立山黒部ダムで命がけ!? 大自然の厳しさを知ったBYD製「大型EVバスの乗車体験」

「立山トンネル電気バス(BYD K8)」の外観
2025年4月15日、黒部ダムや大観峰、室堂などを巡る立山黒部アルペンルートに、大型EVバスの「立山トンネル電気バス」が導入され、初めて運行を開始した。同電気バスは、BYDの大型バス「K8」を採用している。乗車体験を含むプレスツアーが開催され、筆者も参加し、取材することになったのだが……。

BYD製の大型EVバス「K8」の「立山トンネル電気バス」が4月15日に運行開始

BYD K8と「立山トンネル電気バス」のロゴ

BYDは、乗用車の販売だけでなく、小型から大型まで電気(EV)バスを各地のバス事業者や自治体などに数多く導入している。2025年4月15日、黒部ダムや大観峰、室堂などを巡る立山黒部アルペンルートに、大型EVバスの「立山トンネル電気バス」が導入され、初めて運行を開始した。同電気バスは、BYDの大型バス「K8」で、乗車体験を含むプレスツアーが開催された。

今回のプレスツアー最大の目的は、立山黒部アルペンルートで2024年11月末まで運行していた「立山トンネルトロリーバス」に代わって導入された「立山トンネル電気バス」の乗車体験だ。

BYD SEALION 7の走行シーン

それだけではつまらないとのことで、2025年4月15日に発売されたクロスオーバーSUVの「BYD SEALION 7(ビーワイディーシーライオン セブン)に乗ってロングドライブをしながら向かうという趣旨だった。シーライオン7の発表日と同日だったが、日程が被ってしまったため、新車発表会を開催せず、大型バスのBYD「K8」の出発式(関係者お披露目)を含めた今回のプレスツアーを優先させたという。

BYD SEALION 7のリヤまわり。クロスオーバーらしい流麗さだが、後席は広い

出発式とプレスツアーには、乗用車部門であるBYD Auto Japanの東福寺 厚樹代表取締役、ビーワイディージャパンの執行役員である石井 澄人副社長も参加。シーライオン7の発表日前日に横浜を出発し、富山市に前泊。当日朝、立山駅から立山ケーブルカーに乗り、美女平で立山高原バスで室堂に向かい、大型EVバス「K8」の「立山トンネル電気バス」の乗車体験をするという予定だった。

出発式はできなかったが、プレスツアー向けに記念撮影ができた。中央は責任者の石井澄人副社長。左がBYD Auto Japanの東福寺 厚樹社長

「できる限り動かす」という立山ケーブルカーも悪天候で運行中止に

しかし、降雪や強風によりホワイトアウト状態で立山ケーブルカーや立山高原バスは運休になり、立山駅側からはアクセスできないことになったのだ。悪天候にも関わらず、2025年シーズン初日を目指してインバウンドも含めて、数多くの観光客が集まっていた。なお、そこには20mも超えることがある「雪の大谷」ウォークなどもあったのだが、同日はそちらも閉鎖された。

関電トンネル電気バス。ディーゼル車をEVにコンバートしている

BYD Auto Japanの東福寺社長、石井副社長も同じ動きだったので当然参加できず、BYD K8の立山トンネル電気バス出発式も当然できないことに。立山黒部アルペンルートを目の前にしてメインイベントのひとつである取材ができない……となると思いきや、長野県側に回ってアクセスすれば同バスの乗車体験ができるかも、という話になったのだ。GOサインが出たため、シーライオン7で立山駅から北陸自動車道に乗り、日本海を眺めながら新潟県の糸魚川ICを出た後、山道で長野県側に回ることに。休憩なし(充電なし)で、3時間強という所要時間だった。

長野県側の扇沢駅にシーライオン7を停めて、関電トンネル電気バス、黒部ケーブルカー、立山ロープウェイと乗り継ぎ、そしてようやく、立山トンネル電気バスとご対面。

「立山トンネル電気バス」の走行シーン

じつは、関電トンネル電気バスと黒部ケーブルカーの間には、あの黒部ダムの上を約10分歩く、という行程も含まれている。筆者も一度は黒部ダムの上を歩いてみたい、と思っていたのでまさに念願叶ったわけだが、ダムは灰色に霞み、猛烈な吹雪の中を歩く……という得がたい経験ができた。

吹雪の中の黒部ダムの上を歩いた

また、「立山トンネル電気バス」が到着した室堂の展望台は、数m先も見えないほどのホワイトアウト状態で、出入り口から1mほど出て数分で退散したが、室堂ターミナルは救護避難所としての役割も担っている。

黒部ダム(通称くろよん)は、日本一の高さを誇る。映画やTV番組などで知られている

さて、BYDが納入した立山トンネル電気バスは、まさにトンネル内である大観峰~室堂を約10分強で結んでいる。BYD K8は、当然ながらノンステップの低床設計とフルフラット化がされていて、乗り降りのしやすさはもちろん、外観や内装ともに最新世代(K8 2.0)にふさわしい仕立てになっている。

大型EVバス「K8」と責任者の石井澄人副社長

今回納入されるのは、8台で立山黒部アルペンルートに関するラッピングを施す

8台運行する「立山トンネル電気バス」。それぞれに立山黒部アルペンルートに関するラッピングが施されている

BYD K8のサイズは、車長10500×車幅2495×3270mm。最大乗車定員は80名。バッテリー容量は、314kW、航続距離は240km、最大出力は200kWとなっている。新開発ブレードバッテリーやインホイールモーターなどが採用されていて、充電はCHAdeMO(チャデモ)を使い一晩充電すれば、翌日の運行を十分にまかなえるという。既述のようにすでに日本でも導入されているため、BYD製とは知らずに乗っていることもありそうだ。運転手の方にちらっと聞くとパワステのフィーリングや加減速などかなり運転しやすいとのこと。

BYD「K8」のコクピット

その前に乗った関電トンネル電気バスは、30年前の日野自動車製バスをEVにコンバートしたもので、音振動や乗り味は、EV化されているのにどことなくディーゼル車のような雰囲気が漂っていた。

だが、K8は30年分の進化をしっかり感じさせる乗り味と静粛性の高さが印象的だった。インパネは、国産ワンマン機器も架装可能なレイアウトになっていて、EVらしいメーターのほか、3段階の切替が可能な回生ブレーキスイッチなども備わっている。バスのメンテナンスは、運行側が行い、EVに関する整備などは必要の際にその都度、BYDが山に入り、行うという。

大型EVバス「K8」のリヤの乗降口

また、今回の導入に際し、BYDと運行側が登坂性能など、走りを含めてテストを入念に行ったという。テストと納車は、2024年シーズン中に同バスを自走させたそうだ(白ナンバー付きで、お客さんを乗せて運行する許可ももちろん得ている)。

黒部ダムや大観峰、室堂などを巡る立山黒部アルペンルートは、富山側と長野側を結ぶ標高3000m級の北アルプスを貫く世界有数の山岳観光ルートだ。黒部ダムや「雪の大谷」ウォークも含めて日本国内のみならず、海外からも高い注目度を誇る観光地。一度は行ってみたいと考えている方も多いはずで、その際は、この地域が大切にしている環境に対する高い意識をEVバスでも感じられるだろう。

キーワードで検索する

著者プロフィール

塚田 勝弘 近影

塚田 勝弘

中古車の広告代理店に数ヵ月勤務した後、自動車雑誌2誌の編集者、モノ系雑誌の編集者を経て、新車やカー…