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■アスコットのスポーティモデルとして登場したイノーバ
1992(平成4)年3月3日、ホンダが4ドアハードトップ「アスコットイノーバ」を発表(発売は3月5日)。アスコットイノーバは、上級セダン「アスコット」のスポーティモデルであり、バブル期に一世を風靡したハイソカーを意識したスポーティな上級セダンである。


アコードをベースに誕生した上級セダンのアスコット


アスコットイノーバのベースである上級セダンのアスコットは、4代目「アコード」の兄弟車として1989年に誕生した。1980年後半は、バブル絶頂期で高級車が飛ぶように売れた時期で、トヨタの「ソアラ」や「マークII」のようなハイソカーと呼ばれたスポーティな高級セダンが一世を風靡していた。
ホンダが、ハイソカーを意識して投入したのがアスコットだった。アスコットは、マークIIと同等の堂々とした5ナンバーサイズのボディに、リアドアの後部に小さな固定ウインドウを持つ6ライトの落ち着いた雰囲気の上級セダンだった。
パワートレインは、最高出力105psの1.8L直4 SOHC、110psの2.0L直4 SOHCキャブ仕様、130psの2.0L直4 SOHC PGM-FI仕様、150psの2.3L直4 DOHCの4種エンジンと、5速MTおよび4速ATの組み合わせ。また、プレリュードで採用された4WS(4輪操舵)も一部グレードで装備された。
アスコットは、完成度の高いクルマに仕上がっていたが、ハイソカーに比べるとやや地味な印象でスポーティさに欠けていたためか、販売は苦しんだ。
上品かつスポーティさを強調したアスコットイノーバ
アスコットの人気を挽回するために1992年3月のこの日に登場したのが、4ドアハードトップのアスコットイノーバだ。

アスコットイノーバは、アスコットより若干車高を低くしてグラスエリアの広いサッシュレスドア構造と、ローノーズ&ハイデッキなウエッジシェイプを採用。さらにフォグライト内蔵の大型ヘッドライトやボディと一体感のある大型バンパーなどで、スポーティさをアピールした。

パワートレインは、パワーアップした最高出力135psの2.0L直4 SOHC、150psの2.0L直4 DOHC、新開発の165psの2.3L直4 DOHCの3種エンジンと、5速MTおよび4速ATの組み合わせ。アスコット同様、オプションで4WSも装備された。

その他にもボディ剛性の向上やサスペンションなどの専用チューニング、TCS(オプション)の採用など、当時の先進技術が採用された。車両価格は、2.0L DOHC標準グレードで198.5万円、トップグレードは295.6万円に設定。当時の大卒初任給は、17.6万円程度(現在は約23万円)だったので、単純計算では現在の価値で標準グレードが約259万円に相当する。

アスコットイノーバが発売された時期は、バブルが崩壊した時期でもあり、アスコット同様、販売に苦しんだ。
アスコットとイノーバが販売に苦しんだのは兄弟車が多かったから?
アスコットイノーバが苦しい販売を強いられたのは、バブル崩壊もあるが、ホンダ内に兄弟車が多かったことも要因のひとつだと思われる。
高度成長期やバブル好景気によってクルマが飛ぶように売れた1980年代に、国内の自動車メーカーは複数の販売チャンネルを展開する多チャンネル化を推進した。ホンダの国内販売網は、1978年発足のベルノ店(プレリュードを中心としたスポーティな商品)、1984年スタートのクリオ店(アコードを中心としたラグジュアリーな商品)、1985年のプリモ店(シビックを中心としたポピュラーな商品)というように、ニーズに合わせて3チャンネル体制で販売・サービスを強化した。

この3チャンネル体制を維持するために、アコードは兄弟車を設定した。ビガーはベルノ店、アスコットおよびアスコットイノーバはプレオ店、アコードインスパイアはクレオ店で販売されたのだ。似通った3つのモデルがあると、クルマがバンバン売れるときならよいが、そうでないと個々の販売台数が落ちるのは当然である。

ホンダは、結局この販売網の見直しに着手し、2006年には3チャンネルを統合し、ホンダブランドのクルマすべてを取り扱う「Honda Cars(ホンダ カーズ)」をスタートさせた。

アスコットイノーバも兄弟車がなかったら、そしてあと5年くらい早く登場していたら結果は違っていたかもしれない。
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兄弟車や派生車は、多様化するユーザーの要望に低コストで対応できることがメーカーにとっては大きなメリットだが、上手く差別化しないと新鮮味に欠け個性のないクルマになってしまう。最近も、モジュール化や部品共用化が積極的に進められているが、課題は同じでいかに個性的で差別化したモデルを作るかということである。
毎日が何かの記念日。今日がなにかの記念日になるかもしれない。