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ビジネスとカスタマーレーシング
前回のお話では、参戦の理由や目的などと合わせて車両やパーツの開発についてお話をうかがった。ところでこうしたパーツたちは、本当にHRCの商品として発売されるのだろうか? だとしたら、それはいつ頃なのか?
「今回S耐で開発したパーツたちを、いずれは発売したいと思っています。またレース用部品としてだけでなく、アフターマーケット商品としての展開も可能ではないか、と。
しかし、単にプロダクトを用意するだけでは、ダメなんです。HRCにはこれまで四輪の商品を販売した経験がありませんし、その体制作りから構築しなければならないのです。現在はホンダとも話合いながら、様々な方法を模索している最中です」
肝心要なカスタマーレーシングカーの生産と販売は、行うつもりはあるのだろうか?
「もちろんです。本音を言えば、いますぐにでも皆さんに届けたい気持ちです。
しかしコンプリートカーとなると、パーツよりももっともっと大変なハードルがたくさんあります。ご存じの通り、我々はS耐に参戦してまだ1年目。少なくともあと1シーズンは勉強しないと、お客様に安心して提供できるコンプリートカーについて議論できるレベルにはならないと考えています」
それでは肝心なシビックタイプRが、マイナーチェンジしてしまうのではないか?
しかし、この問いに対しては「もちろん我々も、モデルライフの鮮度についてはきちんと考えています」という答えに留まった。そこから察するに、マイナーチェンジはまだ少し先の話なのだろう。
確かに良くも悪くも生産車が作りにくい現在、シビックのような人気車が納車2~3年待ちという状況は決して珍しくない。それを考慮すれば、バックオーダーが片付くまでマイナーチェンジしないのは、メーカーの良心だと言える。
むしろHRCがシビックタイプRのマイナーチェンジよりも先にアップデートパーツをリリースできれば、それがひとつのビッグマイナーになる可能性もあるかもしれないと、ここは少しあおりながら応援しておくこととしよう。
とはいえST2クラスの現状を考えれば、HRCにはいち早くカスタマーカーをデリバリーして欲しい。ちなみに今年は2台のGRヤリスが気を吐いているが、その他の現行車両は743号車のシビックタイプRのみ。あとの2台はランサー・エボリューションXである。
シビック タイプRの実力は最終戦での大逆転劇があったとはいえ、先んじてS耐に出場し経験を重ねていた4WDターボのGRヤリスとも拮抗している。シビック タイプRはベースとなる市販車のデリバリー自体が滞っている状況ではあるが、ここで最低限の装備を着けたカスタマーカーがデリバリーされれば、ST-2クラスはさらに活性化するのではないか。その熟成もエントラントと一緒に進めて、イヤーモデルごとにアップデートして行けばよいのではないか?
時期的なことは別として、この考え方には岡監督も大いに賛成してくれた。
「まずはビジネスとして、パーツや車両の販売方法を確立する。これについて決着が付かないと、ST2クラス用カスタマー車両は供給できません。それでも仮に販売するとしたら、まずは高額なコンプリートカーではなくて、なるべくベーシックな車両を販売したいですね」
そして「そういう意味でいうと、実は面白い試みもしたんですよ」と岡監督は教えてくれた。
eモータースポーツとのインタラクティブ
岡監督はモータースポーツ活動の一環として、eモータースポーツのリーダーも兼任している。そして9月末から10月末に行われたグランツーリスモのオンラインイベントでは、S耐で走らせている271号車を使ったタイムアタックを開催したのだという。
しかもなんと「イベントの参加賞として、参加者全員に271号車をプレゼントしたんです(※)」というのである。
※ゲーム内でのデータ
このイベントには、なんと全世界から約20万人に及ぶエントリーがあった。バーチャルの世界ではあるが、既に20万台近いシビックタイプR CNF-Rが納車されたというのである。しかも、無償で!
「日本や欧州、北米はもちろん、南米や珍しいところではアフリカ圏からも参加がありました。S耐という枠を飛び越えて、世界中の方々にもシビック タイプR(レーシング)の魅力が伝わったんじゃないかと思います。モータースポーツの間口を広げ、Z世代やα世代にリーチする方法として、eモータースポーツは非常に有効な方法です」
そして最後は岡監督に、今後の抱負を語って下さった。
「今シーズンは、できることは全てやりきったつもりです。しかしまだまだ、やりたいことがありますので、来年はHRCの第二章につなげて行きたいと考えています。HRCにはレーシングプロフェッショナルというイメージがあると思うのですが、みんな根はクルマ好きの集まりです。まじめな所はもちろんあるけれど、楽しみながら活動しています。だから今後はその雰囲気も伝えて行きたい。『アイツら面白いけど、速いよね!』と言ってもらえるようにがんばりたいと思います。応援、よろしくお願いします!」
リザルトから見えたシビックタイプR CNF-Rの実力とその可能性
そんなTeam HRCのシビックタイプR CNF-Rは最終戦で120周を走り切り、総合24位でゴールした。各クラスの開発車両が参戦するST-Qクラスでトップというのは当たり前としても、ST-2クラス優勝を果たした♯743 Honda R&D Challengeチーム(121周)に次ぐ順位でゴールしたことは評価に値するだろう。そして来季はこのポテンシャルを熟成させて、カスタマーレーシングの実現に前進してくれるはずである。