目次
迷っているなら乗り比べるべし
2台を立て続けに乗ったうえで正直に言うと、筆者の好みはジムニーシエラである。ジムニーの魅力は(軽自動車なので当然だが)サイズがコンパクトなこと。イニシャルコストが低く、自動車税や自動車重量税の負担が軽くて、ランニングコストが低いことだ。用途やコストの面でジムニー以外に選択肢がない場合は議論の余地はないが、どちらか迷っているなら乗り比べてみることをお勧めする。筆者のように考えが変わるかもしれない。
気になったのでスズキに問い合わせてみると、ジムニーもシエラも大多数は指名買いだという(ジムニーのほうが指名買いの比率は高い)。他車と比較検討した末にジムニーまたはシエラを購入する人は少数派だが、両車ともに一定数いるのも事実。ジムニーの場合は自社・他社の軽自動車と悩んだり、自社・他社の登録車と悩んだりするという。自社の登録車には当然、シエラが含まれている。
シエラの場合も同じだ。ジムニーと悩んだ末にシエラに決めた人が一定数いる。ジムニーは軽自動車なので当然のことながら、規格上限の排気量660cc(正確には658cc)のエンジンを積んでいる。自然吸気(NA)ではなくターボ過給エンジンなので、NAに比べればパワーとトルクは大きい。R06A型の3気筒ターボエンジンは47kWの最高出力と96Nmの最大トルクを発生する。
しかし、軽自動車としては重量級の1トン超え(1040kg)の車重があるため、軽々と動くというわけにはいかない。流れを気にせずマイペースで走れればいいが、交通の流れについていくのに精一杯な感がある。前のクルマについていこうとすると1速、2速は高いエンジン回転数まで引っ張る必要があるため、変速時に前のめりになる動きが大きく、ギクシャクした動きになりがちだ。
シエラの車重を調べてみたら、サイズはだいぶ違うのに40kgしか重くない。全長×全幅×全高はジムニーの3395mm×1475mm×1725mmに対し、シエラは3550mm×1645mm×1730mmである。ジムニーより155mm長く、170mm幅広で、5mm背が高い。2250mmのホイールベースは共通。最低地上高はジムニーの205mmに対し、シエラは210mmだ。
タイヤサイズはジムニーが175/80R16サイズなのに対し、シエラは195/80R15と2サイズワイド。最小回転半径はジムニーの4.8mに対し、シエラは4.9mである。
シエラはK15B型の1.5L直列4気筒NAエンジンを搭載。102ps(75kW)の最高出力と130Nmの最大トルクを発生する。ジムニーに対する40kgの重量の違いよりも、38ps(28kW)と34Nmのスペックの違いのほうが大きく、走らせていてストレスを感じない。エンジンが発する力に余裕があるので、常用回転数は明らかに低い。
実燃費はシエラの方がいい?
WLTCモード燃費はジムニーの16.6km/Lに対してシエラは15.4km/Lでジムニーのほうが優秀なのだが、実用燃費では逆転する可能性がある。同じ条件で同じルートを走ったわけではないが、参考までに両車の試乗時平均燃費を記しておくと(どちらも高速道路を走行)、ジムニーは約300km走って16.2km/L、シエラは90km弱走って17.3km/Lだった。
居住空間は基本的に共通だ。シエラは小型車だが、軽自動車のジムニーと同じで乗車定員は4名である。(ラック&ピニオンではなく)ボールナット式のステアリング機構も同じなら、フロント、リヤともに3リンク・リジッドアクスルのサスペンション形式も共通。ハイ/ローを切り換える副変速機を備えたパートタイム4WDの駆動システムも共通だ。通常は2H(2WD、FR)で走り、雪道や荒れ地は4H(4WD高速)、急な登坂路や悪路ではトランスファーレバーを操作して4L(4WD低速)にして走るのが推奨である。
はしご型のフレームに車体を載せるラダーフレーム構造をはじめ、ステアリング機構やサスペンション形式、4WDシステムはすべて、高い悪路走破性を担保するためだ。その割に乗り心地は悪くなく、日常使いを拒絶するほどのハードな乗り心地ではない。ステアリング操作にクセがあるわけでもない。
シエラはジムニーに比べてずっと快適だが、理由のひとつはトレッドがジムニーに比べて広く、とくにロール方向の動きがゆったりしているからだろう。踏ん張りが利いていると言ったほうがいいかもしれない。揺れる電車の中で、脚を大きく広げて踏ん張っている感覚だ。ジムニーのトレッドはフロントが1265mm、リヤは1275mmなのに対し、シエラはフロント1395mm、リヤ1405mmである。
動きの大らかさと、ゆとりあるエンジンのおかげで、シエラはジムニーと同様の本格オフローダーとしての実力を持ちながら、乗り味はずっとSUV寄りだ。ジムニーにしようかなと思ったけれども、比較検討したうえでシエラになびく理由は、SUV使いができる懐の深さにあるのかもしれない。
ちなみに、ジムニーとシエラの2023年の販売台数の比率は、ジムニー3に対してシエラが2。トランスミッションの比率はジムニー、シエラともAT(4速ATである)のほうがMTより高いが、シエラのほうがAT比率は高い。こんなところにも、シエラにSUVとしての役割を求める、ユーザーの嗜好の違いが現れている気がする。
スズキ・ジムニーシエラJC(5MT) 全長×全幅×全高:3550mm×1645mm×1730mm ホイールベース:2250mm 車重:1080kg サスペンション:F&R 3リンクリジッドアクスル式 駆動方式:パートタイム4WD エンジン 形式:直列4気筒DOHC 型式:K15B型 排気量:1460cc ボア×ストローク:74.0mm×84.9mm 圧縮比:10.0 最高出力:102ps(75kW)/6000pm 最大トルク:130Nm/4000rpm 燃料供給:PFI 燃料:無鉛レギュラー 燃料タンク:40L トランスミッション:5速MT WLTCモード燃費:15.4km/L 市街地モード 13.8km/L 郊外モード 16.2km/L 高速道路モード 15.7km/L 車両価格:208万4500円
スズキ・ジムニーXC(5MT) 全長×全幅×全高:3395mm×1475mm×1725mm ホイールベース:2250mm 車重:1040kg サスペンション:F&R 3リンクリジッドアクスル式 駆動方式:パートタイム4WD エンジン 形式:直列3気筒DOHCターボ 型式:R06A 排気量:658cc ボア×ストローク:64.0mm×68.2mm 圧縮比:9.1 最高出力:64ps(47kW)/6000pm 最大トルク:96Nm/3500rpm 燃料供給:PFI 燃料:無鉛レギュラー 燃料タンク:40L トランスミッション:5速MT WLTCモード燃費:16.6km/L 市街地モード 15.6km/L 郊外モード 17.5km/L 高速道路モード 16.5km/L 車両価格:190万3000円