トヨタ・カローラ レビン/トレノ AE86ってどんなクルマだった? 概要編【週刊モーターファンアーカイブ 特別編】

われらはFRで走り続ける!トヨタ カローラ・レビン/スプリンター・トレノ【週刊モーターファン ・アーカイブ 年末・年始特別編】

レビン2種、トレノ2種の計4タイプあるボディで、「ハチロクレビントレノ」の10文字からまず連想されるのが、このカローラ・レビン3ドアの赤と黒の2トーンで塗り分けられたGT APEX(アペックス)なのだ。
5代目カローラ/スプリンターシリーズのFF化は、他車同クラスの中でも一番遅かった。ようやく世の潮流に追いついたわけだが、
このAE86/85レビン/トレノだけは頑なに?FR方式を守り続けた。その背景には何があったのだろうか。

週刊モーターファン・アーカイブでは、これまでのモーターファンの懐かしい秘蔵データから毎週1台ずつ紹介していく。
解説●渡辺 陽一郎(モーターファン別冊 レビン/トレノのすべて より 2016年刊)

没後に高まる注目・人気は名画・名曲・名車の宿命?

画家にフィンセント・ファン・ゴッホ、作曲家のモデスト・ムソルグスキーなどは、いずれも存命中は高い評価を得られなかったが、没後に注目されて歴史に名を残す。

クルマの世界にも、生産を終えてから評価を高めた車種がある。日本車では1983年に発売されたカローラ・レビン/スプリンター・トレノがその代表だろう。

レビン&トレノはコンパクトな2ドア&3ドアクーペで、83年に登場したモデルの型式名称は1.6ℓのDOHC(ツインカム)エンジン搭載車がAE86、1.5ℓSOHC(シングルカム)エンジン搭載車はAE85とされ、今では車名よりも型式で呼ばれることが多い。

カローラ・レビンはトヨタカローラ店、スプリンター・トレノはトヨタオート店(現在のトヨタネッツ店)が扱い、基本設計は共通だ。

それでもフロントマスクは異なり、トレノは電動開閉式のリトラクタブルヘッドランプを備える。レビンは固定式だ。今日の姉妹車は、外装の一部とエンブレム程度で区別することが多いが、この時代はデザインを相応に変えていた。

ボディサイズはレビンの全長が4180mm、全幅1625mm。トレノはリトラクタブルヘッドランプの採用で全長は4205mmと少し長く、全幅は同じ数値になる。

赤と茶色の組み合わせの内装色は、正式には「ディープマルーン」と呼ばれた。「マルーン(maroon)」とは「くり色、えび茶色」を意味し、主にシート座面部の色が名称由来だが、マルーンが特に注目されたのは初代フェアレディZのエクステリアカラーから。これでスポーツカーファンなら誰もがイメージできるようになっていた。

今のクルマに当てはめると、全長は(初代)トヨタ86(この車名もAE86のノスタルジーだ)と比べて40mm短い程度だが、全幅は150mm狭い。狭く曲がりくねった峠道でも「アウトイン・アウト」のラインをとりやすかった。

それなのに前述のとおり、発売時の評価はあまり高くない。80年代はFR(フロントエンジン・リヤドライブ)に移行する過渡期にあたり、80年代に登場した5代目ファミリアは、FFの採用による広い室内と機敏な運転感覚で大ヒットした。レビン&トレノの登場と同じ83年にはコンパクトなCR-Xが発売され、新世代のスポーツカーとして注目された。

これに比べてレビン&トレノは、クルマ造りの変化が乏しい。シャシーは従来型と同じFR方式でホイールベース(前輪と後輪の間隔)も2400mmだから、先代型となるTE71型と等しかった。

背景には当時のトヨタが高性能なFF車に慎重だったことがある。

83年に発売されたカローラ&スプリンターのセダンと5ドアハッチバックはFFに移行したが、レビン&トレノは同時に発売されながら旧来のFRを踏襲した。

当時の自動車雑誌にはレビン&トレノとCR-Xの対決試乗が頻繁に掲載された。発売時点でCR-Xが搭載したエンジンは1.3ℓと1.5ℓで希薄燃焼方式を使う。1.5ℓの最高出力は110psで、レビン&トレノが搭載した1.6ℓのDOHCを20ps下回ったが、車両重量は5速MTなら800kgと軽い。レビン&トレノを約100kg下まわり、サーキットのタイム計測でもCR-Xが勝つことも多かった。

そして87年にフルモデルチェンジされた後継のAE91/92型レビン&トレノは、ほかのクーペと同様にFFへ切り替わった。

AE86型レビン&トレノの人気が高まったのはこの後だ。

皮肉にもAE91/92が覚醒 86・FRならではの楽しさ

AE91/92型はFF化に加えてボディを拡大したので、1.6ℓエンジン搭載車の車両重量は大半のグレードが1トンを下回る「900kg前後のボディにFRを組み合わせたAE86の方が、コーナリングがはるかに楽しかった」という評判が立ったのである。また、AE86型レビン&トレノが搭載した1.6ℓのDOHCは、従来のTE71型とは異なる新世代の4A-GEU型だ。1気筒当たり吸排気バルブを2つずつ備えた4バルブ方式で、T-VISと呼ばれる新機能も採用した。

T-VISは、2本の吸気経路のうち、1本に開閉式バルブを備えた吸気制御システムだ。4650rpm以下では常に1本を閉じるから、中/低回転域でも吸気速度が下がらず、効率の良い燃焼が行える。4650rpm以上ではバルブが開き、高回転域で高出力を発生した。

この採用で4A-GEU型は市街地でも扱いやすく、吹き上がりはシャープだから峠道を走る楽しさも盛り上げた。最高出力は130ps/6600rpm、最大トルクは15.2kgm/5200rpm。当時の自然吸気エンジンでは、1.6ℓで130psとなれば高出力の部類だった。

トレノの2ドアGT APEX。「APEX」は「頂点、極致」などの意味があり、GTの上位モデルとして「GTを極める」といったところか。もっともこれはその前のTE71型からの名称だ。

シャシーはTE71型を踏襲したが、これにもメリットがあり、オーソドックスなFRテクニックを使いやすい。コーナーの手前で減速したら、少しブレーキを残した状態でハンドルを切り込む。前輪の荷重が増えているために車両が滑らかに内側を向き、その直後にアクセルペダルを踏み込めば、後輪を緩やかに横滑りさせてコーナーを小さく回り込めた。

このFR車のセオリーを、レビン&トレノは幅広いユーザーにもたらした。初心者からベテランまで自分の技量に応じて楽しめ、走りながら上達できる。スポーティな運転を覚える上でも格好の教材だった。

ちなみにその後、89年にはマツダがユーノス・ロードスターを発売してヒットさせたが、このクルマは軽量なFR車の運転感覚にこだわった。演出が過剰気味で、一定の舵角で旋回を続けると、前輪ではなく、後輪から横滑りを開始する違和感が伴った。その点でレビン&トレノは、従来のFR方式を熟成させて操舵感を自然に仕上げている。ロードスターが登場して、レビン&トレノの良さに改めて気付いた。

豊富な選択肢も人気の秘訣だった。AE86型では、レビン/トレノともに2ドアクーペと、後部にリヤゲートを備えた3ドアクーペを設定した。後継のAE91/92型では3ドアが廃止されている。

1.6ℓのDOHCエンジンを搭載するGT系はグレードが多く、2ドアにはベーシックなGT、3ドアではスポーティなGTVも選べた。

GTVではタイヤが14インチ(185/60R14)に拡大され、シートは最上級のGT APEXとともにスポーツタイプだから、背もたれに備わるサイドサポートの張り出しを調節できる。コーナーで駆動力の伝達効率を高めるLSD(リミテッド・スリップ・デフ)もオプション設定した。

特に注目されたのは、GTVが装着した扁平率が60%の14インチタイヤだ。運輸省(現在の国土交通省)が「60タイヤ」を許可したのは82年6月だから、1.6ℓクラスでは早期の採用だった。

これはAE85トレノ2ドア・XL-Lisse(リセ)の計器盤で、この頃よくあった女性仕様の位置にあるモデル。回転計がない、シート上下調整がつくのは、GT APEX以外ではこのリセだけというところに、このリセの性格がよく表れている。

また最上級のGT APEXは2ドア、3ドア両方に設定され、電動ドアミラーやチルトステアリングを備える。周到なグレード構成は当時のトヨタの特徴でもあった。

ユニークな装備には、固定式ヘッドランプのレビンのみに用意された世界初のエアロダイナミックグリルがある。冷却水の温度を検知してグリルが自動開閉する装備で、通常は閉じているから外観がスマートで冬季には暖房が効率よく作動する。水温が85度を越えるとグリルが開いて冷却性能を高めた。

AE86型レビン&トレノは、後年にドリフト走行のしやすいクルマとして注目された。95年からはコミック誌に「頭文字D」が掲載されて人気をさらに高めた。

デビュー当初はあまり注目されなくても、後年にさまざまな解釈が生まれて人気を高めた経緯は、冒頭で述べたゴッホやムソルグスキーと符合する。もはやAE86型の人気は廃れず、普遍的なFR車のバイブルとして、今後も永く走り続けるに違いない。

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