君は見たことがあるか? 初代ソアラ、幻のロープライスモデル「2000VI」!【時代の名車探訪 No.1-10 トヨタソアラ・GZ10/MZ11型・1981年(昭和56)年・2000VI & ラインアップ編】

「時代の名車探訪」ソアラの第10回目にして最終回。
ファイナル回は、みなさんが過去9回のソアラ解説で抱いたソアライメージをひっくり返してやろうと思う。
他ではおめにかかれない記事、私からみなさんに贈る、ちょっと遅いお年玉である。

TEXT:山口尚志(YAMAGUCHI Hisashi)
PHOTO:中野幸次(NAKANO Kouji)/モーターファン・アーカイブ

生産期間は最初の1年! ソアラ「2000VI」を詳密? 解説

過去9回のソアラ記事から、みなさんはどのようなイメージを抱いただろうか。

・ヨーロッパ市場での200km/h巡行も念頭に、空気力学をフル稼働させて構築した、茶系統の濃淡で上下を塗り分けたエアロダイナミクスボディ。
・170psパワーと低燃費を両立させた、新開発の直列6気筒DOHCツインカムエンジン。
・ヒラヒラ付きでフカフカの豪華なシート。エレクトロニック・ディスプレイメーター、タッチ式のマイクロプロセスド・オートマチックエアコンディショナー、クルーズコンピューターに代表される先進デバイスに満ちたインテリア・・・

とまあ、こんなところだろう。

未来感とラグジュアリーさを同居させた、アダルトなプレステージ2ドアクーペ・・・それが初代ソアラだ。
自動車史の上でもトヨタ史の上でも、歴史を語るうえで絶対に外してはならない初代ソアラだと思う。

トヨタ・ソアラ

だが、ラグジュアリーであるばかりがソアラではない。

ソアラの機種構成は全部で6つ。今回は最上級「2800GT-EXTRA」を主役に据えたが、ならば当然最下級のクルマも存在するわけだ。

「ソアラ 2000VI」がそれだ。

他のソアラと比べ、外観の違いは鉄ホイールを覆うカバーがないことくらいだが、内装、とりわけ計器盤はソアラのイメージからはほど遠い。

ソアラ幻の最廉価機種、2000VI。廉価機種で省かれがちな機種マーク「VI」もきちんと備えているのはえらい。
2000VI計器盤
2000VI内装

ソアラの象徴「エレクトロニック・ディスプレイ・デジタルメーター」なんぞどこへやら、電圧計、油圧計も含めたすべてが指針式となり、時計は3針式のアナログ式となる。
これまたソアラアイデンティティのひとつ、タッチ式のマイクロプロセスド・オートマチックエアコンディショナーは単なる3連ダイヤルコントロールのヒーターとなり、冷房はオートではない、マニュアル式エアコンがオプションとなる。

フェンダーミラーは電動ではなく手動。パワーステアリングだってハンドルの上下調整だってない。
ドライバーの動きに沿って各部を照明するイルミネーテッドエントリーシステムがないのはいいとして、いくら最廉価機種とはいえ、ソアラにしてパワーウインドウや電磁ドアロックがないのはたまらない。

室内カラーは他機種と同じ数だけ用意されるが、写真の2000VIはブラック内装車。計器盤も黒であることから、室内は何だかクラウンのタクシーみたいな雰囲気だ。

その頃のクラウンのタクシー仕様車の計器盤。名称はまさにクラウン2000TAXI。
クラウン2000TAXIの前席。
クラウン2000TAXIの後席。
クラウンTAXIの写真はすべて1979(昭和54)年12月型。

2000VIのお値段、5MT車が166万2000円也。4AT車は9万2000円高となる。

装備構成や価格、1981年時といま・・・年明けて2025年だから、44年前と比べるのは意味がないが、数字だけ見ればいまの軽自動車より安い。

ソアラ2800GT-EXTRAと2000VIの装備比較。これからソアラ2000VIの中古車を探すひとは、腕力を鍛え、身体右側面で右手首をすばやくまわす練習をしておくように。また、ひとりでフェンダーミラーを調整できる方法を考えておくこと。

このクラス、コンセプトを先行したレパードは、当時のブルーバード910ベースで構築された。

日産レパード(初代・1980(昭和55)年9月)。
初代レパード計器盤。

セドリック/グロリアのL20/L28エンジンを主体に、廉価版はやはりブルから持ってきた1800のZ18を下のふたつ「180・F」「180・CF」に搭載している。そして全機種フロントサスペンションは独立懸架のストラット式、リヤサスは2000と2800がリヤサスに独立懸架セミトレーリングアームを用いたのに対し、1800は車軸式の4リンクコイル式だ。

価格もずいぶん安く、180・Fが139万5000円(4MT)、180・CFが156万5000円(5MT)で、2ドアも4ドアも値段は一緒だ。
ATは両車3ATになり、180・Fが7万円高、180・CFが4万円高となる。

レパードに対し、ソアラは6気筒に徹することでプレミアム感を強調し、それがソアラ常勝を決定づけた。

しかしクラウンやマークIIで、高いの安いのとであれだけ内外差をつけることを厭わないトヨタなら、ソアラでも同じ手法を用いることはできたはずで、安い2000は後述「VII」に任せ、いっそ最廉価ソアラは、メカ部をすべてコロナ1800DXから横取りし、エンジンは4気筒13T-Uを、後ろ足はトレーリングリンク車軸式コイルスプリングを、トランスミッションも4MTなり3ATなりをちょうだいした「1800VI」にすれば、おそらくレパード180・Fに負けない価格競争力を持つ、140万円くらいのロープライス・ソアラがが出来上がったと思う。

なお、当時のコロナ4ドアセダン1800DXの価格は4MTで103万9000円、3AT車は112万2000円だ。

実はこの2000VI、1981年2月に登場したソアラのうちの最廉価機種だったが、それも最初の1年だけで、翌年1982年3月の改良時に姿を消した。約1年間しか生産されなかったことになる。

ソアラといえばGTやGT-EXTRA、のちに追加されたGTリミテッドばかりが取り沙汰されるが、おそらくは注目を浴びず、多くの人に買われなかったであろう、短い生涯を終えたこの2000VIに、44年も経ったいまさらスポットライトを当てたかった次第だ。

はたして売った店、買った顧客がいるのかどうかわからないが、いずれにしてもいちど拝見したいソアラ2000VIである。

機種構成

さて、この2000VIを最後に持ってきたかったがために、ソアラ解説第1回ですっ飛ばした全ラインアップ紹介をここで行なうことにする。

初代ソアラの機種構成は全部で6つ。2000に4機種、2800に2機種という布陣だ。

【2000VI】

安いほうから述べると、まずは本記事で主役に据えた「2000VI」。

ソアラ2000VI。車両本体価格166万2000円(5MT)。OD付4速ATは175万4000円。いずれも東京価格(以下同)。
2000VI計器盤
2000VI内装

【2000VII】

その上が「2000VII」で、シート上下アジャスターやパワーウインドウ&電磁ドアロック、パワステや電動ミラーなど、このクラスで求められる日常装備がこのクルマから加わるが、メーターも時計もまだアナログ式のままだし、空調もダイヤル調整のヒーターだ。

ソアラ2000VII。車両本体価格179万2000円(5MT)。OD付4速ATは188万4000円。
ソアラ2000VII計器盤。VIと同じくアナログメーターやダイヤル調整ヒーターが備わるが、ラジオだけはAM/FMラジオとなる。VIは単なるAMラジオだ。
もういっちょ、2000VII計器盤写真をモノクロで。
2000VII内装

ただし、さきに発表から1年後の改良で2000VIがなくなったと書いたが、この時点で2000VIIはメーターがアナログ式から他と同じエレクトロニック・ディスプレイデジタルメーターに格上げ。つまりアナログメーター付きソアラそのものが約1年間しか生産されなかった勘定だ。

最初の1年の間に2000VIIを買った人はくやしい思いをしたことだろう。

【2000VR】

次は「2000VR」で、ハンドルやMTのシフトノブが本革になり、エレクトロニック・ディスプレイデジタルメーターもこの機種から与えられる。

2000の中で唯一、2800車同様にハードサスペンションを持つ、2000シリーズの中のGT的位置づけになっている。

ソアラ2000VR。車両本体価格192万7000円(5MT)。OD付4速ATは201万9000円。
2000VR計器盤
2000VR内装。シート表皮の模様が他とはひと味ちがう。やはり位置づけが異なるのだ。

【2000VX】

2000の中の最上級が「2000VX」。2800車並みの装備を持つが、「2000VR」のようなGTライクな機種ではないから、ハンドルやシフトノブはウレタンになる。

ソアラ2000VX。車両本体価格226万8000円(5MT)。OD付4速ATはきっかり236万0000円。
2000VX計器盤
2000VX内装

【2800GT】

そして2800に飛んで、シリーズの安いほうが「2800GT」。
装備構成は2000VXに近く、さきの2000VRが2000の中のGTなら、こちら2800GTは「2800VX」といってもいいかも知れないモデルだ。

ソアラ2800GT。車両本体価格266万7000円(5MT)。OD付4速ATはこちらもきっかり275万0000円。
2800GT計器盤
2800GT内装

【2800GT-EXTRA】

「2800GT-EXTRA」は、ソアラ解説第1回~第7回まで事細かくお見せしてきたとおり。

現時点(1981年当時の)で考えられる先進装備に快適装備、何でもかんでもてんこ盛りにしましたという、ザ・ソアラ! なソアラだ。

ソアラ2800GT-EXTRA。車両本体価格285万5000円(5MT)。OD付4速ATは293万8000円。
2800GT-EXTRA計器盤
2800GT-EXTRA内装。シートのヒラヒラがいかにも「ソアラ!」だ。

何気なく見ていた機種名にも大きな意味

全10回に渡ってお伝えしてきたソアラ解説、最後は「GT」を除く機種名称の由来のお話で締めくくる。

「ソアラ=SOARER」は英語で「上級グライダー」の意味だと述べた。

そのソアラの機種名は、安いほうから順に「VI」「VII」「VR」「VX」・・・これらの名称、実は上昇中の航空機の速度用語にちなんでいる。

次の表と図をご覧いただきたい。

各機種名は航空技術用語に由来している。すべてに「V」がつくのは、きっと英語の「velocity(速度)」からきているからだ。これを見たら最後、確かにいちばん安いクルマに「VI」、上級寄りに「VX」と名付けたくなる。ただし「GT」とその上級版「GT-EXTRA」だけは別扱いだ。
滑走スタートから順に、VI、VR、VII、VX。ソアラではVRとVIIが逆になるが、いわゆるグレード分けの観点からすると、「VI」のすぐ上はやはり「VII」でなければならないだろう。

それにしても、「上級グライダー」が由来のソアラにとって実にうってつけな航空用語があったものではないか! そして命名者もよくぞ見つけたと思う。

「はて、機種名をどうしようか・・・」

そう考えていた担当者がこの航空用語を見つけたとき、「これだ!」と膝を叩いたときの様子が目に浮かぶ。

そうそう、ソアラ解説第1回「外装編」のフロントグリルのソアラマーク説明で、「『空力的造形』「『静かさ』『大空を飛翔する』などのイメージを表現したかった(トヨタ資料より)ということで、その思いをどうやらペガサスギリシャ神話に出てくる、翼をもつ天馬で象徴させたようだ。」と書いたが、その後の記事を書くにあたっていろいろ調べた中、「グライダーが空を飛ぶのと、ソアラの力強い走りをイメージして、獅子に羽根をつけた架空の動物をシンボライズした。なぜか知らないが、トヨタ自販が商標権を持っていたのでそれを図案化した」のだと。

いや、獅子だったとは。ペガサスだなんていって失礼しました!

てっきりペガサスだと思っていたが、どうやらこのマークは、「ジャングル大帝レオ」「ウルトラマンレオ」「スバルレオーネ」と同じ方向を向いたものだったようだ。

×     ×     ×     ×     ×

2024年暮れから2025年新年にかけ、全10回に渡ってお送りした「時代の名車探訪」No.1・初代ソアラはいかがだったろうか。

次に何を採り上げるか決めていないが、また何かの名車を見つけてお送りしよう。

「いまさらジムニーシエラ」「MFクルマなんでもラウンジ」ともども、本年もよろしく。

【撮影車スペック】

トヨタソアラ 2800 GT-EXTRA(MZ11型・1981(昭和56)年型・OD付4段フルオートマチック)

●全長×全幅×全高:4655×1695×1360mm ●ホイールベース:2660mm ●トレッド前/後:1440/1450mm ●最低地上高:165mm ●車両重量:1305kg ●乗車定員:5名 ●最小回転半径:5.5m ●燃費:8.1km/L(10モード燃費)、15.5km/L(60km/h定地走行燃費) ●タイヤサイズ:195/70HR14ミシュラン ●エンジン:5M-GEU型・水冷直列6気筒DOHC ●総排気量:2759cc ●圧縮比:8.8 ●最高出力:170ps/5600rpm ●最大トルク:24.0kgm/4400rpm ●燃料供給装置:EFI(電子制御燃料噴射) ●燃料タンク容量:61L(無鉛レギュラー) ●サスペンション 前/後:ストラット式コイルスプリング/セミトレーリングアーム式コイルスプリング ●ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスク ●車両本体価格:293万8000円(当時・東京価格)

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山口 尚志 近影

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