マツダは事故の発生を抑制する狙いで開発している自動運転コンセプト、「Mazda Co-Pilot Concept(マツダ コ・パイロット コンセプト)」を発表した。ドライバーの体調・操作をモニタリングし、異変を検知したら警告。反応がない場合はドライバーが運転できない状態にあると判断し、ドライバーに代わって運転して安全に停車するシステムだ。停車後、必要とあれば緊急通報を行なう。
このシステムは、「ドライバー状態検知技術」と「Mazda Co-Pilot HMI仮想運転技術」、それに「ドライバー異常時退避技術」で成り立っている。このうち、ドライバー状態検知技術は、車内に設置したカメラでドライバーの姿勢崩れや視線・頭部の挙動をモニター。同時に、ステアリングとペダルの運転操作を監視し、体調急変などで運転が継続できない状態を判断する。Mazda Co-Pilot Conceptでは脳科学の知見を生かし、視線挙動からドライバーの体調変化を検知するのが特徴だ(運転操作や頭部挙動と合わせ、総合的に判断する)。
カメラを用いてドライバーをモニターするシステムは2019年に発売されたMAZDA3から適用されており、2022年に導入予定のMazda Co-Pilot 1.0と、2025年以降に導入を見込むMazda Co-Pilot 2.0はその進化発展形と捉えることができる。実際、マツダの三次自動車試験場(広島県)でテストを重ねている技術試作車はMAZDA3がベースで、ドライバーの挙動や視線をモニターするカメラは、もともとMAZDA3に備わっているものを使っている。
MAZDA3の「ドライバー・モニタリング」は、「360°セーフティパッケージ」のメーカーセットオプション扱いだ(筆者の仕様=X PROACTIVE Touring Selection の場合、8万6880円だった)。筆者は「360°ビュー・モニター」が欲しくて選択した(セットだったので、ドライバーモニタリングが一緒に付いてきた感覚だ)。メーカーの広報資料を引用して機能説明を行なうと、ドライバー・モニタリングの機能は以下のようになる。
「居眠り」や「わき見」をチェックするドライバー・モニタリング
運転中のドライバーの状態を赤外線カメラと赤外線LEDでチェックし、まぶたの開き具合やまばたきの頻度、口や顔の向きなどから「居眠り」を、視線の方向と視線の動きから「わき見」の有無を検知。システムが危険と判断すると警報で注意を促したり、「スマート・ブレーキ・サポート(SBS)自転車検知付」との協調制御でブレーキ警告のタイミングを早めることで万が一に備えるシステムです。
赤外線カメラと赤外線LEDはセンターディスプレイのベゼル部分に内蔵しており、昼夜を問わず、またステアリングを操作する手などで遮られることなく、安定してドライバーをモニタリングし続けることができます。通常運転時にわずらわしさを感じさせないために、必要なタイミングでのみ警報を発するよう、制御を綿密に造り込んでいます。
赤外線カメラはセンターディスプレイを収めるベゼルの右角にある。赤外線LEDはディスプレイを挟んで対角線上のベゼルに埋め込まれている。赤外線LEDはドライバーを照らすためで、昼夜を問わずドライバーを認識するのが目的だ。人の目で感じられる波長範囲の外にある低い波長帯(940nm)を照射しているので、光を感じることはない。
眠気は5段階で検知しており、レベル4で警報、レベル5で警告を発する仕組みだ。レベル1から5までの分類については、『マツダ技報2019』から引用する。
まったく眠くなさそう
→視線の移動が速く、頻繁である。瞬きの周期は安定している。動きが活発で体の動きを伴う。
やや眠そう
→視線移動の動きが遅い。唇が開いている。
眠そう
→瞬きがゆっくりと頻発。口の動きがある。座り直しあり。顔に手をやる。
かなり眠そう
→意識的と思われる瞬きがある。頭を振る。肩の上下動など無用な体全体の動きあり。あくびは頻発し、深呼吸も見られる。瞬きも視線の動きも遅い。
非常に眠そう
→まぶたを閉じる。頭が前に傾く。頭が後ろに倒れる。
ドライバー・モニタリングが「かなり眠そう」と判断した場合は、警報チャイムを鳴らし、スピードメーターの内側に「休憩をおすすめします」というメッセージが表示される。この段階は「注意」で、メーター表示は白だ。システムが「非常に眠そう」と判断した場合は、いつ事故が起きてもおかしくない状態のため、ワンランク強い「警告」を発する。表示されるメッセージに変わりはないが、警報音はより強くなり、メーター表示はオレンジになる。
筆者はこれまでのところ、わき見を注意されたことはない。眠気については「注意」されたことが何度かある。「あ、そうなのかな」と感じた程度で、休憩するタイミングを早めるといったような、具体的な行動には結びつかなかった。眠気ではなく、長時間の運転による疲れだろうと自分で勝手に解釈し、そのまま運転を続けた。いつもと違う状態であることを意識しただけでもシステムの効果はあったに違いない(と信じている)。
眠気を「注意された」逆恨みで反論するわけではないが、ドライバーを覚醒させるような働きかけがクルマ側からあってもいいのではないか、と感じている。そう思い、Mazda Co-Pilot Conceptを取材した際に開発担当技術者に意見をぶつけてみたところ、「そう思います」との答えが返ってきた。眠気レベル3までなら、ドライバーに刺激を加えることで覚醒することがわかっているという。意識がなくなりかけても、最後に触覚は残るので、例えば、車線を逸脱しそうになったときの警告と似たような感じでステアリングを振動させるといった手が考えられる。「触覚を使うことで、あと15分はもたせてあげる。そういうことはできるのではないかと検討しているところです」
注意や警告が控え目だと物足りないし、しつこいとわずらわしい。感じ方は人それぞれなので、オートライトの点灯タイミングを「少し早く」とか「少し遅く」などに設定が変えられるように、ドライバーとシステムとの関係を調節できるといいかもしれない。レベル4で初めて注意するようでは生ぬるく、レベル3から何らかの働きかけが欲しいと感じるユーザーだっているかもしれない。
マツダは発表されたMazda Co-Pilotについてだけ考えているわけではなく、その裏でさまざまな可能性を検討し、模索している。2021年2月にe-SKYACTIV-X搭載車のエンジンとAT、クルージング&トラフィック・サポート(CTS)に関する制御プログラムのアップデートを発表したように、ソフトウェアのアップデートで安心・安全に関する機能を最新化することも、内容によっては可能だ。今後の推移を見守りたい。