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16代目クラウン「群」の完成

2025年3月13日にエステートが発売になったことで、2022年のクロスオーバーから始まり、セダン、スポーツを含めて4モデルで構成される16代目クラウンの「群」が完成したことになる。2025年はちょうど、初代クラウンの誕生70周年の節目の年だ。

「型があるから型破りがある」とは、クラウン群のチーフエンジニアを務める清水竜太郎氏である。クラウンの「型」は長らくセダンだった。ところがセダン市場が縮小し、ミニバンやSUVが主流になるにつれ、クラウンの販売台数は減少していった。15代目(2018年)では販売台数の回復につなげようとマイナーチェンジが企画されたが、企画案を見た豊田章男社長(当時)は、「これでクラウンは変われるのか?」と疑問を呈した。
「痛烈なメッセージだった」と清水氏。「次の時代のクラウンを真剣に考えるきっかけになった」と。それが、16代目クラウン開発の原点になった。開発陣が改めて歴代のクラウンを振り返ってみると、革新と挑戦の歴史が脈々と受け継がれていることがわかった。クラウンの本質は「お客様に欲しいと思ってもらうもの」であると同時に、「自分たちで欲しいと思うもの」であること。言い換えれば、章男氏が社長に就任して以来発信しつづけてきた「もっといいクルマづくり」を行なうことだと気づいた。
クラウンの型という固定観念から離れ、革新と挑戦のスピリットをベースに自由な発想でで「いいクルマづくり」に取り組んだ結果生まれたのが、「型破り」なクロスオーバーである。セダンでもなく、SUVでもない、新しいパッケージの提案である。セダンというクラウンの型があったからこそ、型破りなクロスオーバーが生まれた。

クロスオーバーの開発が軌道にのってきたところで、「セダンもやってみないか」との声がけが章男社長からあった。固定観念から脱却できた開発陣なら、セダンも新しい発想で開発できるのではないかと期待しての声がけだと、開発陣は受け止めた。
セダンをつくるにあたってベースに選んだのは燃料電池車のMIRAIだった。クラウンのブランドバリューを借りて水素の活用をB to G(Business to Government)を中心に広げていくのがセダンの役割だと位置付け、クラウンの型の延長線上でショーファーユースにも、パーソナルユースにも応えられるフォーマルセダンを開発した。

さらに、「もっといろんなクラウンがあっていい」と、市場の多様なニーズに応える格好で開発したのがスポーツとエステートである。どのボディタイプを選択してもクラウンであり、「どのクラウンをお選びいただいても、お客様にとっては最良のクラウン」だと清水氏は説明する。

スポーツは、「硬いだけがスポーツではない俊敏な走り」を提供する「新しいカタチのスポーツSUV」の位置付け。エステートは「長時間でも疲れない、移動時間の質を高める」「ワゴンとSUVの融合」の位置づけだ。クラウン群4モデルで共通しているのは、歴代クラウンが育ててきた静粛性と快適性、上質さ。開発陣はこれを「クラウンネス」と呼んでいる。
4モデル一気乗り。だからこそわかるクラウンネス
クラウンスポーツ「硬いだけがスポーツではない」

クラウンネスを共通項として備えながら、異なるキャラクターが与えられた4モデルに一気に試乗した。舞台は箱根、そして伊豆である。最初に乗ったのはスポーツのZだった。2.5Lエンジンを積むハイブリッド車である。芦ノ湖畔から箱根峠を経由し、十国峠〜伊豆スカイラインを経て修善寺に向かうルートでのドライブで、総じて山道だ。
クラウンスポーツの良さが引き立つルートあえて設定したらしく、まんまと術にはまった印象。まことに気持ちの良いドライブが体験できた。「硬いだけがスポーツではない」の売り文句は単なる売り文句ではなく真実で、確かに硬くはない。いっぽうで「俊敏な走り」の売り文句も本当で、クラウンスポーツは嫌がる素振りを見せずスパッと向きを変える。

DRS(ダイナミックリヤステアリング:後輪操舵)の効果が大きいのだろうが、制御の介入を感じさせず、ただ、よく曲がる実感だけがともなう。聞けば、スポーツのDRSはクロスオーバーなどに対してクイックな動きになるようなチューニングが施されているという。

モーター:フロント 3NM型交流同期モーター 最高出力119.6ps(88kW) 最大トルク202Nm
リヤモーター 4NM型交流同期モーター 最高出力54.4ps(40kW) 最大トルク121Nm
スポーティな走りに興じるシチュエーションではエンジンが主役となって力を提供してくれる。となるとエンジン回転は上がり勝手になるわけだが、気持ちのいい走りに水を差すような騒々しさは感じない。同じパワートレーンを搭載するクロスオーバーは騒々しさが耳についた記憶があったが、スポーツ導入時は対策が済んでおり静粛性の高さを邪魔しない。クロスオーバーのほうも2024年4月の商品改良で手が入っており、静粛性が向上している(エステートのハイブリッド車も同様)。
クラウンエステート 胸のすくような走りとはこのこと

修善寺から箱根までの帰路はエステートRSを運転した。プラグインハイブリッド車(PHEV)である。大容量の走行用バッテリーを搭載しているのがポイントで、満充電時はカタログ上89kmのEV走行が可能である。通常はEVとして使い、長距離ドライブに出かける際はエンジンを併用するハイブリッド車としての使い方ができる。


「高速道路ではぜひEV走行を試して」とのことだったので、新東名の長泉沼津ICに向かうまではチャージモードにしてバッテリーに電気エネルギーを蓄えながら走った。料金所の通過を待ってEVモードに切り換え、本線に合流。タイミングを見計らって強めにアクセルペダルを踏み込み、この区間の制限速度である120km/hまで車速を上げた。
胸のすくような走りとはこのことである。静粛性は極めて高い。かなり強めの加速のはずだが、姿勢は安定しており、レールに載ってでもいるかのようにフラットに加速していく。バッテリー残量が尽きるとエンジンを使ったハイブリッド走行になるが、遮音・吸音が効いており、快適性が損なわれることはない。
今回は100kmに満たない距離を移動したにすぎなかったが、ストレスフリーのロングドライブを経験できそうなポテンシャルを確認することはできた。PHEVはAVS(減衰力可変ショックアブソーバー)を標準装備しているのがハイブリッド車との相違であり、後席も含め、乗り味の面でもエクストラの対価を払っただけの価値が味わえる。
エステートのハイブリッド車はスポーツやクロスオーバーに対してフロントモーターの最高出力を高めており(88kW→134kW)、多人数・多積載でも余裕のある走りを実現する仕立て。クロスオーバーにはクラウン群4モデルで唯一2.4Lターボ・ハイブリッド(デュアルブースト)車の設定がある。エンジンの主張は一段と強く、スポーツよりも硬派なキャラの持ち主かもしれない。


クラウンセダン 歴代クラウンが築いてきた型にもっとも近い

クロスオーバー、スポーツ、エステートがパワートレーン横置きレイアウトのプラットフォームを採用するのに対し、セダンはパワートレーン縦置きレイアウトだ。そのせいなのかどうか、セダン(試乗車はFCEV)の走りは他の3モデルとは明らかに異なる。見た目はモダンだが、走りにはクラウンが連綿と受け継いできた伝統の味が宿っているように感じた。ステアリングを切り込んだときに体に伝わる動きは、脳の奥にしまわれていたかつてのクラウンの味を呼び覚ます作用があるよう。セダンは歴代クラウンが築いてきた型にもっとも近い存在といえる。

16代目クラウンは型破りには違いないが、どれもクラウンネスを受け継いだ「いいクルマ」であることに変わりはない。エステートがラインアップに加わり、ますます多様なライフスタイル、ライフステージに応えられるようになった。