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P10型・初代プリメーラとは?
初代プリメーラ(P10)開発主管の津田晴久氏がこだわったFF車初のフロントマルチリンクサスペンション、チーフデザイナーの前澤義雄氏が数多くの制約の中で生み出した美しいスタイリング、優れたパッケージングによって日本の街中でちょうど良い5ナンバーサイズ、それに見合った2.0L直列4気筒DOHCの素直な自然吸気エンジン、空気抵抗が少なく、十分な広さを持つ4ドアセダンパッケージング、フラットライドなドライビングフィールなど気がついてみれば唯一無二の存在となっている。
毎日乗ってこれほど「しっくりくる」クルマは珍しい。「きびきびとした走りで乗って楽しい!」と「デザインがいい!何年経っても飽きのこないスタイル」「これに変わるクルマはない」とオーナー達は語る。
オーテックチューンのカタログモデル「プリメーラ・オーテックバージョン」
『プリメーラ・オーテックバージョン』は日産にある純正パーツを流用しながら、アナログな内燃機関と駆動系のチューニングを施し、ボディやエクステリアまで手を加えられたメーカーチューンド。しかし決して違う個性を主張したのではなく、プリメーラの個性はそのままにオーテックジャパンらしく、より上質で高いレベルの走りを生み出したモデルだ。
通好みの痒いところに手が届くようなエンジン、サスペンション、内外装に良心的なチューニングが施されている。当時は改造に対する規制が厳しく、エンジンやサスペンションに手を加えて改造した車両を『新車でナンバー登録』するのは容易ではなかった。多数の改造申請書類を作成し、オーテックジャパンが1台、1台、持ち込み登録で検査を受けて登録、販売が行われたという。
ミッションは5速MTのみ。ボディカラーは#KH3スーパーブラック、内装色はオフブラック(G)というシンプルな設定。オーテックジャパンの持込み登録で別紙のカタログモデルとして存在し、約1年間生産された。当時の車両価格は269万8000円。ノーマル最上級グレード「2.0Te」の車両価格が246万3000円だったのでその差は僅か23万5000円だった。多岐に渡るチューニング内容からして、これはバーゲンプライスだと言えるだろう。
このクルマが生まれた背景には日産のレース活動があった
1990年から全日本ツーリングカー選手権=グループAで圧倒的な速さと強さで連戦連勝を重ねた日産スカイラインGT-R(R32)は1993年までの4年間で29戦全てのレースで優勝してしまうほど無敵の強さを誇った。1990年代初頭、日産の技術力がどれほど抜きん出ていたかを証明するエピソードだ。
この時期、グループAに代わって注目を集めたのが新たなツーリング・カー・チャンピオンシップ「JTCC」だ。そこにすでに1991年からイギリス「BTCC」で活躍していたプリメーラ(P10)をベースに仕上げたられた。そのマシンに星野一義、長谷見昌弘と日産のトップドライバーを起用しレース参戦することが日産自動車から発表された。
そして、1994年11月22日、JTCCエントリーを記念して、プリメーラ・オーテックバージョンが発売される。そのチューニング内容は日産自動車と深い関係にあるオーテックジャパンだからこそ可能となるツボを押さえたトータルバランスチューニングが施されていた。スカイラインの生みの親、櫻井眞一郎氏がオーテックジャパンに在籍していた最後のモデルとしても非常に価値あるクルマだ。
エンジン、足まわり、エアロ……トータルでファインチューニング
エンジンは2.0L直列4気筒DOHC16バルブのSR20DEを搭載。通常モデルのエンジンをベースに専用エキゾーストマニホールドとフロントチューブ、専用コントロールユニットを採用し、更に圧縮比を10.0から11.5にアップやバルブタイミングの変更などにより、最高出力180PS/6800rpm、最大トルク19.6kgm/5600rpmと自然吸気エンジンでありながら、ノーマルの150PSに対して30PSもパワーアップされていた。
パワーバンドが高回転域に移行した分、ギヤ比をクロスレシオ化して、ファイナルを4.375(ノーマルは4.176)と4WDの「T4」用を流用することで加速性能を向上させている。
車両重量1190kgと比較的軽量な車体に対しては十分スポーティな走りが可能でフロントビスカスLSDも標準装備されていた。タイヤもノーマルの195/60R14から205/50R15へと1インチアップされた。
エクステリアは専用フロントグリルとブレーキ冷却ダクト付フロントスポーツスポイラーと大型リヤスポイラーが目を引く。
エアロタイナミクスとエンジンの性能向上を受け止めるスポーツチューンドサスペンションは決してハードすぎるものではなく、見た目から想像するよりもはるかに快適性は良好だ。フロントマルチリンクサスペンションの優秀なロードホールディング性もあって、しっかりと路面を捉えながらもハーシュネスを上手く吸収し、フラットライドを保つ走りだ。これなら長距離でも疲れない乗り心地と言えるだろう。
電動格納式ドアミラーやオートエアコン、オーディオ、リヤセンターアームレストなども標準装備。定員は5名のままでグランドツーリングカーとしての使い勝手も決して犠牲にしていない。しかし、その一方で後期モデルから採用されたトランクスルー機構を廃止して前期モデルと同等のボディ剛性を確保し、ABSは装備しないなど『走り』に対して硬派な一面を見せる。
オーナーを魅了する快適かつ上質な走り
インテリアではスカイライン(R32)GT-RやタイプMに採用されていた握り心地が良い3本スポーツステアリング。シートは基本的に「Te」専用に開発された少し硬めのスポーツシートを流用している。どちらも当時の日産車において大変評価の高かったパーツだ。
どちらも『オーテックバージョン』オリジナルのエンブレムや生地を使用し、きちんと差別化されている。ペダル配置は非常にヒール&トゥがしやすい。『プリメーラ・オーテックバージョン』は「いつまでもどこまでも走っていきたくなる!」とオーナー達が異口同音に語るように楽しく、快適かつ上質な走りはオーナー達の心を捉えて離さない。
撮影させていただいたこのプリメーラ・オーテックバージョンは広島県から参加したニックネーム:おんどちりめんさんの車両。2022年は遂に念願のオールペイントを行い、エクステリアを美しくリフレッシュした。注目はオリジナルでは梨地になっているバンパー上部、ドアアウターハンドル、ドアミラーの根元などスムージングしてボディ同色塗装が施されている点。
この梨地部分はどんなに手入れをしても紫外線や汚れなどで白く、汚く見えてきてしまう車両が多いため、大事にしているプリメーラオーナーは常に悩まされている。この部分をボディカラーと同色の艶あり塗装を行なった車両は質感が向上しているが特に違和感なく、これがオリジナルと言われても信じてしまいそうなほど自然な仕上がりだ。むしろ「こっちの方が格好いい!」と思えるほど上質でスポーティに仕上がっていてとても好感が持てた。
プリメーラ・オーテックバージョンは、発売された1994年から30年近く経った今も光輝いている。オーテックジャパンのアイデアと魂が込められた少量生産の車両に触れると日本の物作りの良さ、高い技術力に改めて感銘を受ける。こんな時代だからこそ、P10プリメーラのように『シンプルで誠実なクルマ』が生まれて来てほしいと本当に思った。そしてその際には是非『オーテックバージョン』の登場も期待したい。