アウディの戦略 PPEプラットフォームの潜在能力 Q6 e-tronから新次元へ

PPE(Premium Platform Electric)とはどんなプラットフォームか

テクニカルワークショップは、ドイツ・ミュンヘン空港近くで開催された。世界各国からメディアが参加していた。

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Q6 e-tronの注ぎ込まれた新技術が「Q6 e-tron Tech Workshop」で紹介された。開催場所は、ドイツ・ミュンヘンである。
現在、フォルクスワーゲン・グループが使う電動車向けプラットフォームは以下の3つだった。
MEB Modular Electrification Toolkit
→アウディQ4 e-tron、VW ID.シリーズ
J1 Performance Platform
→アウディe-tron GT、ポルシェ・タイカン
MLB-evo
→アウディe-tron、アウディQ8 e-tron

VWグループのBEVのプラットフォーム。J1はハイパフォーマンス少量生産向け、MLB-evoは今後開発予定はない。

ここに、新世代電動プラットフォームであるPPEが加わるのだ。ポルシェ新型マカンとアウディQ6 e-tronがPPEの第一弾となる。

VW/アウディグループの主力BEVプラットフォームはMEBとPPEになる。Q4よりコンパクトなモデルはMEBでより大きなモデルはPPEを採用する。ベースとなる駆動方式はRWD、つまりベーシックな仕様ではリヤにモーターを搭載する。これはMEBと同じだ。

PPEプラットフォーム 後輪駆動ベースのプラットフォームだ。
MEBやJ1プラットフォームから継承したものはない。オールニューのBEV専用プラットフォームである。

ワークショップでPPEは「ハイエンド・パフォーマンス/スケーラブル」なプラットフォームだと説明された。

MEB、J1、そしてPPEの立ち位置がわかる図。MEBとPPEはスケーラブルであることがわかる。

航続距離/パフォーマンス/バッテリー容量/10分間充電での航続力/トルクなどすべての項目でMEBを大きくしのぎ、パフォーマンスでもJ1同等の能力を持つ。

ちなみに、今回発表されたQ6 e-tronはドイツ・インゴルシュタットで生産されるが、PPEのロングホイールベース版は、中国FAW(第一汽車)との合弁の長春工場で生産される。

このPPEの進化幅は極めて大きい。BEV化を推進するアウディの本気が感じられるポテンシャルを持つ。エネルギー消費を30%減らした上で、システムパフォーマンスは33%アップ。もちろん軽量・コンパクトになっている。

PPE用モーターは新開発

PPE用のモーター(エレクトリックドライブ)は、リヤ(主駆動)がPSM2種類、フロントがASM1種類とPSM2種類だ。

PPEに搭載するモーターユニットは
リヤアクスル:PSM 2種類
フロントアクスル:ASM 1種類/PSM2種類

をバリエーションとして持つ。

ご存知の通り
PSM=Permanent Synchronous Motor永久磁石同期モーター
ASM=Asynchronous Motor非同期モーター

で、Q6 e-tronは、フロントにASMを使う。

ASMはローターに永久磁石を持たないため、コストに優れる。ワークショップでは

PSMとASMの特長比較。リヤの主駆動モーター(Main Motor)としてはPSMが、フロントの補助用モーター(Boost Motor)としてはASMの効率の高さがメリットになる。

材料コスト/コストリスク/ブーストモーターとしての高効率でASMはPSMよりも優れていると説明された。逆にPSMに劣るところは、出力密度である。

主駆動モーター(リヤ)はPSMを使うが、ブーストとして使うフロントはASMで不足はない。実際に、試乗したSQ6 e-tron(クワトロ)のプロトタイプでは実感した。充分以上にパワフルで速いのだ。

Q6 e-tronのフロントモーターがASMなのは、効率を重視したからだ。PPEでは、基本的に後輪が駆動する。Q6 e-tronクワトロといえども常時全輪に駆動力を配分しているわけではない。路面状況、加速・操舵によって必要時に必要な分だけフロントに駆動力を与えるわけだ。

通常の後輪駆動状態のとき、(駆動力を発生せずに成り行きで回転している)フロントのモーターが効率を悪化させてはいけない。ASMは、永久磁石界磁でないため、PSMのような逆起電力による効率悪化が発生しないのだ。また、磁石を内蔵しないため、レアアースを使わずに済むのもメリットだ(新しいPSMのレアアース使用量も大きく削減したが、ゼロではない)。

超ハイパフォーマンスを提供する必要があるモデル(ポルシェ・マカンはそうだ)は、フロントにもPSMを使うが、アウディQ6/SQ6はASMを選んだ。アウディの担当者に「アウディはフロントにPSMを使わないのか?」と訊いてみた。答は「将来的には使う可能性は否定しない」だった。BEVの超ハイパフォーマンスモデルを開発する段になったら、フロントにも強力なPSMを搭載する、ということだろう。

Q6 e-tronに搭載するリヤPSMのスペックは次の通りだ。

リヤ用PSMモーター

リヤのPSM(永久磁石同期モーター)の構造図

最高出力:280kW
最大トルク:580Nm
800Vアーキテクチャー
重量:118.5kg
ギヤボックス:2ステージ1速トランスミッション
ギヤレシオ:9.242
ステーター長:200mm
ローター径:138mm

Electric Drive(PSM)の構造図
モーターの上にはパワーエレクトロニクスが載る。
PSMのステーター
ローター

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PPE用モーターのステーター(左右は同じものだ)

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PPE用モーターのステーター

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PPE用モーターのステーター

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PPE用モーターのステーター

フロント用ASMモーター

フロントのASM(非同期モーター)の構造図
フロント用ASMの構造図

フロントASMは

最高出力:140kW
最大トルク:275Nm
800Vアーキテクチャー
重量:87.5kg
ギヤボックス:2ステージ1速トランスミッション
ギヤレシオ:9.139
ステーター長:100mm
ローター径:138mm

ASMのステーターの構造図
ASMのローター

となっている。
注目はステーター径である。PSMもASMも径は同じだ。
ステーター長は200mmと100mmの2種類だ。

ローター径を同じすることで、PSMもASMも生産効率を上げられるという。生産はハンガリーのジュール工場(Gyor)だ。ジュール工場はこれまでVWグループ最大のエンジン生産拠点だった。これをモーター工場に切り換えるという意思表示だ。

モーターを詳しく見てみる

手前がASM、奥がPSMのローターだ。ともに径はφ138mm。生産効率を考慮して揃えている。

会場には、新開発のモーターが並べられていた。

上の写真、手前がASM、奥がPSMのローターだ。ともに径はφ138mm。長手方向はASMが100mm、PSMが210mmだ。径を揃えることで生産効率を上げられるという。長手方向は、展示されえていたのは2種類だが、150mmのローターも用意しているようだ。

PPE用のモーター

隣には、ステーターが並べられていた。

ステーターのコイルは、アウディが「ヘヤピン巻き(Hairpin Winding)」と呼ぶ、新しい巻き方を採る。ステーターコイルは、円形ではなく長方形だ。ヘヤピン巻きはアウディの特許だという。

銅線がエンドレスリールから得られる従来の巻線プロセスとは異なり、ヘヤピン巻きは成形ベースの組み立てプロセスである。長方形の銅線が個々のセクションに分割され、ヘヤピンのようにU字型に曲げられていることを意味する。これが「ヘヤピン巻き」の名前の由来だ。

アウディのヘヤピン巻き
巻線の断面は長方形だ。
これが「ヘヤピン」だ。中央の長いヘヤピンはステーター長さ200mmのタイプ用。

目的は効率のアップだ。コイルの占有率(Fill Factor)が45%→60%へアップ。これにより、同じスペースでより大きなパワーとトルクを得られる。アウディの第一世代電動モーターと比較して50%も損失を低減できた。

ワイヤーヘアピンの端はレーザーで溶接され、コイルが作成される。

モーターの冷却はドライサンプに

もうひとつのポイントは冷却だ。従来のモーターがウェットサンプだったのに対して、PPE用新型モーターはドライサンプ式を採る。ホットスポットを呼ぶモーターで熱を過度に帯びてしまう箇所に確実に冷媒(オイル)を噴射して冷やす。冷却オイルは適切な箇所に適量供給されるわけだ。これで航続距離が5km延ばせたという。

ホットスポットをなくすために、必要な箇所を必要なだけ冷やすという考えだ。
左が従来のウェットサンプ、右が今回のドライサンプ方式

新型モーターは静粛性にも優れる。エンジニア氏は「このクラスでこれほど静かなモーターは他にない。圧倒的な静粛性だ」と胸を張る。

新開発モーターの静粛性は、ライバルを圧倒する、とエンジニアは説明した。

その理由は、
・モーターケーシングとマウントアルミダイキャスト一体成形のモーターハウジングを3つのモーターマウントを介してリジッドに留めたこと。

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モーターマウント

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モーターマウント

・ギヤの設計
トランスミッション部分のギヤの設計を見直した。

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・ローターの設計
永久磁石の配列を工夫して磁場が均一になるようにした。セグメントの配置によって発生する音が変わってくるが、可聴域でないおとにしたという。

PPEのローター

・パワーエレクトロニクス
PPEのパワーエレクトロニクスには、SiC(シリコンカーバイド=炭化ケイ素)パワー半導体を使う。インバーター制御周波数をソフトウェアでフィードフォワード制御することで、発生するノイズをホワイトノイズ化できるという。

パワーエレクトロニクス

「たとえば、5kHzがもっとも高い効率だが、そこでは人間に不快なノイズが出てしまう。その場合、ソフトウェアで常な4.5kHzと5.5kHzの間で周波数を変動させる」のだそうだ。

BEVでは、モーターと減速機とパワーエレクトロニクスの3つの音源の組み合わせによって共鳴によるノイズが出てしまう領域がある。ここもソフトウェアで制御するのだという。

ノイズと逆位相の音を出して打ち消すノイズキャンセルという方法もあるが、PPEでは「元からノイズを減らして静粛性を上げる」という手法と採った。

PPEは、前世代からの延長線上にないまったく新しい電動プラットフォームだ。モーターだけ見ても、アウディがPPE、Q6 e-tronから新しい時代に入ることが理解できた。

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著者プロフィール

鈴木慎一 近影

鈴木慎一

Motor-Fan.jp 統括編集長神奈川県横須賀市出身 早稲田大学法学部卒業後、出版社に入社。…