Mazda Co-Pilot Conceptはオートパイロットではなく、コ・パイロット

2022年にver.1.0を導入!マツダの新技術はオートパイロットではなく、コ・パイロット

重要なポイントのひとつは、ドライバーを選ばず、特別な操作が不要で、通常使う一般道つまりインフラが整備されていない場所でも作動すること。
マツダは人間中心の自動運転コンセプト、「Mazda Co-Pilot Concept」を発表した。自動運転の技術を用いているが、ドライバーの運転負荷を軽減するための技術ではない。事故の発生を抑制し、悲しい思いをする人をゼロにするのが狙いだ。
TEXT◎世良耕太(SERA Kota)PHOTO◎MAZDA

オートパイロットというと、自動操縦の訳から自動運転を連想する。マツダの新しい技術はオートパイロットではなく、コ・パイロットとしているのがポイントだ。副操縦士を意味する単語を用いているのが重要で、コ・パイロット(システム)が常にドライバーを見守っている。万が一、ドライバーが正常な運転を行えない状況に陥ったときは、すかさずコ・パイロットがドライバーに代わってクルマを操作し、安全に停止させる。ドライバーに代わって操作するときに用いるのが、自動運転の技術だ。ドライバーに楽をさせるためではなく、同乗者や周囲への二次被害を防ぐのが目的である。

チーフエンジニアの栃岡孝宏さん

安全性能の向上などによって死亡重傷事故の件数は減っているが、ゼロにはなっていない。とくに近年注目を集めているのは、居眠りや、体調急変による事故だ。マツダの発表によると、78%のドライバーがさまざまな頻度で運転中に眠気を感じているし、体調急変に起因する交通事故発生件数は増加する傾向だ。体調変化による事故の95.8%は60km/h以下(つまり、ほとんどが一般道)で起きているというデータもある。

死亡重傷事故は減っているが、78%のドライバーが運転中に眠気を感じているというデータがある。
発作や急病などの体調急変は95.8%が60km/h以下で起きているという。

高齢化がますます進むこともあり、体調急変による事故は今後も後を絶たないと予想される。だから、副操縦士(その実システム)が常に運転を見守ることにより、ドライバーや乗員に安心・安全を提供しようというのだ。体調急変のリスクを恐れることなく積極的にクルマに乗り、「走る歓びを味わってほしい」ということだ。

第一段階は疲れにくく運転に集中できる環境作りと衝突安全技術の強化と緊急通報システム。第二の進化はi-ACTIVESENSEなどのドライバーの認知や判断をサポートする技術。第三段階がMAZDA CO-PILOT CONCEPTだ。

Mazda Co-Pilotは3つのコア技術で成り立っている。ひとつめは「ドライバー状態検知技術」で、姿勢崩れや視線・頭部の挙動、ステアリング/ペダル操作量から総合的に異常を検知・判断する。ふたつめは「Mazda Co-Pilot HMI仮想運転技術」で、いつでも制御介入して対応できるよう、裏で仮想的に運転する技術だ。3つめは「ドライバー異常時退避技術」で、ドライバーに異常が発生した場合は、安全に停車したうえで、必要に応じて緊急通報を実施する。

ドライバー状態は、3つのパラメーターを用いて検知する。ひとつは運転操作で、普段の運転操作から逸脱した動き、例えば、ステアリングやペダルの操作量が、運転シーンに応じた操作量から乖離している場合は「異常」と判断する。ふたつめは頭部の動きで、車両挙動に応じた顔向き(上下、傾き)で判断する。基準より大きな動きや逸脱した動きがあった場合は、異常というわけだ。

3つめは視線挙動。ヒトは動くものなど、注意が引かれるものに対して無意識に視線が向くと同時に、リスクが高い場所、例えばミラーなどには意識的に視線を向ける。ところが、脳の機能が低下すると、意識的な視線挙動に異常をきたし、無意識的なエリアに視線が集中する。その視線の挙動から、ドライバーの異常を判断する。脳科学に踏み込んだ研究を通じて、アルゴリズムを構築している(鋭意継続中でもある)。

2022年からMAZDA CO-PILOT1.0を導入予定だ。2025年以降に2.0として高速道路で車線変更して路肩に移動、一般道ではより安全な場所へ退避する技術へ進化することをマツダは目指している。

マツダは2022年にMazda Co-Pilot 1.0を市場導入する予定。ドライバーの居眠りや異常を検知した場合、ハザードとブレーキランプを点滅させ、ホーンを鳴らして周囲に異常を知らせる。と同時に、高速道路では路肩に退避し、一般道では車線内で減速停止を行なう。「1.0」はベース車のセンサー仕様を受け継いだ状態でバージョンアップさせるプランだ。

2025年以降の導入を見込むMazda Co-Pilot 2.0は1.0の機能に対し、システム起動時は「ドライバー異常のため、安全なところまで自動で走行し、停車します」のような音声案内が加わる。また、高速道路だけでなく一般道でも、停止禁止場所をうまく避けながら、路肩などに退避するような技術を成立させる。

実際にCO-PILOTを体験してみた

テスト車両はMAZDA3ベースに各種センサーが追加された車両だった。
フロントにはミリ波レーダー
Aピラー上部とフェンダーにもカメラがつけられている。
ルーフ後端にもカメラが。合計12個のカメラがつけられていたが、12個に決まったわけではない。
高精度地図データを使っている。
追加されたドライバーモニタリングシステム
中央の丸い部分もセンサーだ。

三次自動車試験場(広島県)に用意されていた試乗車は、Mazda Co-Pilot 2.0に相当する技術を搭載した試作車だった。現行のMAZDA3がベースで、ドライバーの状態検知に既存のドライバー・モニタリングカメラを使用するいっぽう、周囲の状況を把握するため12個のカメラを追加。さらに、高性能地図データを利用する。追加のカメラは取ってつけたような格好だったが、市販される際にはスタイリングとの整合性がとれているはず。また、追加のカメラは12個と決まったわけでもない。

運転中に体調不良等で運転操作ができなかったと想定してみた。

運転席で居眠りしたフリや意識を失って倒れ込んだフリをしてみると、システムは即座に起動。裏でスタンバイしていたコ・パイロットがドライバー(つまり筆者)になりかわり、クルマの運転操作を行なう。事が起こる前や後に特別な操作は必要としないのが、このシステムの特徴でもある。「500メートル先のパーキングに停車します」と案内できるのは、高精度地図データを利用しているからだ。高速道路を模擬したシチュエーションでは、左側車線の後方にいる車両をきちんと検知しつつ、スムーズに車線変更を行なった。

ドライバーが運転不能の状態に陥った際の車両は、自動運転で動く。一流のショーファーのように運転が丁寧なのは、助手席や後席の乗員に不安感を与えないためだ。それができるのは、周囲の状況を精度高く把握しているからであり、判断が正確で、システムの指示に的確に応えられるドライブトレーンと操舵系、シャシー技術があるからだ。

マツダの自動運転技術は他とはひと味違う。ドライバーが運転できないと判断した場合に限り起動し、クルマを安全に停止させ、二次被害を防ぐために機能するのが特徴だ。

キーワードで検索する

著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…