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どこでも安価に電力が手に入れられることの恩恵
66回までに世界中のエネルギーが太陽光発電でまかなえ、その結果カーボンニュートラルが実現できることについて述べた。
その結果、世界はどう良くなるか、が今回のテーマである。
太陽光発電の効果は、地球上のどこでも安価なエネルギーが得られるということである。その結果、世界中の人々に、産業革命以降に発明され、工業化されてきた技術の恩恵が受けられることを意味する。
これまで、生活が豊かでなかった国々のことを考えよう。世界中の国々が豊かになるには、まず食糧が十分手に入ることである。そのためには、水が供給されることが最も重要だ。エネルギーがあればこのエネルギーでアルミや鉄パイプをふんだんに作ることができるので、ポンプを使って遠くから水を引いてくることは十分に可能である。大河では河口近くに運ばれた水を、数千キロ先の乾いた土地に供給することが可能になる。
農業のためには肥料も重要だ。中学の頃、植物に必要なのは葉のための窒素、実のためのリン、根のためのカリウムと習った。その資源である窒素は、空気中から作り出すことが普通の技術なので問題はない。カリウムも海水の中にほぼ無限にある。しかしリンは、これまでの常識では石油と同様に何十年かで涸渇する。但しそれは、現在の技術と電力料金で経済的にまかなえる技術で鉱石を採掘し、精錬した場合のことである。もし、電力価格が十分に安価になれば、今まで経済的に成立しなかった貧鉱からでも生産が可能となる。
こうして水と安価な肥料が手に入れば、食糧は世界中どこでも手に入るようになる。すると世界中の家庭は豊かになり、子供の教育の余裕ができる。その結果、自らが簡単な工業を興すことができ、次第に高度な産業を生み出して世界レベルを十分に高くするという好循環が生まれる。

世界の紛争のひとつの理由はエネルギーの奪い合い
世界中で起きている紛争はどうか。これまでの紛争の主な理由は、資源の取り合いであった。とくに20世紀以降の大紛争では、世界に偏在している石油エネルギーの取り合いがその大きな原因になっていた。但し今起きているウクライナの紛争は、これまでの紛争の歴史とは異なる理由で発生している。また20世紀後半の紛争も、イデオロギーが違う社会同士の衝突であった。これらについては歴史をもっと長い目で見る必要があるが、エネルギー資源が平等になるということはそれだけ紛争の原因が減らせるということになる。
人間の寿命を伸ばす、ということにも繋がる。寿命がこれまで一貫して伸びてきた理由は、食糧、医療、過酷な労働からの解放である。食糧、医療は説明の必要はないが、過酷な労働に関してはピーター・ドラッガーが、「かつての農業時代の人々は肉体労働の連続だった、その結果、人間は50歳を過ぎると働けなくなり、そこで寿命が尽きる」ということを述べている。産業革命以降の大きな社会変化は、先進国においてはこの過酷な労働からの解放も寿命を伸ばす大きな要因だった。それは、最も労働力を要する農業生産に機械が導入されるようになり、農業生産に大きな肉体労働をしなくても良くなったことによる。
従って、エネルギーが自由に使えるようになり農業生産が増えれば動力を使う農業機械が使えるようになることに繋がり、結果として過酷な労働からは解放される。
もちろんその時の農業機械は電動になるが、こうしてエネルギーが太陽光発電で得られることにより最も恩恵を受けるのは、これまで食糧を手に入れることが出来なかった人々が自然に豊かになる機会が提供できるということである。
ところで、飢餓人口はどの位いるだろうか。国際連合食糧農業機関(FAO)は食糧過不足の閾値を1日2700kcalとしている。2020年現在で、飢餓状態にある人は世界中で約7億人。これは人口の約1割である。この飢餓の原因は、世界全体での農業生産量は十分に大きいにもかかわらず、すべての人々にこれが行き渡らないことにあるとしている。

ということは、太陽光で起こした電力により食糧生産がどこでも平等に行なわれることになると、食糧の偏在はなくなり、飢餓が起こらない状態が自然に作り出せることになる。
今回は温暖化対策の根本の原因を取り除くために、“太陽光発電が世界の隅々で行なわれ、それにより、どこでも農業が可能になる”という前提で主に飢餓を抜本的に無くすことができ、そこから多くの問題も解決できることに焦点を当てた。
次回は、太陽光発電の恩恵は世界経済的にはどのような効果があるかについて述べる。

2004年2月15日の試験風景。レーシングスーツを着ているのが、
テストドライバーを務めて下さった元F1ドライバーの片山右京
氏。場所は、ブリヂストンのプル―ビンググランド(テストコー
ス)をお借りして行なった。