初代から続く伝統エンジン【連載|スズキ・アルトワークスを語り尽くす】

現行スズキ・アルトワークスに積まれるエンジンは、ドコが凄い?|Dr.SUZUKIのワークス歴史講座_Vol.9

現行スズキ アルトワークスのエンジンルーム
現行スズキ アルトワークスのエンジンルーム内部。エアクリーナーとインタークーラーへの導風には専用インレットダクトが装備され、外気を積極的に取り入れる構造となっている
現行のアルト ツインカムターボワークス。DOHC4バルブ3気筒ターボエンジンの搭載は、初代から続く伝統だ。5代目は既存の改良型R06Aにチューニングを加えて専用化。トランスミッションにも専用チューンを施し、スズキの誇るエンジン特性と見事に連携させた。
人気連載・週刊【スズキ・アルトワークスを語り尽くす】。ワークスを語り始めたら終わらない(?!)スズキ博士の “ワークスの歴史” を繙く連載、第9回。

TEXT / PHOTO:スズキ博士(Dr. SUZUKI) PHOTO:REV SPEED / SWIFT MAGAZINE with ALTO WORKS

改良型R06Aエンジンはスズキ車の多数に搭載

現行スズキ・アルトワークスのカタログ

軽くて速い、スズキ・アルトワークス|Dr.SUZUKIのワークス歴史講座_Vol.8

現行の5代目アルトワークスが販売されて早5年以上。ターボRS、そして36ワークスが完成したのも、優れたアルト系のプラットフォームがあってこそだ。今回はそのボディの骨格となる各部の特徴と、それが36ワークスのキャラクターにどう活かされているのかを探っていこう。 人気連載・週刊【スズキ・アルトワークスを語り尽くす】。ワークスを語り始めたら終わらない(?!)スズキ博士の “ワークスの歴史” を繙く連載、第8回。 TEXT / PHOTO:スズキ博士(Dr. SUZUKI)

第9回目となる今回は「パワートレーン編」

現行アルトワークスに搭載されるエンジンは、K6A型に続くオールアルミ製だ。
改良型R06Aエンジンは、多くのスズキ車に載る一種の汎用ユニットだが、メカはDOHC4バルブ3気筒ターボである。

ボア64.0mm×ストローク68.4mmの比は、歴代ワークスに載るエンジンのなかでは最長ストロークだ。圧縮比も9.1と、ワークスのDOHCヘッドではいちばん高い。そのヘッドはバルブがカム直打式。そして、ポートの形状と流路の角度、燃焼室の形状と冷却性が煮詰められている。
エキマニもヘッドと一体。こうした仕組みがベースのR06Aからの進化であり、改良型の名のゆえんである。

装着ターボはIHI製RHF3型で、風量は4代目と似るものの効率に優れる最新だ。タービン側のA/Rは6で、エンジン本体の特性に合わせた仕様といえる。

改良型R06Aもエアクリーナーケース、インタークーラー類がエンジン上にある。小型、軽量、搭載性を追求。ちなみにブロックにはK6A型とは異なり、クランクキャップが存在する
中央がエキマニ部の排気口で、3気筒分の排気が集まる。ターボの排気入口がここにつく。タービンまでの経路は最短、排気のエネルギーを効率的に使え、低速からターボが本格稼働

ECUと冷却系が専用。トルクバンドは常用域

改良型R06Aの特徴としては、VVT吸気側可変バルブタイミング機構と電子スロットルもある。そう、4代目の初期に備わった機能だ。
36ワークス専用としては、まず冷却系。燃焼温度の安定化などに、サーモスタットの開弁温度がターボRSの88度から82度に下げられた。次にエンジンルームへの外気導入だ。じつは、フロントグリルのWORKSエンブレムにはスリットがつく。そこから走行風を取り入れ、熱だまりに当てようというわけだ。

そして、以上を生かす専用プログラムのECU。アクセルレスポンスが、ターボRS用より敏感で速い。ブーストは過給圧制御によって低回転では約0.9kg/cm2かかる。7200rpmレブで最高出力が64ps/6000rpm、わずか3000rpmで最大トルク10.2kgmに届く。そのトルク値は対ターボRSの0.2kgmアップで、現行スポーティモデルではトップのトルクウエイトレシオなのが自慢。コレがワークスの加速偉力の源なのだ。

新しくて高効率。排気量が大きい。ストロークが長い。制御がち密。条件が揃うほど低中速トルクが太くなる。ゆえに改良型R06Aは、低回転から6000rpmまでの実用域がとても優れる

5MTはギヤ比が専用クロスレシオ

専用5MTのギヤ比はFF、4WDで共通。1速:3.545、2速:2.105、3速:1.521、4速:1.148、5速:0.897。ファイナルが歴代続く4.705。
参考までに4代目はタイヤ径が異なるが、1速:3.818、2速:2.277、3速:1.521、4速:1.030、5速:0.783であった。

専用5MTは1速から4速間のクロスレシオをウリにするが、過去のギヤ比からすれば5速クロスの印象。実際に4代目のギヤ比と特性を比べると?
36ワークスはタイヤに165/55R15を履いている。タイヤ径をそれで計算しグラフ化すると、専用5MTは3速を中心に1速と2速、4速と5速、いずれもが3速のギヤ比に寄っている。クロスレシオが際立つ。実際のギヤチェンジでのつながりも、俺の評価では歴代イチ。6速が欲しくなる。なお、フルタイム4WDの機構は、4代目での新駆動系に倣ったビスカスカップリング式だ。

ギヤ比の特性。3速とファイナルのギヤ比は同一。タイヤは165/55R15で計算。専用5MTは1速、2速では車速が伸びる。4速、5速はふけ上がりが速く、エンジントルクを有効に使える

5AGSは制御部と変速プログラムを専用化

ファンの皆さんにはいまさらだが、“5AGSオート・ギヤ・シフト” は5MT風にもAT風にも走れる2ペダル式の5速トランスミッションのことだ。
Dモードは自動変速。Mモードはシフトレバー、パドルでギヤを任意に変えて運転が楽しめる。専用AGSアクチュエータ(制御部)が装備され、加速を強めたり、変速時間を短縮したりする制御プログラムのチューニングも行なわれている。

ギヤ比はターボRSを継承し、FFも4WDも一緒。1速:3.818、2速:2.277、3速:1.608、4速:1.161、5速:0.783。ファイナル:4.705。2速、3速、4速はギヤ比が接近し、駆動力も高くかかる傾向といえそうだ。
エンジン制御とも密に連携する電子頭脳の最短シフトは、専用5MTでは成し得ない、異種のフィーリングが魅力である。

ミッション上部につく筐体がAGSアクチュエータ。中には制御部とともにドライバーに代わってクラッチを断続したり、ギヤを変えたりするソレノイドバルブや蓄圧装置などがある

赤色のフロントキャリパーが5代目の証

ブレーキはフロントが13インチのベンチレーテッドディスク式で、リヤがドラム式だ。ターボRSからの移行だが、キャリパーにレッド塗装を施し、ワークスの魂を籠める。

もちろんブレーキはABS、ブレーキアシストなどが標準装備される。フロントキャリパーのレッド塗装は、ブラック塗装のENKEI製専用ホイールとのコントラストが栄える

いよいよ次回は最終回。サスペンション編と総括を行なう予定だ。次もぜひ、読んでほしい。

現行5代目/HA36Sアルト ワークス 2015年12月~
仕様・諸元(一部)
  
  駆動方式:2WD(FF)
      :フルタイム4WD
  型式(FF):DBA-HA36S(2015年12月~2020年10月)/4BA-HA36S(2020年10月~)
   (4WD):DBA-HA36S(2015年12月~2020年10月)/4BA-HA36S(2020年10月~)
  エンジン:R06A型DOHC4バルブ直列3気筒インタークーラー付きターボ
  ボア×ストローク:64.0mm×68.2mm
  総排気量:658cc
  トランスミッション:5MT/5AGS
  全長×全幅×全高:3395mm×1475mm×1500mm 
  ホイールベース:2460mm
  トレッド:フロント1295mm/リヤ1300mm(4WD 1290mm)
  車両重量:2WD 5MT 670㎏/2WD 5AGS 690㎏/4WD 5MT 720㎏/4WD 5AGS 740㎏の間隔調整?
  乗車定員:4名
  タイヤ:165/55R15
  車両規格:平成10年10月施行 現行新規格
  ※各数値はHA36S初期モデルを掲載。2WD(FF)の5AGSは新車販売を終了

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著者プロフィール

スズキ 博士 近影

スズキ 博士

当時の愛車、初代ミラターボTR-XXで初代ワークスと競って完敗。機会よく2代目ワークスに乗りかえ、軽自動…