HRCのシビックタイプR用カスタムパーツは発売されるのか? 市販レースベース車は? S耐参戦から見えた展望とは【岡 義友監督が語るS耐参戦記・後編】

2023年、ホンダのモータースポーツを担うHRC(ホンダ・レーシング)がカーボンニュートラル燃料の開発車両としてシビックタイプRをスーパー耐久シリーズ(S耐)のST-Qクラスに投入した。前回、その目的はや真意をチーム監督の岡 義友氏に語っていただいた。そして今回はさらに、S耐参戦で得た成果やその先の展望についてお訊きすることができた。
PHOTO:HRDC/MotorFan.jp
インタビューに答えていただいたTeam HRC監督の岡 義友氏(左)と筆者(右)。レース前にクルマについて詳しく話を訊いた。

HRCがシビックタイプR用のパーツを開発! カーボンニュートラル燃料でS耐に参戦する理由とは!? その真意を問う!【岡 義友監督が語るS耐参戦記・前編】

ホンダが誇るFFスポーツ・シビックタイプRは、2024年シーズンはホンダのスーパーGTマシンにもなるホンダ市販車のレーシングイメージの筆頭格だ。そして、この2023年は、ホンダのモータースポーツを担うHRC(ホンダ・レーシング)がカーボンニュートラル燃料の開発車両としてスーパー耐久シリーズ(S耐)のST-QクラスにシビックタイプRを投入した。その目的は? 真意は? 山田弘樹氏がチーム監督を直撃し、確かめる! PHOTO:HRDC/MotorFan.jp

ビジネスとカスタマーレーシング

前回のお話では、参戦の理由や目的などと合わせて車両やパーツの開発についてお話をうかがった。ところでこうしたパーツたちは、本当にHRCの商品として発売されるのだろうか? だとしたら、それはいつ頃なのか? 

現状ではシビックタイプRのアフターパーツ自体がまだまだ少なく、メーカー直径とも言えるHRC製パーツの市販には期待したくなる。レース由来のパーツは競技志向のユーザー以外も待ち望んでいるだろう。

「今回S耐で開発したパーツたちを、いずれは発売したいと思っています。またレース用部品としてだけでなく、アフターマーケット商品としての展開も可能ではないか、と。
しかし、単にプロダクトを用意するだけでは、ダメなんです。HRCにはこれまで四輪の商品を販売した経験がありませんし、その体制作りから構築しなければならないのです。現在はホンダとも話合いながら、様々な方法を模索している最中です」

岡監督からテールゲートスポイラーとリヤウイングの説明を聞く筆者。

肝心要なカスタマーレーシングカーの生産と販売は、行うつもりはあるのだろうか?
「もちろんです。本音を言えば、いますぐにでも皆さんに届けたい気持ちです。
しかしコンプリートカーとなると、パーツよりももっともっと大変なハードルがたくさんあります。ご存じの通り、我々はS耐に参戦してまだ1年目。少なくともあと1シーズンは勉強しないと、お客様に安心して提供できるコンプリートカーについて議論できるレベルにはならないと考えています」

参戦から着実に進化し、成果を上げてきているTeam HRCシビックタイプRだが、カスタマーレーシングへの道はまだ半ば。

それでは肝心なシビックタイプRが、マイナーチェンジしてしまうのではないか? 
しかし、この問いに対しては「もちろん我々も、モデルライフの鮮度についてはきちんと考えています」という答えに留まった。そこから察するに、マイナーチェンジはまだ少し先の話なのだろう。

シビックタイプRの現行モデルが発売されたのが2022年9月。ベースとなるシビックはそれより早く2021年8月に発売された。

確かに良くも悪くも生産車が作りにくい現在、シビックのような人気車が納車2~3年待ちという状況は決して珍しくない。それを考慮すれば、バックオーダーが片付くまでマイナーチェンジしないのは、メーカーの良心だと言える。
むしろHRCがシビックタイプRのマイナーチェンジよりも先にアップデートパーツをリリースできれば、それがひとつのビッグマイナーになる可能性もあるかもしれないと、ここは少しあおりながら応援しておくこととしよう。

♯743 Honda R&D ChallengeチームがエントリーするST-2クラスは、シビックタイプR、GRヤリス、ランサー・エボリューションXの3車種。

とはいえST2クラスの現状を考えれば、HRCにはいち早くカスタマーカーをデリバリーして欲しい。ちなみに今年は2台のGRヤリスが気を吐いているが、その他の現行車両は743号車のシビックタイプRのみ。あとの2台はランサー・エボリューションXである。

GRヤリスは2020年9月に発売。ラリーのイメージが強いが、S耐でも速さを見せている。

シビック タイプRの実力は最終戦での大逆転劇があったとはいえ、先んじてS耐に出場し経験を重ねていた4WDターボのGRヤリスとも拮抗している。シビック タイプRはベースとなる市販車のデリバリー自体が滞っている状況ではあるが、ここで最低限の装備を着けたカスタマーカーがデリバリーされれば、ST-2クラスはさらに活性化するのではないか。その熟成もエントラントと一緒に進めて、イヤーモデルごとにアップデートして行けばよいのではないか?

♯743 Honda R&D Challengeチームは最終的にライバルの脱落に助けられたところもあるが、最終戦で大逆転でST-2クラス王座を射止めた。しかし、レースはGRヤリスとシビックタイプRで一進一退の攻防が展開された。

時期的なことは別として、この考え方には岡監督も大いに賛成してくれた。
「まずはビジネスとして、パーツや車両の販売方法を確立する。これについて決着が付かないと、ST2クラス用カスタマー車両は供給できません。それでも仮に販売するとしたら、まずは高額なコンプリートカーではなくて、なるべくベーシックな車両を販売したいですね」

Team HRCシビックタイプRのコックピット。カスタマーレーシング用に様々なパーツが必要で、その安全性や信頼性も担保しなければ成らない。
シートはレカロ製を装着。
トランクはカーボンパネルで上下に区切られていた。

そして「そういう意味でいうと、実は面白い試みもしたんですよ」と岡監督は教えてくれた。

eモータースポーツとのインタラクティブ

『ジャパンモビリティーショー2023』のモータースポーツエリアで開催されたeモータースポーツイベント『Honda Racing eMS 2023 Special Event』。

岡監督はモータースポーツ活動の一環として、eモータースポーツのリーダーも兼任している。そして9月末から10月末に行われたグランツーリスモのオンラインイベントでは、S耐で走らせている271号車を使ったタイムアタックを開催したのだという。
しかもなんと「イベントの参加賞として、参加者全員に271号車をプレゼントしたんですというのである。
※ゲーム内でのデータ

『Honda Racing eMS 2023 Special Event』では「グランツーリスモ7」でシビックタイプRによる鈴鹿サーキットのタイムアタックで競われた。

このイベントには、なんと全世界から約20万人に及ぶエントリーがあった。バーチャルの世界ではあるが、既に20万台近いシビックタイプR CNF-Rが納車されたというのである。しかも、無償で!
「日本や欧州、北米はもちろん、南米や珍しいところではアフリカ圏からも参加がありました。S耐という枠を飛び越えて、世界中の方々にもシビック タイプR(レーシング)の魅力が伝わったんじゃないかと思います。モータースポーツの間口を広げ、Z世代やα世代にリーチする方法として、eモータースポーツは非常に有効な方法です」

トップタイムをマークしたプレイヤーを表彰する岡監督。

そして最後は岡監督に、今後の抱負を語って下さった。
「今シーズンは、できることは全てやりきったつもりです。しかしまだまだ、やりたいことがありますので、来年はHRCの第二章につなげて行きたいと考えています。HRCにはレーシングプロフェッショナルというイメージがあると思うのですが、みんな根はクルマ好きの集まりです。まじめな所はもちろんあるけれど、楽しみながら活動しています。だから今後はその雰囲気も伝えて行きたい。『アイツら面白いけど、速いよね!』と言ってもらえるようにがんばりたいと思います。応援、よろしくお願いします!」

リザルトから見えたシビックタイプR CNF-Rの実力とその可能性

フロントウインドウ左上の電光掲示板にその時点でのクラス順位が表示される。

そんなTeam HRCのシビックタイプR CNF-Rは最終戦で120周を走り切り、総合24位でゴールした。各クラスの開発車両が参戦するST-Qクラスでトップというのは当たり前としても、ST-2クラス優勝を果たした♯743 Honda R&D Challengeチーム(121周)に次ぐ順位でゴールしたことは評価に値するだろう。そして来季はこのポテンシャルを熟成させて、カスタマーレーシングの実現に前進してくれるはずである。

ST-Qクラスは賞典外となるため、全エントラントが表彰される。Team HRCの271号車をドライブしたのは武藤英紀、伊沢拓也、大津弘樹の3選手。

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著者プロフィール

山田弘樹 近影

山田弘樹

自動車雑誌の編集部員を経てフリーランスに。編集部在籍時代に「VW GTi CUP」でレースを経験し、その後は…