独走人気フルキャブバンの始まりは1BOX&トラックで・初代ハイエース1967(昭和42)年・前編

初代ハイエースは、1967年の初代から乗用モデルもラインアップしていたが、元来、トラック&商用バンを主体に発売されたクルマだ。
本記事では、この頃にはまだめずらしい、初代ハイエースの乗用版「ハイエースワゴン・デラックス」について、前編・後編の2回に分けてお送りしていく。
今回の前編は外装編だ。
TEXT:山口尚志(YAMAGUCHI Hisashi) PHOTO:中野幸次(NAKANO Kouji)

人気フルキャブ1BOXの初代モデルの内外詳細ご紹介

日本のフルサイズ1BOXはトヨタハイエースのほか、日産にはキャラバンとホーミーの兄弟車があり、マツダはボンゴブローニィを、いすゞはファーゴを販売していたが、市場の縮小で淘汰され、いまではハイエースとキャラバンのふたつだけになってしまっている。
現在はハイエースの独擅場になっており、キャラバンも健闘してはいるがまだまだハイエースの背中・・・じゃなく、バックドアが見えない状態だ。

本記事では、いまでは仕事野郎なら一度はあこがれる(?)、ハイエースの初代モデルを採り上げる。

【概要】

初代ハイエース、1967(昭和42)年10月2日発表・発売。
トヨタが「新しいタイプの商用車」と謳ったハイエースは、当初は次の4ボディ・11機種でスタートした。

1.ハイエース・デリバリーバン(3人乗り、サイドドア6人乗り、サイドドアDX(6人乗り))
1350cc、65psエンジン搭載。6/3人乗り、500kg/850kg積みの全天候型本格的商用車。

2.ハイエース・コミューター(コミューター12人乗り、コミューター15人乗り)
たったの1350ccで12人乗り、1500ccで15人乗りの小型バス。

3.ハイエース・ワゴン(ワゴンDX)
1500cc、70psで、さきのデリバリーバンと同じボディを乗用車化、内装をデラックス化してラジオ、ヒーター、ウインドウウォッシャー、熱線吸収フロントガラスなどを備えた5ナンバーワゴン。

4.ハイエース・トラック(トラック、フラットデッキ、オープンバン、パネルバン、ダブルキャブ)
3人乗り、1t積み65psの小型トラック。

いまのハイエースを知る人には信じにくいだろうが、ハイエースもかつては2代目までオリジナルのトラックボディを有していた。3代目以降の「ハイエーストラック」からはそのときどきのトヨエースやダイナのバッジ違いとして4代目まで継続、以後、このクラスのトヨタトラックはトヨエースとダイナの2台体制で続けたが、いまではそのトヨエースさえなくなり、ダイナだけがその系譜を受け継いでいる。

ここでお見せするのは、上記シリーズのうちの乗用版「ハイエースワゴン デラックス」だ。
ただし、本記事の撮影車両は、世の中に離ればなれで放置されていた複数の草むらハイエースのパーツを寄せ集めて造られたレストア車。したがって、年式不明というより、そもそも年式の概念が存在しないクルマであることを念頭に入れてごらんいただきたい。

外観

・正面

1980年代以前生まれの人なら、幼少期に街で頻繁に見かけていた記憶がよみがえることだろう。エンジンはミッドシップ前席下なので、フロントグリルと呼ぶべきパネルはダミー。このデザインも、開発段階で発売中だったアローラインのコロナ(3代目)をイメージしたのだそうな。

正面。

・斜め前

フロントの車幅灯とターンシグナルは上下一体で、同時にサイド用とも兼用している。フロントドアの三角窓もある年代以上のひとには懐かしい。

斜め正面。

・真横

フロントガラスと同等にリヤガラスも室内側に傾け、真横から見ればほとんど前後は線対称。サイドのリヤドアはスライド式・・・ではなく、ヒンジ式。開ければ家の玄関並みかそれ以上の開口部がある。

サイド。

・真後ろ

バックドア上端は、いくらかルーフ側にラップしている。意図したかどうかはわからないが、少しでも開口上下寸を大きくするための処置だろう。次項「斜め後ろ」で述べるとおり、リヤガラス下端が高めなので全体にガラス面積が小さく見える。いっけん、後方視界は良くはなさそうだが、フロアも着座高も高いので影響は少ない。

真後ろ。

・斜め後ろ

バックドア上4分の3は上を向き、下4分の1はやや下向きに。サイド視の前後線対称とともに、昔の1BOXはみなこうだった。バックドア側ガラス下端はサイドガラスのウエストライトより少し上になっているのが、このアングルからわかる。

斜め後ろ。

灯火

・フロントランプ

真正面写真でお見せしたとおり、初代ハイエースは丸目4灯式。外側がローで内側がハイビーム。その上にはさきに述べたとおり、小さな白色の車幅灯とオレンジ色ターンシグナルを一体にしたランプがちょこんと鎮座する。これも初期は白一色で、時期によって白/オレンジ、オレンジのみと変遷がある。

4灯式ヘッドライト。

・リヤランプ

3色ひとくくりのコンビランプは、上からターンシグナル、テール&ストップ、リバース。その上には、あわてて追加したかのようなリフレクターがある。ランプは全体的に小さく、下向き面に取り付けられていて、後ろ姿が何となく困り顔に見えるのがいい(後ろ姿で「顔」というのは変だが。)。
初期のコンビランプはオレンジと赤のみが一体で、リバースはリヤバンパー両端の上に、汎用品をおまけしたかのような姿でついていた。

リヤコンビランプ。

外観装備

・2スピードワイパー

ノブを引いて使う、低速、高速の2段式。シルバー塗装がいかにも当時風のいい味を出している。

2スピードワイパー。

・前後バンパー

バンパーは、この時代ではおなじみ、めっきを施した鉄製。衝撃吸収性には優れていても、補修費や材料費が高額になる樹脂製になるのはかなり先だが、鉄は鉄なりに考えられており、対歩行者接触時の引っ掛かりがないよう、両端をできるだけ丸められている。

フロントバンパー。

リヤバンパーは、バックドアが上下開きで、下ドアはバンパーごと倒れるようになっているため、リヤバンパーは3分割構造になっている。

リヤバンパー。

・支柱可動式アウトサイドミラー

カタログ上では「支柱可動式アウトサイドミラー」と呼んでいる。電動調整なんていう概念などない、手鏡みたいな薄いミラーを、丸いピボットを支点に調整する。名のとおり、支柱は可動式で、カタログでは「強い力が加わると内側に動きます。並進車、歩行者への安全配慮です。」と謳っている。
左ミラーには車両前方下を映す丸形のアンダーミラーがある。

支柱可動式アウトサイドミラー(右側)。
支柱可動式アウトサイドミラー(左側)とアンダーミラー。

・ドアハンドル

ドアハンドルは本体を握って開けるグリップ式だが、様相はいまとまるで異なり、右ドアなら右手の、左ドアなら左手の、握った手の親指でボタンを押して解錠される仕掛け。ハンドルそのものも金属製で、けっこう角ばった形でドア面から突出している。クルマの内外のパーツをできるだけひっこめたりなだらかにしたりで、接触した歩行者へのダメージを低減しようという動きはまだ少し先のことだ。

ドアハンドル。

・タイヤ

タイヤは機種によりけりでわずかずつ異なるが、このクルマの場合は6.00-13-6P。
ホイールカバーは見てのとおりだが、冒頭で述べたように、このクルマはいろいろな初代ハイエースの部品を寄せ集めしてのレストア車なので、ホイールもカバーも当時ものなのかどうかはわからない。何しろ年式も不明なんだからね。

6.00-13-6Pタイヤ。

・雨どい

この時代のクルマならではの、機能が見た目にわかりやすいもののひとつ。
いまのクルマは、モヒカン構造となるルーフとルーフサイドのつなぎ目隠しのモールが雨どい役を兼ねている。このクルマの雨どいは、家屋と同じく、雨どいのための雨どい。たかだか10mmにも満たない溝幅だがきちんと機能し、乗降中のひとの頭に水を落とさないようになっている。昔は乗用車も商用車もきちんとこのような雨どいが備えられていた。見た目の問題と風切り音の発生源になるため、いまの雨どい機能は前述モールと一体化されているが、それほどのたまり水でなくてもあふれ、ドアを開ければ雨水がバシャーになることが多い。

雨どい。

・リヤサイドガラス

先述のとおり、リヤサイドドアはスライド式ではなくヒンジ式。「ワゴン」では左サイドだけドアがつく。フロントドアと同じヒンジ式ならガラスだって昇降させてもよさそうなものだが、ドアのない右側もリヤサイドドアガラスも引き違い式。よく見るとガラスは平面(カーブドガラスではない)なので、もしかしたら、ガラス形状を左右共通にして部品種類を減らしたかった(=コスト低減)がための措置かも知れない。

引き違い式のサイドガラス(右側)。

・長~いクオーターウインドウ

「クオーター(quarter)」とは「4分の1」の意味だが、4分の1どころか、クオーターガラスはサイド視でキャビンの半分弱ほどの長さを持っている。これだけ長けりゃ採光も豊かで、セダンでは得られない明るさのキャビンで過ごすことができる。ただし、接着式ではない、Nゴム(断面形状がN字型のゴムのこと。)で完全固定されていて、上下昇降はもちろん、引き違いででもヒンジ式ででも開くことはできない。もっともそれとてこのワゴンとバンの話で、12人乗りや15人乗りになると引き違い式の窓になる。このワゴンも開けられればよかったのにと思うが、過去カタログを見れば開く窓のワゴンがある・・・年式によって違うのか、やはりレストア上の都合なのか?

クオーターガラス(右側)。

・エアアウトレット

雨どいと同じく、見てすぐその役割がわかるユニット。最後端ピラーにある。
内外気の入れ替えが「換気」だが、外から風が入らなければ内気は出て行かず、内気が出なけりゃ外気は入ってこない。ラム圧(走行風圧)で外気を得るのと入れ替わりに、内気はここから外に吐き出す仕掛け。
難点は音が入ってくることで、ためにいまのクルマのエアアウトレットは見た目優先も含めてキャビン直付けではなく、室内気はリヤバンパーサイド裏に設けた、負圧で開閉するダクトから抜けるようになっている。

エアアウトレット。

・給油口

給油口は、キー孔を直接備えたキャップがむき出しになっている。場所は車体左側面、後輪後ろフェンダーに。

給油キャップ。

次回の名車探訪は初代ハイエース内装編。

お楽しみに。

【撮影車スペック】

トヨタハイエースワゴン デラックス(年式不明・RH11G 4速コラムシフト)

●全長×全幅×全高:4310×1690×1880mm ●ホイールベース:2340mm ●トレッド前/後:1255/1255mm ●車両重量:1280kg ●乗車定員:9名 ●エンジン:12R(水冷直列4気筒OHV) ●総排気量:1587cc ●最高出力:82ps/5400rpm ●最大トルク:12.5kgm/3000rpm ●燃料供給装置:キャブレター ●燃料タンク容量:45L ●サスペンション 前/後:独立懸架コイルばね/半楕円形板ばね ●ブレーキ 前/後:ツーリーディング/デュオサーボ ●タイヤ:6.00-13-6P

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