レクサス「LBX MORIZO RR」はLBXの皮を被ったGRヤリスだ!304psの高級スニーカーの中身は?

レクサスは7月18日、2024年1月の東京オートサロンで世界初公開された「LBX MORIZO RR CONCEPT」の市販バージョンを発表した。LBXにGRカローラのパワートレーンを移植したコンパクトSUVだ。MORIZO(モリゾウ)こと、トヨタ自動車会長の豊田章男氏が納得する“クルマ好きの相棒”となれる車両を目指して開発されたという。いったいどのような仕上がりなのだろうか?袖ケ浦サーキットで試乗した。

TEXT :世良耕太(SERA Kota)  PHOTO:世良耕太/LEXUS

ラグジュアリーだけど刺激的!存在感のあるプロポーション

レクサス・LBX MORIZO RR 全長×全幅×全高:4,190 mm(±0)×1,840mm(+15)×1,535mm(-10) ホイールベース:2580mm(±0) ※()はHEVモデルとの比較。

レクサスLBX MORIZO RRは、2024年1月の東京オートサロンで世界初公開されたLBX MORIZO RR CONCEPTの市販バージョンである。乱暴に説明すれば、LBXにGRカローラのパワートレーンを移植したコンパクトSUVだ。MORIZO(モリゾウ)は、トヨタ自動車会長の豊田章男氏が、レーシングドライバーとして活動する際に用いる名前に由来。

RRは豊田章男氏がモータースポーツを基点とした「もっといいクルマづくり」を実現したいという思いから立ち上げたROOKIE Racingを意味する。MORIZO選手は同チームの液体水素GRカローラでスーパー耐久シリーズに参戦中だ。液体水素GRカローラのドライバーのひとり、佐々木雅弘選手はLBX MORIZO RRの開発ドライバーを務めている。

レクサス・LBX MORIZO RR 車両価格:650万円 車両重量:1,440kg(MT)/ 1,470kg(AT)

レーシングドライバーと鍛え上げた基本素性の高さ

カラーリングは全5色のバイトーンでラインナップ

チーフエンジニアを務める遠藤邦彦氏は、LBX MORIZO RRの立ち位置について次のように説明する。

「モリゾウさんのような、レーシングカーからコンパクトカーまで、たくさんのクルマに乗り尽くした本物のクルマ好きが、クルマとの対話や音、ニオイまで楽しみ、笑顔になる。相棒となれるクルマを目指して開発しました」

MORIZOは“クルマ好き”の象徴である。決して、モリゾウ個人のために開発したのではない。佐々木選手が補足する。

「お客様の代表がモリゾウさんというイメージです。モリゾウさんが納得するレベルに仕上げないと、お客さんはウンと言わない。モリゾウさんをウンと言わせるためのクルマではなくて、一番はお客さん。ハンドルを握った瞬間に『ワオッ』って言ってもらいたい。そういうワクワク感みたいなものをこのクルマに注ぎ込みたいと思いながら開発しました」

開発ドライバーを務めた佐々木雅弘選手

GRヤリスは競技で勝つために開発されたクルマだ。進化型GRヤリスと同じパワートレーンを積むとはいえ、LBX MORIZO RRはレクサスの一員である。競技最優先ではない。普段はカジュアルに乗れるコンパクトラグジュアリーSUVとして機能し、走りを楽しみたいとテンションを上げたときに、ドライバーの期待を裏切らない運動性能を発揮する。その意味で、運動性能に振り切ったGRヤリスより、商品づくりのハードルはむしろ高いといえる。やり過ぎは禁物だが、控え目にすぎると物足りなさを生んでしまうからだ。

レクサスLBX MORIZO RRはGRヤリスやGRカローラと同じGRファクトリーで生産される。そう記せば、このクルマが運動性能とラグジュアリー、どちらにより軸足を置いているかが推察できるだろう。ベースとなるLBXはヤリスクロスなどと同じGA-Bプラットフォームを採用し、ストラット式フロントサスペンションのアッパーサポートやナックル(スチール鋳造品→アルミ鍛造品)など多くの領域に手を入れて、運動性能と快適性の向上を図った。

LBX MORIZO RRのプラットフォームはフロントがGA-B、リヤはGA-Cで、有り体に言えばGRヤリスと同じだ。LBXはベースのGA-Bに対してスポット溶接の打点を増やし、構造用接着材の塗布範囲を拡大して剛性向上を図っている。その、剛性向上を図ったLBXに対し、LBX MORIZO RRはスポット溶接の打点を10%強にあたる469打点追加。構造用接着材の塗布長は50%強の12.8m追加した。「強力なパワートレーンやハイスペックなタイヤの性能を最大限生かせるよう、基本素性の向上に注力した」と遠藤チーフエンジニアは説明する。

レクサス・LBX MORIZO RR 駆動方式:電子制御AWD制御 トランスミッション:Direct Shift- 8AT/6速iMT

クルマ好きがワクワクする、細部までこだわった造り込み

強力なパワートレーンとは、前述したようにGRヤリス、それも2024年1月に登場した進化型と同じで、G16E-GTS型の1.6L直列3気筒ターボを指す。ベース車はシステム最高出力100kWを発生するハイブリッドシステム(エンジンはM15A-FXE型の1.5L直4自然吸気)を搭載する。

レクサス・LBX MORIZO RR エンジン:1.6L直列3気筒インタークーラーターボ 最高出力:224kw(304ps)/6,500 最大トルク:400Nm(40.8kgfm)/3,250〜4,600 0-100km/h加速:5.2秒(AT/MT)

G16E-GTS型の最高出力は224kW(304ps)/6500rpm、最大トルクは400Nm/3250-4600rpmだ。トランスミッションは6速MT、もしくは8速ATが選択できる。駆動方式は電子制御カップリングをリヤデフ前に配置するAWDだ。前後の駆動力配分は、LBX MORIZO RR専用にチューニングしている。

タイヤは235/45R19サイズを装着。ベースのLBXは225/55R18なので、ワンサイズ幅広だ。その幅広タイヤを収めるため、前後フェンダーにアーチモールを追加。全幅はベース車比で15mmアップの1840mmだ。4190mmの全長と2580mmのホイールベースに変更はない。全高は1535mmで、ベース車より10mm低い。タイヤ外径の違いとコイルスプリングで下げている。

タイヤサイズは235/45R19、オーダーメイドシステムの「Bespoke Build」ではモリゾウのシグネチャーカラーでもあるイエローのブレーキキャリパーを選択することもできる。

スペック表上の全高の違いは10mmだが、ルーフの最高点で比較すれば、MORIZO RRはベースのLBXに対して25mm低くなっているという。スペック表での違いが10mmに留まっているのは、MORIZO RRがシャークフィン型のルーフアンテナを装着しているからだ。ベース車はルーフアンテナを搭載していない。機械式立体駐車場の利用を考慮して全高を1550mm以下に抑えるため、日本仕様のみアンテナ機能をスポイラーの中などに分散して配置しているからだ。

シャークフィンを装着しているが全高は1,535mmとベースモデルに比べて10mm低くなっている。また、ルーフの最高点では25mm低くなっている。

前席のフロアに対するヒップポイントはベース車に対して10mm下げたというから、車高の低下分も含めると、MORIZO RRの地面基点のヒップポイントはベースのLBXに対して35mm下がっていることになる。なかなか大きな違いだ。室内では、ブレーキペダルの踏面角をベース車に対して変更したのが変化点(全ペダルのパッドをベース車の全面ゴムからアルミに変更している)。サーキット走行時のペダルストロークに合わせるためだ。

インテリアは高級感が漂う。ヒップポイントはベースのLBXに対して35mm下がっている。

サーキット走行時はブレーキペダルのストロークが長くなる(奥まで踏み込む)。するとペダル踏面が逃げて接触面が減るため、フィーリングが良くないとのフィードバックが(佐々木選手など)評価ドライバーからあった。そこで、パッドの取り付け角をフロアに対して4度寝る方向に変更。深く踏み込んだ際に広い面積で足裏と接触するようにし、フィーリングを向上させた。

サーキット走行などでブレーキを奥まで踏み込んだ時のフィーリングを向上させるためにペダルの角度を調整した。
ペダル踏面の角度を調整して、4度寝る方向に変更している。

MT車はサイドブレーキのレバー比をGRヤリス比で変更している。雪道などでターンする際にストローク量が小さくてコントロールしづらいとの指摘から、レバー比を大きくして(操作力の低減を図ると同時に)ストローク量を増やした。このエピソードひとつ取り上げても、MORIZO RRの走りへのこだわりが感じられる。

技術的なハイライトのひとつは、塗布型剛性アップ材のREDS(Response-Enhancing Damping Structure)だ。フロントのロワーアームに熱硬化性樹脂を塗布することで断面変形を抑制。1.5倍の剛性アップを図るにより、ベース車に対して操舵応答性を高めている。鉄板を溶接するなどの従来技術で剛性向上を図るより重量増は小さくて済むし、振動減衰の効果で乗り味が上質になる副次的な効果も得ることができたという。

左は従来のフロントのロワーアーム。右は塗布型剛性アップ材のREDSを溝の部分に塗布している。
熱硬化性樹脂はカチカチに固まり断面変形を抑制。1.5倍の剛性アップを実現しているという。

運動性能の高さは、レクサスLBXの皮を被ったGRヤリスだ

袖ヶ浦フォレストレースウェイ(全長2.436km)でAT、MTそれぞれ5周ずつ周回した。ATは慣熟〜NORMAL〜SPORT〜VSC OFF〜クールダウンと、ドライブモードやVSC(横滑り制御機能)を切り替えながら走行。MTも同様に慣熟〜NORMAL×2周〜VSC OFF〜クールダウンの順に走行した。

AT仕様にはNORMALとSPORTの2つのドライブモードが設定されている。SPORTモードはショックよりもレスポンスを重視した変速となり、エンジンのパワーバンドを積極活用するギヤ段選択となる。サーキットを走るような状況では当然、SPORTモードのほうが合っているが、NORMALモードでもMモードにしてパドルで変速を行なえば、「最速変速」の制御となり、よりダイレクト感が味わえるようになる。ダウンシフトした際は意図的にショックを出す制御となっており、これがスポーティに走る気分を盛り立てる。

レクサス・LBX MORIZO RR(ATモデル)

スポーツ走行サウンドをオーディオスピーカーから鳴動するアクティブサウンドコントロールもLBX MORIZO RRが搭載する特徴的な機能で、ドライバーの気分も高揚させるのに大きな効果があると感じた。レクサスLFAを意識して作り込んだサウンドはNORMALよりもSPORTのほうが刺激的だし、SPORTでさらにVSCをOFFにすると、アクセルオフ時にボロボロボロといったバブリングサウンドを発するようになり、刺激度が増す。

スポーツ走行時にVSCをOFFにするのは抵抗がある。そんなときは、EXPERTモードに切り換える手がある。AWDを50:50のモードにしてVSC OFFスイッチを押すとEXPERTモードになり、基本的にはVSC制御OFFとしながら、スピンモードに陥った際などいざという場面では制御が介入して助け船を出してくれる。ま、VSCをOFFにしても無理をしなければいいだけの話だが……。

室内に響くアクティブサウンドコントロールはまったく違和感がない。本物のエンジンサウンドに包まれているような感覚になる。

MT車は、変速時のエンジン回転数合わせを自動で行なってくれるiMT(インテリジェントマニュアルトランスミッション)がありがたい。進化版GRヤリスで制御が進化しており、これをMORIZO RRに合わせてチューニング。回転合わせの応答性が上がっており、シフト操作の楽しみは残しながら、ブレーキとステアリング操作により集中できる。ON/OFFスイッチがシフトレバーの近くにあって切り換えやすいのもいい。

室内はレクサスらしいラグジュアリーなムードで満たされているが、走りは多分にGRヤリス味にあふれており、7割から8割がたは運動性能に振っている印象。LBX MORIZO RRはレクサスLBXの皮を被ったGRヤリスだ。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…