新型輸送艦「ようこう」進水。南西諸島防衛に向けた、自衛隊の海上輸送能力強化の取り組みとは

若宮防衛大臣補佐官が支え綱を切断し、「ようこう」は進水した。艦首右側に跳ね上げ式のランプウェイ(サイドランプ)が確認できる。ランプウェイは、艦の後部にも設けられている(写真/菊池雅之)
どんなに優れた戦車や部隊であっても、戦場に送り届けなければ意味はなく、食料や弾薬を補給し続けなければ戦うことができない。東西1000kmに広がる南西諸島を防衛するためには、海上輸送力は「屋台骨」とも言えるものだ。防衛省・自衛隊は、輸送艦部隊の新設に加え、さまざまな動きを見せている。
TEXT:綾部剛之(AYABE Takayuki)

輸送艦部隊新設に向けた進水式

11月27日、輸送艦「ようこう」が進水式を迎えた。この艦は、海上自衛隊ではなく、陸海共同部隊として、今年度末に新編される輸送艦部隊「自衛隊海上輸送群(仮称)」で運用される艦艇となる。先月10月29日には、同じく海上輸送群に配備される輸送艦「にほんばれ」が進水式を行ない、11月3日の記事[https://motor-fan.jp/mf/article/274229/]で紹介した。海上輸送群では、2027年度までに各種輸送艦艇10隻体制を目指している。

「ようこう」の画像はこちらから

進水前の「ようこう」。艦後部のランプウェイが確認できる(写真/菊池雅之)

先月進水した「にほんばれ」が、基準排水量2400トン・全長80mであったのに対して、今回進水した「ようこう」はひと回り大きく、基準排水量3500トン・全長120mとなっている。物資の陸揚方法も異なる。「にほんばれ」は艦首が大きく左右に開き、そこから伸ばした歩板(ランプウェイ)を通して、陸揚げを行う。対して「ようこう」は、船体右側の2カ所に跳ね上げ式のランプウェイ(サイドランプ)を持ち、これを岸壁に下ろして陸揚げする。

カーフェリーなどで見られるRO-RO(Roll On/Roll Off)方式であり、車両が自走で乗降できる。また、フォークリフトなどを乗り入れることができるので、クレーンのない港湾でも物資の搬入出作業が用意となる。「ようこう」(そして「にほんばれ」)も、南西諸島の離島への部隊・物資輸送を目的としているため、規模の小さな港での運用が考慮されているわけだ。

「ようこう」は千数百トンの輸送能力を持ち、車両を数十両、20フィートコンテナなら数十本を積載することが可能だという。海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」(8600トン)より、かなり小さい船だが、これは小さな離島の港湾を想定しているからだ(写真/菊池雅之)

民間チャーター船を一気に4倍に!

さて、海上輸送力の強化という点では、海上輸送群の新編のほかにも、いくつかの取り組みが見られる。現在、防衛省・自衛隊はPFI(民間資金活用)事業として2隻の大型フェリーをチャーターし、部隊の輸送等に用いている。このPFI事業によるチャーター船を大きく増強する方針が、令和7年度概算要求で示された。なんと、一気に6隻増やし、8隻体制とするものだ。計画では2027年度より運用開始となる。

自衛隊は「ナッチャンworld」と「はくおう」、2隻のフェリーを輸送のためチャーターしている。同様のチャーター船を一気に8隻に増やす計画だ(写真/陸上自衛隊Xより)

また、海上自衛隊は輸送艦の増勢こそしないものの、2028年度の就役を予定している「新型補給艦」(14500トン級補給艦)に、サイドランプを追加し、車両搭載能力を持たせる。「補給艦」とは、護衛艦への燃料・物資の補給を担う艦なのだが、これにより同艦は「輸送艦」的な能力も併せ持つことになるだろう。

防衛省資料に掲載された「新型補給艦」のイメージCG。従来の補給艦とはまったく異なる艦容で、さらにランプウェイが追加される。この艦は貨物装置の自動化などによる省人化が図られており、ランプウェイ追加にはフォークリフトなど作業車両乗り入れによる物資積み込みの迅速化・効率化という、補給艦本来の目的もあると思われる。

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著者プロフィール

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綾部 剛之

軍事関連をメインとした雑誌/書籍の編集者。専門は銃器や地上兵器。『自衛隊新戦力図鑑』編集長を務めて…