Audi e-tron GT サーキット試乗@富士スピードウェイ【電動スポーツカー】

アウディe-tron GTをサーキットで走らせたら、EVでも趣味の対象になると思った話

アウディが描くスーパースポーツの未来像、e-tron GTに富士スピードウェイで試乗する機会を得た。
先進のBEVとアウディ伝統のクワトロ(4WD)システム……両者がもたらす次代のスポーツドライブを体感する。

多くのクルマ好きのみなさんと同じように、筆者は内燃機関が大好きである。パワートレインの電動化という世界的な潮流から目を背けるわけにはいかないが、少なくとも趣味の対象として、運転を楽しませてくれる存在としては内燃機関の足元にも及ばない。そう思っている。

そんな折、アウディのRS系モデルを中心としたメディア向けサーキット試乗会が富士スピードウェイで行なわれた。リリースされたばかりのRS3なども用意されていたが、ここでは筆者自身にとって初乗りとなるBEV(バッテリーEV=フル電動)スーパースポーツ、e-tron GTについてレポートしたい。

e-tron GTのラインアップはe-tron GT quattroとRS e-tron GTの2グレード構成で、筆者が試乗したのは前者だ。フロントに238ps、リヤに435psの最高出力を発生するモーターを搭載し、4輪を駆動する。システム最高出力は476psだが、ローンチコントロール使用時にはブーストモードとなって530psのシステム最高出力を2.5秒間だけ発生できる。

ちなみにRS e-tron GTの場合はフロントモーターこそ238psとe-tron GT quattroと同じだが、リヤモーターが456psとなり、システム最高出力は598ps、ブーストモードで646psに達する。

試乗は富士スピードウェイの本コースで行なわれ、メインストレートを一回通過……つまりインラップとアウトラップの計2周のみという短いものだ。インストラクターによる先導車の後ろにつき、追い越しはしないという決まりだ。

コースインしてまず感じるのは、約2.3tというヘビー級ボディの存在である。走り出してしまうと重さを感じない、ということもなく、加速時にも減速時にも旋回時にもそれなりに重量感はある。だが、バッテリーをフロアに敷き詰められたということもあって重心が低く、重いのにロールやピッチングが少ないという不思議な感覚だ。

徐々に先導車のペースが上がり、筆者にとってはそれなりに「攻めている感」の得られる領域になってきた。おそらくインストラクターはミラーで後続車のドライバーのスキルを見極め、絶妙なペースに調整してくれているのだろう。

1周目のコース後半では、コーナーによっては出口でアクセルを全開にする場面も出てきたのだが、これがとにかく気持ちがいい。コーナー脱出時にはリヤ側に多くのトルクが供給され、後輪駆動に近い状態になるため、リヤタイヤで曲がっていくというスポーツカーらしいコーナリングが楽しめるのだ。しかもそれは過剰な左右トルクベクタリングによる「勝手に曲がってくれている」ような不自然さを伴うものではなく、あくまでステアリングとアクセルペダルの動きに忠実な挙動なのである。

さらにそこへ電気モーターならではのトルクの立ち上がりの早さが加わる。言うまでもなくトルクそのものも強大だ。しかも緻密な制御によって、少なくとも今回の試乗中にそれぞれ駆動輪がトラクションを失うことはなかった。あくまでスマートに、しかし速く、それでいて自分でコントロールしているという実感も得られるのだ。「右足で曲げていく」とは、ある意味で古典的なスポーツドライビングの姿とも言えるが、それがこういう洗練された形で楽しめるのだから驚かされる。

わずか2周のテストドライブではあったが、e-tron GTは日本屈指のハイスピードサーキットを存分に楽しませてくれた。EV=環境に優しい、という言葉をそのまま信じるのはあまりにお花畑だが、「超速レスポンス」「シームレスな加速」「自在なトルク配分」「圧倒的な静粛性」など、電気モーターならではの長所をうまく活かせば、EVは趣味の対象にもなり得るのかも知れない。

e-tron GTが味わわせてくれた新次元の、それでいてどこか昔ながらでもあるドライブフィールには、BEVスポーツカーのおおいなる可能性を感じずにはいられない。

■アウディe-tron GT quattro
全長×全幅×全高:4990×1965×1415mm
ホイールベース:2900mm
車両重量:2280kg
モーター定格出力:200kW
システム最高出力:390kW(530ps)
システム最大トルク:640Nm
WLTC航続距離:534km
WLTC電力消費率
 コンバインド:200Wh/km
 市街地モード:207Wh/km
 郊外モード:198Wh/km
 高速道路モード:201Wh/km
サスペンション形式:ⒻⓇダブルウィッシュボーン
ブレーキ:ⒻⓇベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:Ⓕ225/55R19 Ⓡ275/45R19
車両価格:1399万円

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著者プロフィール

小泉 建治 近影

小泉 建治

 小学2年生の頃から自動車専門誌を読み始め、4年生からは近所の書店にカー アンド ドライバーを毎号取り…