前輪駆動から後輪駆動になったボルボXC40のBEV クルマ全体でスマートな生き方を体現しているのが魅力

ボルボXC40 Recharge ULTIMATE Single Motor 車両価格:719万円
ボルボのコンパクトSUVのXC40は、デビュー(2018年)から5年経ってもその存在は新鮮さを失っていない。そのXC40のBEVがRechargeだ。従来のシングルモーター仕様はフロントにモーターを積み前輪を駆動していたが、2024年モデルから後輪駆動に変更された。果たして、最新のXC40 Rechargeの完成度は?
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

ボルボ車の6台に1台はBEV

ボルボは変化している。変化の原動力となっているのは、「2040年にクライメートニュートラルな企業になる」との目標だ。CO₂を含む温室効果ガスの排出を実質的にゼロにすることにより、地球環境に負荷を与えないということである。それは原材料の調達から始まり、生産、販売、廃棄までを含む。例えば、国内のボルボの販売店はすでに再エネ100%の電気を使っているという。

ボルボが電気自動車(BEV)のラインアップを増やしているのは、クライメートニュートラルを実現する手段のひとつとしてだ。グローバルに見ると、2022年は全体の8%のボルボ車がBEVだったという。それが2023年の1-6月は16%に急上昇している。6台に1台がBEVだ。ボルボは2025年に販売車両の50%をBEVにする目標を立てているが、着実にその目標に近づいている。

2030年にはBEV専業メーカーになることを目指している。繰り返すが、BEV専業になることが目的ではなく、クライメートニュートラルのためだ。2040年にはすべての企業活動を通じてクライメートニュートラルとすることを目指している。ボルボは古くから安全性の高さをセールスポイントのひとつとしてきたが、クライメートニュートラルによる環境への負荷低減は社会全体の安全のためともいえる。

手前がC40、奥がXC40 Recharge
「RECHARGE」のバッジがBEVの証

2025年にBEV比率を50%にする目標を立てているボルボだが、実のところ、BEVはC40リチャージとXC40リチャージの2モデルしかない。C40はXC40とプラットフォームを共有しながら、クーペスタイルのフォルムを与えたモデルだ。国内では、多少のリスクは承知でも新しいことに挑戦する“イノベーター(より進歩的)”をターゲットに、C40リチャージを2021年に導入。2022年に、“アーリーアダプター(進歩的)”をターゲットに据えたXC40リチャージを導入した。

これら2モデルはボルボの狙いどおりに受け入れられており、国内で販売されたプレミアムBEV(トヨタ、VWは除く)の2023年上半期のランキングでは、テスラ・モデルY、モデル3に次いで、ボルボXC40リチャージが3位につけている。国内でのボルボの全販売台数に占めるBEVの割合は11%で、2モデルしかないにもかかわらず、10台に1台以上はBEVというのが現状だ。年内には「立駐に入るサイズ」のEX30が導入される予定で、より多くの支持を集めることになるだろう。

全長×全幅×全高:4440mm×1875mm×1650mm ホイールベース:2700mm
最小回転半径:5.7m
車両重量:2030kg 前軸軸重980kg 後軸軸重1050kg

前輪駆動から後輪駆動へ!

モーターはリヤのこの位置。定格出力:120kW 最高出力:238ps(175kW)/4000-5000rpm 最大トルク:418Nm/1000rpm
タイヤはピレリ P-ZERO フロントタイヤのサイズは235/45R20
リヤタイヤはF235/45R20
フロントサスペンションはマクファーソンストラット式
リヤサスペンションはマルチリンク式

さて、XC40リチャージは最新の2024年モデルで大幅な仕様変更を行なった(C40リチャージも同様)。2022年に販売した2023年モデルではフロントに搭載するモーターで前輪を駆動していたが、2024年モデルではリヤに搭載するモーターで後輪を駆動。前輪は転舵に徹する。かなり思い切った変更で、快適性を含む走りの質を高めるためだ。

従来のフロントモーターはヴァレオシーメンス製だったが、2024年モデルの永久磁石式リヤモーターはボルボの自社開発となる。公開された図から判断するに、モーター本体は後車軸の前あるいは後ろにオフセットして配置されてはおらず、後車軸と同軸上の配置。モーターと一体設計のインバーターは、素子をSi(IGBT)からSiC(MOSFET)に変更している。最高出力は175kW(238ps)、最大トルクは418Nmで、フロントシングルモーター比で出力は5kW(7ps)、トルクは88Nmの大幅アップだ。

バッテリー容量もアップデートを受けており、従来の69kWhから73kWhに増量されている。これにより、WLTCモードの一充電走行距離は502kmから590kmへと大幅に向上。カタログ電費の向上に比例して実電費も向上しているはずで、ロングドライブ時の安心感が増すはずだ。

Googleアシスタントによる音声操作が可能な(今回も体験したが、相変わらず便利)Google Apps and ServicesおよびVolvo Cars appの無償利用期間は、従来の4年から5年に延長。上級グレードのUltimate(アルティメイト、今回の試乗車)は80個の光源を使ったピクセルLEDヘッドライトとLEDフロントフォグライト(コーナリングライト機能付き)を標準で装備する。

ワンペダルドライブに「オート」が追加された

ボディカラーはセージグリーンプレミアムメタリック

クルマに乗り込んで走り出すまでの手順に変更はない。インパネにもセンターコンソールにもスタートボタンはなく、ブレーキペダルを踏み、シフトレバーをD(またはR)に動かせば、走り出す準備は完了する。アクセルペダルのコントロールだけで加速側だけでなく減速側もコントロールできる「ワンペダルドライブ」は2024年モデルで進化しており、これまでの「オフ」と「オン」に「オート」が加わった。

ボルボらしい上質なインテリア。シートカラーはテイラードウールブレンド

切り替え操作が面倒なのは、輸入販売元のボルボ・カー・ジャパンも自覚しており、センターのタッチ操作式ディスプレイにメニューを呼び出さないと切り替えができない。「オフ」の場合はアクセルペダルを戻すとコースティングに移行する。個人的には空走感が強く、車速のコントロールがしづらく感じた。ちなみに、回生ブレーキ力を調節するパドルは付いていない。

フロントにはラゲッジスペース、「FRUNK(フランク」がある。

「オン」にすると、アクセルペダルの戻し側で回生ブレーキが効き、減速力が発生する。アクセルペダルの戻し側の動きに対して過敏に反応するBEVも存在するが、XC40リチャージの場合はマイルドな設定で、車速のコントロールがしやすい。筆者の場合は「オン」との相性がいいように感じた。ボルボのワンペダルドライブは完全停止する(停止寸前にクリープに移行しない)ので、最後にブレーキペダルを踏む必要がない。

「オート」は先行車がいない(いても離れている)場合はコースティングとなり、先行車がいる場合は、先行車が減速すれば自車も減速する。先行車が停止すれば自車も止まり、ACC(アダプティブクルーズコントロール)を機能させているようなものだ。ただし、先行車が発進しても自動的には発進せず、自分でアクセルペダルを踏む必要がある。オートの追加によって予防安全機能が強化されたと受け止めることもでき、朗報だ。

転舵と駆動を受け持っていた前輪が駆動から解放され、転舵のみを受け持つことになったため、4つのタイヤが備えるポテンシャルをバランスよく使うことができるようになった。つまり素性が良くなったともいえ、実際、後輪駆動になったXC40リチャージはバランスのとれた素直な動きが印象的だ。他のクルマになじんだ体でも戸惑うことなく取り回すことができる。動力性能面でのストレスはなく、その気になれば交通の流れをリードすることも可能。高速道路での追い越しもスイスイだ。

タイヤと路面の接触や空気が車体にぶつかる際に発する走行音が小さな低中速域の車内は静寂そのもので、BEVの恩恵を強く感じるシチュエーションである。ボルボらしさを感じさせるのはレザーフリーの室内素材(レザーを合皮に置換しているだけでなく、カーペットは100%ペットボトルリサイクル素材を使用)と、清涼感すら感じさせるクリーンなデザインだろう。

半透明のデコラティブパネルにはスウェーデンのアブスコ国立公園の地図等高線をモチーフにしたグラフィックが描かれており、夜間やトンネル内では前照灯と連動してバックライトが点灯する。こうした仕掛けが嫌味でなく魅力になるのは、クルマづくりのセンスがいいからだろう。クライメートニュートラルに向けたアクションも含め、クルマ全体でスマートな生き方を体現しているのがボルボの魅力だ。

左フロントフェンダーに200V普通充電口がある。
左リヤフェンダーにCHAdeMO急速充電口を設定 150kWに対応する。
ボルボXC40 Recharge ULTIMATE  Single Motor
全長×全幅×全高:4440mm×1875mm×1650mm
ホイールベース:2700mm
車重:2030kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rマルチリンク式
モーター形式:交流同期モーター
モーター型式:CCADE
定格出力:120kW
最高出力:238ps(175kW)/4000-5000rpm
最大トルク:418Nm/1000rpm
駆動方式:RWD
電池:リチウムイオン電池
総電力量:73kWh
定格電圧:367V
WLTC交流電力量消費率:143Wh/km
 市街地モード120Wh/km
 郊外モード132Wh/km
 高速道路モード161Wh/km
一充電走行距離WLTC:590km
車両価格:719万円

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…