

新車時の塗装で維持されてきたことでもわかるように、オリジナルでない部品はほぼなくノーマルを保っていることもポイント。ただ、ノーマルであるだけにトラブルにも遭った。まず真夏の渋滞路でオーバーヒートしてしまった。ミニエースには空冷エンジンが採用されている。

そのため走行中ならエンジンを冷却できるが停車時間が長く、さらには近年の猛暑日だったりすると熱の逃げ場がない。古い空冷エンジン車ならではのトラブルで、回避するには渋滞路を通らないか渋滞時はエンジンを止めるなどしなければならない。

希望ナンバーで排気量を選んだ。

さらにはオイル漏れも経験されている。水平対向2気筒エンジンなので左右にシリンダーがあり一般的な直列エンジンよりオイル漏れする個所が多くなる。オーバーヒートなどを経験するとガスケットなどが歪みオイル漏れの原因になる。やはり古い商用車を乗り続けるには走らせる場所や工夫が必要だということだろう。ちなみにオーナーの奥様はマニュアル車の運転が苦手。

しかもミニエースはコラムシフトということで、何度か運転してみたものの今では助手席やリヤシート専門になってしまった。この日はご主人に別の用事があって参加できず、代わりに運転をしてくれる友人がハンドルを握って会場まで来られた。それでも手放すことなど考えたこともないほど惚れ込まれている。

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著者プロフィール

増田満 近影

増田満

小学生時代にスーパーカーブームが巻き起こり後楽園球場へ足を運んだ世代。大学卒業後は自動車雑誌編集部…