生きること、それはスピードの世界を克服すること
「ヒトそれぞれに想いあり・好みあり・そして制御特性あり」。これはごく当たり前のことですが、それらは年齢によっても変わります。今日のクルマは高速の世界を提供し、ヒトのモビリティ能力をはるかに超えた高速の領域に至るまで補完し、実現しています。本来、人は生理学的には、時速3km/hの生き物なのです。
この領域であれば、行動や操作を誤って衝突しても脳や臓器を守ることができ、命を失うことは極めて稀でしょう。でも、ヒトはスピードに憧れ、高速の世界を追求してきました。オリンピア祭(紀元前776年)を原点とするオリンピックは、速さと技の限界に挑戦し、競い・励まし・楽しみ、今日に至っています。遠出の旅や海外旅行もスピードのお陰で容易になっています。さらには、宇宙旅行も年々近づいてきています。どうやら「生きること、それはスピードの世界を克服すること」人類はこの道を選んだのでしょう。それには人の制御特性と安全そして安心の関係を配慮し、その原点となるヒトゲノム・デザインを追求することです。
ヒトの生命設計図によると、たとえば、ドライバーが単純な進路情報を受け止めて運転する場合(単純運転制御)のハンドル操作には0.25~0.45秒(実験値・個人差あり)かかります。これは、視覚と脳細胞が受け止める認知時間および脳細胞の活動による判断時間そしてその指令による操作時間を合計した値です。ブレーキ操作では、単純の場合であっても0.45~0.60秒かかります。状況が複雑で迷いが生じれば0.75~0.95秒秒ほどかかることもあります。日々の運転で、情報の取り遅れ・取り違い等により、時として予想もしない事故をもたらすこともありえます。人は生き物、常時完璧などはありえないのが現実でして、そこに焦点をあてる研究開発も不可欠です。
ヒトのゲノム、たとえば遺伝子アルゴリズム(1975年ミシガン大のホランド)によるクルマのボディ設計では、ヒトの耐性や人体強度、モビリティや好みのタイプ、空力・運動性能・車体強度・静穏性などの動力学、そして地政学的特性や価値観などを配慮した最適設計も望まれます。さらに、これらの膨大な情報処理に加えて走行ルート特性や他車対応などの走行環境への適応も欠かせません。