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クラス最大の積載スペース! フラットで荷物も積みやすい
軽キャブオーバー車において、もっともユーザーが重要視するのは、おそらくスペースユーティリティだろう。プロユースでは日常的に多くの荷物を積み、特に宅配業者は1個でも多くの荷物を積めることが大切になる。委託の宅配業者は荷物1個に付き何円という歩合制だからだ。一般ユーザーも、レジャーアイテムを効率よく積めることは、このカテゴリーのクルマに魅力を感じる最大のポイントになるはずだ。
新型のダイハツ・ハイゼットバン&アトレーは、その点では十二分に考慮されているようだ。念入りに物流プロ、一般ユーザーに市場調査を行い、旧型の弱点をすべて改善してきている。
まずライバル、スズキ・エブリイに負けていた車内寸法だが、最大値で長さ1915(+55)×幅1410(+35)×高さ1250(+15)mmを確保。カッコ内の旧型との比較を見ても、大幅に容積がアップしていることが分かる。この数値は、エブリイバンを完全に上回っており、ホンダN-VANに対しては高さ以外勝っている。
ちなみに車中泊を考えた場合、キャンピングカーの構造要項における1名分の就寝スペースが長さ1800、幅500mm以上となっているので、それを優に超えるスペースが確保できるということになる。
感動したのは、新型が非常に細かい部分でのデッドスペースを無くしていることである。よくクルマに荷物を積む人なら共感できると思うが、箱物を載せる場合に、車内の小さな突起物が邪魔で、ほんの数ミリで荷物が入らないことが多々ある。そこでダイハツが考えたのが、徹底的な車内のスムージング化だ。ドアハンドル、床のアンカー金具、シートベルトのELR部などの出っ張りを解消し、荷物の積みやすさを実現した。
こうした出っ張りがないことは、車中泊にも大きな意味を持つ。軽バンや軽ワゴンでは、限られた空間で生活したり寝たりするので、ちょっとした突起物が快適さを妨げる。例えば、寝返りをうったらドアハンドルに身体をぶつけて目が覚める…なんて経験をした人もいるはずだ。
注目すべきは、アトレーも後部座席が床下に収納ができ、完全フラットな荷室になったこと。後部座席のクッションが薄くなり、リクライニング機構が廃されたが、ほとんどのユーザーが日常的に2人乗車で使うことを考えれば、荷室の使い勝手が優先された方が嬉しいはずだ。この変更に伴い、アトレーも4ナンバー化。自動車税が安くなるというメリットも生まれた。
多様なニーズに応えるためにアレンジしやすい荷室を実現
スペースユーティの拡大に加えて、荷室ナット数を増やして拡張性を改善している点も評価ポイントのひとつだ。純正アクセサリーカタログを見てみると、このナットを使ってマルチレール、オーバーヘッドネット、ネットラック、ハンガーバー、間仕切りカーテン、ユーティリティフックを取り付けることができる。様々な職業や使用シーンにおいて、自分仕様を作れるわけだ。
アトレーにも同じオプションが用意されている他、後部空間をワークスペースなどで活用できる「ラゲージボード」や、明らかにキャンパーベッドとしての使用を想定して「収納式デッキボードセット」が用意されている。この辺りは、レジャーユースオプションが得意なホンダに対抗していると思われる。さらに、窓を塞ぐ「カーテン」や運転席と荷室を分ける「セパレートカーテン」の設定から考えると、イマドキの車中泊にアトレーをプッシュしたいメーカーの意図が見えてくる。
ちなみに、アトレーは最大積載量を旧型220kg→新型350kgと増やし、多様化するレジャーライフに対応している。さらに旧型ではファブリックだった荷室フロアをビニール生地にすることで、清掃を容易にしているのもレジャーユースを強く意識している部分だ。
デジタルミラーにスマートエントリー。快適装備も充実
さて、車内に荷物を満載すると、困るのは後方視界だ。後ろがまったく見えなくなる。そこでダイハツが採用してきたのが、スマートインナーミラーというデジタル式のルームミラーだ。これもクラス初採用だという。このミラーの特徴は、カメラによって取得した後方の映像をミラーのモニターに映すだけでなく、純粋な鏡にもなるということだ。
筆者自身そうだが、老眼だとデジタルミラーへの視度対応が難しい場合がある。またバニティミラーが付いているとは言え、ちょっとした姿見に使いたい時もあるわけだ。そんな時に、鏡面モードになるのは便利だと思う。ちなみにこのミラーはバックモニターカメラとも連動し、映像情報を映し出すことができる。
さて、もはや一般的な装備だが、プロユースにとっては嬉しいと思われるのが、両側パワーサイドアとキーフリーシステムだと思う。宅配業者を見ていると、配達時にはクルマのキーをループなどで腰に装着し、乗り降りする度に施錠・解錠、そしてきーシリンダーへの挿入を繰り返している。1日でその回数を数えたら、きっと膨大になるのだろう。
新型ハイゼットカーゴやアトレーなら、カードキーを身に付けておけばスマートエントリーができる。さらに事前に車内のスイッチをワンプッシュしておけば、クルマに戻ってきた時にサイドドアが近づくだけで自動に開く仕組みになっている。もちろんイージークローザー機構も採用されている。これはプロのみならず、一般ユーザーにも恩恵のある機能だと言える。
置けないものはない!? あらゆるところに収納スペースを用意
収納スペースやそのための機能も大幅に増えた。まずモノが置けるトレイは、助手席前、グローブボックス上、センターパネル上、そしてコンソール上に設置されている。トレイはコインやスマホ、筆記具などを置くのに何かと重宝する。また助手席前に袋などを下げるためのフックが2つ、ドリンクホルダーは運転席助手席のダッシュボード上にそれぞれ1つずつ、ドアポケットにペットボトル用がそれぞれ1つずつ備わっている。
これらに加えて、ティッシュボックスや地図を入れるのに重宝するオーバーヘッドシェルフも装備されている。さらにアトレーには、荷室サイドにポケットと12Vソケットが配されている。ちなみにアトレーRSには助手席前に12VとUSB電源が2口装備されるが、個人的には現代のガジェットを考えれば後部もUSBでいいのではないかと思う。車中泊時には、USBの方が圧倒的に便利だ。
ハイゼット カーゴは5グレード。クルーズターボのみターボ搭載
さて、最後になったが、グレードの差違について簡単に触れておきたい。ハイゼットカーゴについては、上位グレードから「クルーズターボ」「クルーズ」「デラックス」「スペシャルクリーン」「スペシャル」がラインナップされる。
クルーズターボとクルーズは、フロント周りがすべてボディ同色。後部シートには左右分割式が採用される。デラックスはバンパー下部のみ無塗装、スペシャルクリーンはヘッドライトから下すべてが無塗装になる。シートも左右一体式だ。エンジンはクルーズターボ以外すべて660cc直3NAが搭載されている。
アトレーは全車がターボ搭載。デッキバンも追加
一方のアトレーは、ターボ車の「RS」、NA車の「X」に加えて、なんとデッキバンがラインナップに加わった。デッキバンは車両後部が剥き出しの荷台になったボディバリエーションだが、従来はハイゼットカーゴのみで販売されていたプロ向けの車両だ。しかし、遊び心のある一般ユーザーから注目されていたバリエーションでもあった。
今回、アトレーのグレードラインナップにデッキバンが加えられたことは、昨今高まるレジャー志向へのダイハツの英断と言える。荷台周りの樹脂パーツの使い方など、旧型ハイゼットカーゴのものよりスタイリッシュで、豊富なボディカラーの設定も相まって、一般ユースでもファッショナブルに見えるはずだ。
新型アトレーのトピックで注目したいのが、アダプティブクルーズコントロール(ACC)とアダプティブヘッドランプがついに装備されたことだろう(ACCはRSとデッキバンに標準装備)。N-VANではすでに採用されている装備で、これが同車のアドバンテージになっていたことは言うまでもない。今回、ACCについてはハイゼットバンへの採用が見送られたが、ターゲットユーザーを考えれば合理的な判断と言える。
アトレーユーザーを考えた場合は、高速道路を使って長距離移動するケースが多いだろうから、ACCの採用は安全・快適性を大幅にアップしてくれるだろう。
ちなみに、両モデルともに、ハンドルを切った方向やウインカー出した方向を明るく照らすサイドビューランプが、このクラスでは初めて採用されたことにも注目したい。
以上、新型ハイゼットカーゴとアトレーの注目ポイントを見てきたが、さすがに14年ぶりのフルモデルチェンジとあって、現在できることはすべて盛り込んだ感がある。また時代背景、高齢者や女性の就業率の増加を鑑みた装備や機能も多く盛り込まれていることが分かる。同時に、ダイハツがさらに取り込みたい一般ユーザーへのアピールも、新型では十分になされていると感じられた。