日本で発売しないの? スズキの海外専売キャリイはタウンエースのライバルになる!? 究極のトイレカー「ポータブルレストルーム」もあり

スズキの看板車種である「キャリイ」は、ロングセラーモデルであることは有名だが、同時に世界戦略車でもある。しかし、定番軽トラックのひとつである日本モデルとの共通点はトラックであることだけ。デザインやサイズも全く異なる別物だ。簡単にいえば"ビッグ"なキャリイなのだ。タイ・バンコクで開催された「モーターエキスポ2023」で、海外版キャリイの実車をチェックしてみた。
REPORT&PHOTO:大音安弘(OHTO Yasuhiro)

タウンエースより短くて幅が広いボディサイズ

グローバル版キャリイの第一印象は、日本の軽トラキャリイよりも質実剛健だということ。まずスタイリングは、オーソドックスなフルキャブデザインで、角目ライトとブラックグリルによるシンプルな顔立ちだ。洒落っ気などは皆無だが、にこやかなフェイスをしている。

モーターエキスポ2023のスズキブースに展示されたキャリイ。

よりプレーンなリヤスタイルには、長方形デザインのリヤテールランプを装備。軽トラ版と似た形状だが、歴代軽トラキャリイは、バックランプは独立したシングルタイプとなるため、厳密にいえばそこも異なる。

キャリイとモーターエキスポ2023のスズキブースの様子。
キャリイのテールランプ。

ボディサイズは、全長4195mm×1765mm×1910mmと大きく、最大積載量も945㎏まで対応する。いわゆる小型トラックなのだが、同クラスの海外製小型トラックである「トヨタ・タウンエース」のように日本で販売することはできない。その理由は、日本の小型トラック規格の全幅1700mmを超えてしまうため。だから、4ナンバー登録もできないのだ。

メーカースズキトヨタ
車名キャリイタウンエース
全長4195mm4295mm
全幅1765mm1675mm
全高1910mm1920mm
キャリイとタウンエーストラックのサイズ比較
キャリイの荷台。

メカニズムもインテリアもとにかくシンプル

メカニズムを見ていくと、サスペンションは、フロントがコイルスプリング&ストラット式、リヤがリーフスプリング&リジッド式のオーソドックスなもの。駆動方式はFRのみ。

タイヤサイズは165/80R13。展示車両はダンロップのSP LT5を装着していた。

エンジンは、ジムニーシエラと同じK15B型を搭載。チューニングが少し異なるようで、最高出力71kW(96.5ps)/5600rpm、最大トルク135Nm(13.76kgm)/4400rpmと馬力が少し落ちるが、その分、わずかにトルクが増している。トランスミッションは、漢の5速MTのみである。
( )内は編集部換算値

メーカースズキスズキトヨタ
車名ジムニーシエラキャリイタウンエーストラック
エンジンK15B型
直列4気筒DOHC16バルブ
K15B型
直列4気筒DOHC16バルブ
2NR-VE型
直列4気筒DOHC16バルブ
排気量1460cc1460cc1496cc
最高出力102PS/6000rpm96.5ps/5600rpm97ps/6000rpm
最大トルク13.3kgm/4000rpm13.76kgm/4400rpm13.7kgm/4400rpm
エンジンスペック比較
インパネシフトの5速MT。

インテリアも超シンプル。左右対称に近いダッシュボードデザインを採用。小物入れは多く設けられているが、全てカバーレス。メーターパネルは、スピードメーターだけ。快適装備としては、エアコンとMP3プレーヤー付きラジオが備わる。

極めてシンプルな運転席とインストゥルメントパネル。ハンドル右にドリンクホルダーがあるが、助手席側には無い。ドリンクホルダー下にダミースイッチがあるが、オプションで何か追加できるのかパーツの都合なのかは不明。
メーターは180km/hスケールのスピードメーターのみ。右下の液晶はODとトリップか?
オーディオは2DINのスペースがあり、1DINのパイオニア製MP3プレイヤーが装着されていたが、社外品のような雰囲気。

ドアウィドウの開閉は、懐かしの手巻き式。シートも運転席のみスライド機構が備わる。2名乗車仕様だが、インパネシフトとワイドタイプの助手席におかげで、足元も広く、快適なスペースが確保されている。

ダッシュボードトレイやグローブボックス、センターコンソールトレイと収納スペースは多く容量も大きいが、すべてオープン。
ウインドウの開閉は手動式で、開閉用のクランクハンドルが備わる。
吊り下げ式の3ペダル。ブレーキペダルとクラッチペダルの間にステアリングシャフトが通る。それ以外は何もなくフラットで足元はかなり広い。

そのほかには、電動パワーステアリング、ABS、イモビライザーなどが備わっているが、裏を返せば、それくらいの装備しかないのだ。今や日本では不可欠な先進安全機能やエアバックなども非装着という徹底したシンプル化で手ごろな価格を実現しているのだ。

座面も背もたれもフラットなシート。ベンチシートっぽいが、サイドブレーキレバーが張り出している。

生産は、インドネシアの「PTスズキ インド モービル モーター」で行われ、100近い国と地域に輸出されているという。タイも、その国のひとつで、現地価格は、3万9500バーツ。日本円だと164万円くらい。ちなみに、スイフトの現地で一番安い仕様「GL」が56万7000バーツ(日本円換算で約266万円)なので、シンプルな分、価格も抑えられているようだ。

メーカースズキトヨタ
車名キャリイタウンエーストラック
価格約164万円
(日本円換算)
167万7000円
(「DX」2WD/5速MT)
為替レートは2024年1月6日現在

これぞ究極のトレイカー!

キャリイ・ポータブルレストルーム

今回のモーターエキスポには、キャリイをベースとしたカスタムカーも用意された。それが「ポータブルレストルーム」だ。直訳すれば「移動式トイレ」なのだが、工事現場などで見られるトイレカーとは次元が異なる豪華な仕様なのだ。
というのも、同車はVIPやアーティスト、セレブなどの移動先でのプライベートスペースとして最適化されたもので、プライバシーと快適性を重視して作られている。

出入り口から中を見ると、右側が化粧台、左奥がシャワールームになっている。シャワールームのドアはスライド式なのだが……。

内部はゆとりある化粧台付きの部屋となっており、その奥にシャワールームとトイレを備えている。ルームエアコンで快適な環境を整えつつ、空気の入れ替えや開放感が得られるように大型窓もある。まさに移動するVIP休憩室なのだ。

シャワールームの右手に洗面台付きのトイレがある。

キャリイの荷台ってこんなに広いと思わせる秘密は、奥側の壁が鏡張りであるため。実は、パウダーエリア/化粧台は1席のみなのだ。しかし、シャワールームとトイレルーム付きであることを考えると、バランスの良い作りだと思う。

化粧台は2席あるように見えるが、実は席の奥の壁が鏡張りになっていてそのように見えるだけ。錯視的に広さを演出している。

その製作には、住宅建材を取り扱う専門会社が携わっていると知り、納得。ただ外装に、レストルームの表記とトイレを彷彿させる男女のデザインを施すのは、ちょっとストレートな表現すぎる気がするが……。これはショー向けの分かりやすいデザインということだろう。

キャリイ・ポータブルレストルーム。出入り口昇降用の階段はドア下に収納されるようだ。

このようなユニークな提案が行われたのは、「Carry Your Dream」というコンセプトをもとに、スズキのピックアップトラックがユーザーの夢を実現させる究極の存在でありたいという思いから。これまでにもキャリイは、運搬用とだけでなく、キャンピングカーや移動販売車のベースとしても活用されている。

キャリイはタイのスズキ車では3番目に売れている

タイの2023年1月~10月までのスズキ4輪車販売の総数は1万480台となっており、2125台を販売したキャリイは「スイフト」、乗用車エントリーとなる小型車「セレリオ」に続く第3位にランクイン。まさにタイでの販売の柱のひとつなのだ。

モーターエキスポ2023のスズキブースに展示されたスズキ・セレリオ。

ぜひタイを訪れた際は、街角で頑張るビッグなキャリイを探してみてほしい。日本と形は異なるが、身近なトラックとして頑張る姿を見ることができるはずだ。

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著者プロフィール

大音安弘 近影

大音安弘

1980年生まれ、埼玉県出身。幼き頃からのクルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者へ。その後…