マツダはアイコニックSPの市販化に向けて動き出した 毛籠社長の「ロータリーエンジン開発グループ立ち上げ」宣言を読み取る

東京オートサロン2024のプレスカンファレンスの模様。毛籠社長が登壇した。
東京オートサロン2024のマツダブースでは、1月12日にプレスコンファレンスが行なわれた。壇上の毛籠勝弘社長は、「皆さまに背中を押されて」「2月1日にロータリーエンジンの開発グループを立ち上げます」と発言した。「この夢に近づくべく」と。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota) PHOTO:MAZDA

ICONIC SPへの大反響が「ロータリーエンジン開発グループ立ち上げ」に繋がった

ジャパンモビリティショー2024で発表されたICONIC SP

「この夢」とは、2023年秋のジャパンモビリティショー2023で世界初公開したICONIC SP(アイコニック・エスピー)のことだ。このコンパクトスポーツカーのコンセプトモデルは2ローター・ロータリーEVシステムを縦置きに搭載。大容量のバッテリーを積んだシリーズ式プラグインハイブリッドであることが明らかにされている。

電動駆動システムについては「どのように使うかはまだ決めていない」(マツダ関係者)としながらも、エンジン直結にできる構造にしてエンジンとモーターの出力をパラレルに使うことも可能なコンセプトとなっている。ロータリーエンジンの出力をプロペラシャフト経由で後輪に伝え、そこにモーターのアシストを加えることも技術的には可能ということだ。

そのアイコニックSPに対する反響が大きく、「背中を押され」、「夢に近づくべく」、「ロータリーエンジン開発グループを立ち上げる」ことにしたというわけだ。プレスコンファレンスの直後に設けられたぶら下がり取材で、毛籠社長はこの件について次のように補足した。

プレスカンファレンスの後で報道陣の囲み取材に答える毛籠社長

「ロータリーエンジン開発グループはいったん2018年に解散しましたけれども、再結成をし、しっかりロータリーエンジンの技術を高めていこうという主旨です。私どものエンジン開発は、エンジン形式を問わず同じ考え方で燃焼効率を改善するステップを3ステップで行なっています。小さな会社ですが、ガソリンもディーゼルも同じように開発できるのが特徴です」

マツダはアイコニックSPの市販化に向けて動き出した

マツダは、内燃機関の熱効率に影響する制御因子を7つに分類して開発を進めている。具体的には、圧縮比、比熱比、燃焼期間、燃焼時期、壁面熱伝達、吸排気行程圧力差、機械抵抗だ。これらの制御因子をそれぞれ理想に近づけていくことで内燃機関の理想化に取り組んでいる。ステップ3が理想。CX-60に設定されているSKYACTIV-D 3.3(3.3L直列6気筒ターボ)はディーゼルエンジンのステップ2、MAZDA3に設定されているSKYACTIV-X(2.0L直列4気筒)はガソリンエンジンのステップ2に位置づけている。

「(開発組織の解散後)ロータリーエンジンのエンジニアは全員SKYACTIVの開発に注力してくれました。そこで他流試合と言いましょうか、ピストンエンジン、あるいはモデルベース開発、世界最高峰の燃焼解析といった技術をしっかり学んでくれました。そのメンバーがまたロータリーエンジンにフォーカスし、ロータリーエンジンの燃焼やエミッション(排ガス規制対応)の開発に携わっていきます。ロータリーエンジンの基幹部門の開発については、約30名の陣容で再スタートを切ろうと考えています」

マツダはカーボンニュートラルの実現に向けてマルチソリューション戦略を推進している。電気自動車(BEV)に絞り込まず、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)も含めて電動化を推進していく考えだ。

また、燃料についてはバイオ(ガソリン/ディーゼル)、e-fuel(ガソリン/ディーゼル)、水素を考えている。

「多様な技術、それから選択の自由が重要だと考えています。そのなかで大きな資産のひとつは内燃機関だと思っています。とくに電動化との組み合わせになると、ロータリーエンジンは非常に相性がいい」

水素ロータリーエンジン第1号車のHR-X(1991年)
マツダ プレマシー ハイドロジェンREハイブリッドとマツダ RX-8 ハイドロジェンRE

2023年に市場導入したMX-30ロータリーEVは、同排気量のレシプロエンジンよりも小型高出力なロータリーエンジン(8C型)を採用することで、電動駆動ユニット全体をコンパクトに成立させている。ロータリーエンジンは同排気量のレシプロエンジンに比べて小型・高出力な点が、電動化した際の相性の良さだ。

「マツダは1991年のル・マン24時間で(4ローター・ロータリーエンジンのR26Bを搭載した787Bで)優勝しましたが、その頃から水素を含めた開発をしてきています。水素ロータリーをジェネレーター(発電機)として、モーターで駆動する車両を限定的に発売したこともありました。ロータリーには昔から、環境エンジンとしての可能性を非常に期待させています」

1991年に水素ロータリーエンジン第1号車のHR-Xを開発したマツダは2006年、水素とガソリンを併用できるデュアルフューエルシステムの水素ロータリーエンジンを搭載したRX-8ハイドロジェンREをリース販売した。

また、2009年には、デュアルフューエルシステムは踏襲しながら、ロータリーエンジンを発電専用とするシリーズハイブリッドシステムを搭載するプレマシーハイドロジェンREハイブリッドをリース販売した。ユニットのレイアウトは異なるが、シリーズ方式である点はMX-30ロータリーEVと同じである。

マツダがかつて開発したRENESIS 水素ロータリーエンジン

「当時は時期尚早であったということですが、時代は到来しつつあると捉えています。コンパクトなもの、あるいは雑食性、あるいは電気リッチにしたときの相性の良さ。(ロータリーエンジンの)こういった特徴を、社会に貢献できる技術として育成していきたいと考えています」

ジャパンモビリティショー後の大きな反響が、この考えを後押ししたということだ。

「アイコニックSPには極めて大きな反響をいただきました。熱烈な声をいただいて、我々も本当に感激し、なんとか、実現できるようにスタートを切ろうということです。まだまだ解決しなければいけない技術課題はあり、ものすごくハードルは高い。ですが、マツダ得意の『飽くなき挑戦』のスピリットで立ち向かってみようと。社内にも奮起していただきたいと思っていますので、今日こういう発表につなげました」

マツダはアイコニックSPの市販化に向けて動き出した──。そう理解したくなる、ロータリーエンジン開発グループの立ち上げであり、毛籠社長の発言である。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…