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日本のEVを世界に拡大させるために
前回は、世界的に電気自動車を普及させることによって生まれる日本での価値を求めた。これによると現在と同じ将来の自動車生産台数の30%を日本が維持すると仮定すると年間300兆円の売り上げを見込むことができる。この売上、あるいはこれ以上の売上を日本が獲得し維持するための戦術、すなわち手法について今回は述べる。
1980年代の日本での電気自動車の基本技術の発明と産業化は、日本が豊かであることが必要条件であった。中国で2015年以降、電気自動車が大きく普及し、昨年は世界を大きく引き離しての500万台の売り上げを記録した。この理由も中国政府は、電気自動車の開発と普及およびインフラ整備に関して10兆円の投資ができる余裕があったことによるものだ。この手法にならうと、日本もこれから電気自動車分野に対して、10兆円規模の投資を行なうことが重要な戦術になる。年間で約2兆円の投資を5年間行なうと、その後、年間300兆円の売上に繋ぐことができる。
駐車をすると自動で充電できる仕組みを
その財源について検討する前に、重要なことは、これだけの金額をどこに投資するかということである。第一は、充電網の整備である。電気自動車の普及にとって充電インフラが重要だということは誰しもが口にする。
その前提は、充電のたびにコンセントをプラグに差し込むことが想定されている。しかし、自らが電気自動車を所有することを考えた時、毎回プラグに差し込む手間に対して、当然の心理として面倒くさいということになる。かつてテレビのチャンネルは、テレビ本体のチャンネルで変えるものだった。それがリモコンになると、本体側でチャンネルを変えることなど考えられない。電気自動車の充電は、日常的にはわざわざ充電スタンドに行かず自分の駐車場で行なうことが普通になる。その時、多くの利用者が望むのは、駐車したら自動的に充電がなされることである。
2000年過ぎから、自動充電の技術は随分研究された。今は下火にはなっているが、脈々と続けられているのも事実である。当時考えられた充電法は、いずれも地上に置いた電力発生装置からの電力を車体に取り付けた受信装置で受け取るもので、マイクロ波を使うもの、電磁誘導を使うもの、磁気共鳴を使うものなどがあった。今は、安全性の点からマイクロ波はなくなり、電磁誘導方式と磁気共鳴方式の研究開発が続けられている。
このうち、電磁誘導方式は電力発生装置と受信装置の間の距離を取ることができず、磁気共鳴方式は比較的大きな間隔が取れるという違いがある。これらの方式のどちらが生き残るかに関して、大きな資金を使って早めに結論を出すことが求められる。その上で、各駐車場の標準装備としてこれが設置されることが電気自動車が広く使われるようにするために必要なこととなる。駐車場は個人のもの、公共のもの、高速道路のパーキングエリアもすべて対象と考える。これにより電気自動車は充電が切れることを心配することから解放され、電気自動車を所有するハードルが下がる。
徹底して電気自動車をリーズナブルに
その上で大量の普及をさせるには、利用者にとってコストパフォーマンスの良い電気自動車を提供することという単純な結論になる。今、日本の電気自動車は世界に対して販売台数で大きな差が付けられている。では世界の電気自動車がなぜここまで販売を伸ばしているのか。それは、政府の優遇策に支えられているからに他ならない。優遇策には補助金や税制の優遇もある。電気自動車を一定数売らなければ内燃機関自動車にペナルティを課す制度もある。中国の大都市では電気自動車系のナンバーを取りやすくする制度もある。
だが、今の電気自動車は冷静に考えると、性能に関して航続距離の点で劣るし充電時間がかかる。価格は高い。昨年販売された日産のサクラを例に取れば、補助金を入れてやっと軽自動車より少し高い程度である。一充電あたりの航続距離は国連が定めた走行モードであるWLTCモードで180㎞である。その結果、日本の消費者の多くはこれを選択せずに、内燃機関の軽自動車を選んでいる。このため、昨年度の軽自動車の売上は170万台に対して、サクラの売上は2万台にとどまっている。
それでは、コストパフォーマンスの高い電気自動車を作るにはどうしたら良いかという本題へと進むが、ここには技術的な話を導入せざるを得ず話が長くなる。
ということで、今回は、ここまでで一旦区切ることにしたい。
次回は、コストパフォーマンスの良い電気自動車を作るにはどうしたら良いかを、技術的な側面も踏まえて解説していきたい。