車両搬送ロボット=VLR トヨタはクルマだけでなく、物流の未来も変えようとしている。【トヨタモノづくりワークショップ2023_14】

トヨタ自動車は「トヨタモノづくりワークショップ」を開き、6月の「トヨタ テクニカルワークショップ」で公開した将来技術を具現化する“モノづくり”の現場を公開した。元町工場(愛知県豊田市元町)では、「未来を支えるモノづくり」の事例として、完成車の物流問題に対応する車両搬送ロボットの説明があった。
TEXT:世良耕太(SERA Kota) PHOTO:TOYOTA

完成車物流で抱えている課題

まずは積載場に屋根を設置した。

元町工場の完成車ヤードは4万平方メートルある。東京ドームより少し狭い程度のスペースで、ここに1600台を置くことができるという。工場で完成した車両は1台ずつ構内運搬員がヤードに運び、行き先別に整列させる。その後、積載場に止めたキャリアカーのドライバーが、自分が積み込む車両を1台ずつヤードに取りに行き、積み込み作業を行なう。1台のキャリアカーに5〜6台積み、全国の販売店もしくは輸出港に向かう。元町工場の場合は1日あたり約160便、約800台を出荷するという。

完成車物流で抱えている課題は大きく2つある。1点目は「物流の2024年問題」との絡みだ。ドライバーの労働時間規制の厳格化により、輸送能力の縮小が見込まれている。2点目はキャリアカーのドライバーだけでなくヤードの車両運搬員にもいえることで、高齢化や離職率の高さ、なり手不足に起因する深刻な人手不足だ。

こうした状況のなか、トヨタはドライバーと運搬員の負荷を少しでも下げ、安心して働いてもらえる環境づくりに取り組んでいる。ドライバーの作業環境改善については、積載場に屋根を設置した。従来、キャリアカーへの車両の積み込み作業は炎天下であっても、雨や雪が降る状況でも屋外で行なわれていた。アスファルト敷きのヤードの照り返しは強いし、雨や雪が降る状況では高所の2階でスリップする危険性もあり、厳しい環境だった。

こうした過酷な状況を少しでも緩和しようと、トヨタは全国の工場と港にある14の拠点で屋根の設置を進めた。

ヤード運搬に関しては、人海戦術での運搬を車両搬送ロボットによる自動化に置き換え、負担軽減と人手不足の解消を図る構えだ。ワークショップ当日、元町工場ではVLR(Vehicle Logistics Robot)と呼ぶ車両搬送ロボットがヤードの一角を自律走行し、人に代わって完成車を集荷場まで運んでいた。VLRの導入は9月からで、現在はトライアルの段階。最終的には10台程度の導入を見込んでいる。

従来は積載場にキャリアカーが入ると、ドライバー自ら自分が運ぶ車両をヤードに取りに行っていた。その数5〜6台で、4万平方メートルのヤードを行き来すると歩行距離は8kmにも及んだという。工場からヤードまでも、運搬員が1台1台クルマを運んでいた。1日約800台分、これを繰り返していたわけだ。

元町工場では、人が行なっていたこの作業の自動化を進めている。工場からヤードまでの車両の運搬は、完成車が無人で自走する技術の導入を考えている。次世代BEVの自走生産技術を活用する考えだ。いっぽう、ヤードでの車両運搬を受け持つのはVLRである。集荷場まではVLRが運んでくれるので、キャリアカーのドライバーは積載場と集荷場の短い距離を往復するだけで済み、負担が大幅に軽減される。

VLRもデジタルを活用したモノづくりの申し子

VLRは「Vehicle Logistic Robot」の頭文字からきている。

VLRはRTK-GNSSという高精度な衛星測位技術(センチメートル単位の測位精度)を使い、マップに従って時速10キロで、センサーで周囲を360度監視しながら自律的に走行。VLR自体が経路を把握しているので、そこからずれた時点で異常だと判断し、止まる機能を備えている。

車両の前方に到着すると、床下に荷台をもぐり込ませ、ホイールベースに合わせて荷台を伸縮させつつ、車高に合わせて調整しながら4輪をつかんで持ち上げる。荷台を昇降させる機能は、レクサスLSのエアサスペンションのハードウェアと制御技術を活用。バッテリーは工場のAGV(無人搬送車)などで使う汎用の48Vリチウムイオンバッテリーを使い、モーターは豊田自動織機がフォークリフトに使っているユニットをベースに、新たに品番を起こす形で使っているという。

VLRは1回の充電で3時間連続して運用し、30分充電に充てる使い方をイメージしている。運搬員が運ぶ場合はクルマの乗り降りを考えて車両と車両の間隔を60cm確保しているが、VLRでの運搬が前提になればドアの開け閉めは必要なく、ヤードをもっと効率良く使えるようになる可能性を秘めている。

VLRを複数台運用する際は、管制システムが個々のVLRの動きを一括管理し、衝突を防ぎながら、最短経路で移動できるようコントロールするという。雨でも動くし、雪でも動く予定(雪については今後の確認事項)。工場の保全課も開発に入ってもらい、運用面での管理も万全を期している。

VLRは若手技術者が発案し、ポンチ絵(スケッチ)をもとにモノづくり開発センターが一緒になってアイデア出しを行なったという。そのうえで、貞宝工場(愛知県豊田市貞宝町)の「デジタル技術を活用した設備製作や動作プログラムの確認」を行なう部屋で評価し、完成度を高めていったそう。その意味で、VLRもデジタルを活用したモノづくりの申し子といえる。

トヨタはクルマだけでなく、物流の未来も変えようとしている。その事例のひとつが、車両搬送ロボット=VLRの導入だ。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…