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新型アウトランダーPHEVは、新たなSUVの世界を見せてくれた
往年の三菱自動車には、「泥」「土」「砂」のイメージがあった。もちろんいい意味でである。パリダーカルラリーでのパジェロ、WRCでのギャラン、ランサーの活躍により、世界のユーザーにスリーダイヤモンドの輝かしいイメージを植え付けたのである。やがて同社は「四駆王国」と呼ばれるようになり、あのトヨタがパジェロを模倣するようなクルマ造りをしたのは驚きだった。
それも今は昔。様々な荒波を乗り越えて、三菱は新型アウトランダーPHEVで巻き返しを図ろうとしている。同車の普段使いでの素晴らしさは、前編でお伝えした通りだが、悪路走破性という点においても三菱な相当な自信を持っていることがテレビCMなどで伝わってきた。
アウトランダーPHEVは先代から、前後輪軸をそれぞれ別個のモーターで駆動させるツインモーター4WDを採用してきた。さらにS-AWCという独自の車両運動統合システムを組み合わせてきたのは、周知の通りだ。ツインモーター4WDというのは、他メーカーも採用している駆動方式だが、これは必ずしも悪路走行を目的としたものではない。スタンバイ方式のフルタイム4WD同様に、生活四駆にカテゴライズされるような性格のものだったりする。
では、アウトランダーPHEVはどうだったかというと、S-AWCの中に「4WD LOCK」という直結4WD状態になる機能を有していたものの、そこまで積極的にオフロード走行をしようと思わせるものではなかった。どちらかというと、深雪、泥濘地からの脱出というリカバリー機能としてとらえられていた気がする。それでも2015年にはワークス体制で増岡浩選手が「バハ・ポルタレグレ500」ラリーに参戦し、トラブルにめげず完走。ツインモーター4WDの新たな可能性を見せたのである。
しかし、新型のS-AWCは、インターフェイスからしてまるで違う。センタコンソールに目をやると、いかにも回してくださいと言わんばかりのドライブモードのダイヤルが目に入ってくる。そこには、「POWER(パワー)」「ECO(エコー)」「NORMAL(ノーマル)」「TARMAC(ターマック)」「GRAVEL(グラベル)」「SNOW(スノー)」「MUD(マッド)」という7つのアイコンが描かれている。つまり、新型のS-AWCは7シーンに合わせて出力、駆動力配分、ブレーキ制御などを行い、それをユーザーが任意で選べるようになったのである。
同様の機構がトヨタ・ランドクルーザーなどに付いているが、向こうはエンジンで駆動するクルマ。やはり“電動”というイメージはどこか心もとなく、激しいオフロードを走れるのかという猜疑心が湧いてきてしまう。
タイヤは20インチのオンロードタイプ。オフロード向きではないが…
オフロードでの試乗は、ダートラコースにて行った。フラットなグラベル路だけなく、深い轍が付いた泥濘路などもあり、新型アウトランダーPHEVの潜在能力の一部を窺い知るには十分と言える。杞憂かもしれないが、気になるのはPとGグレードが履くタイヤだ。255/45R20(Mグレードは235/60R18)というサイズであることに加えて、モデルはブリヂストンのエコピア。トレッドデザインは燃費重視のツルッとしたものだ。
昨今はトラクションコントロールなどの恩恵で、オンロードタイヤでもそれなりに悪路を走破してしまうものだが、このタイヤサイズはビード落ちの恐れもあるし、パンクをする可能性もある。果たして全開で走っていいものか悩む。加えて、7つもあるドライブモードの違いが、このコースで体感できるのだろうか。
さて、新型アウトランダーPHEVの4WDは、前後輪、前輪左右の駆動トルク配分のみならず、後輪左右の配分までも可能にしている。すべてのタイヤに対して、走行シーンに合わせた適切な駆動トルク配分が瞬時にできるわけで、まさに「アクティブ」「バリアブル」という言葉がふさわしい。モーター駆動だからこそなせるワザと言える。
駆動トルクは、ドライブモードを「MUD」にした場合以外は、後輪寄りに多く配分されるようになっており、弱アンダーステアリングの自然なハンドリングで運転できるようになっている。MUDの場合は、擬似的な直結4WD状態にすることで、より高い悪路走破性を発揮できるようになっている。ちなみに、S-AWCの駆動力配分というのは、ランダーエボリューションXの開発で得られた知見に基づいているらしい。
好感が持てたのは、センターコンソールに配置されたドライブモードのダイヤル。手に馴染む大きさで、回した時のクリック感もちょうどいい。ランドクルーザー300がインパネ内にダイヤルを移し、さらに小型化したのとは対称的だ。ただ、オーナー以外でも操作することを考えれば、分かりやすい位置、回しやすい大きさは、同車のようになるのかもしれない。
それとステアリングの形状やポジションは、三菱Jeep以来、長年ノウハウを蓄えてきた三菱らしいと感じた。オフロード車の場合、ステアリングは車両をコントロールする上で非常に重要なインターフェイスだ。グリップは太すぎると回しづらいし、ホイール径が小さすぎるとパワステでも悪路では回すのに力を要する。その点、このステアリングホイールは絶妙なところに着地させている。また、ポジションの調整も考えられおり、チルト・テレスコピックによってオフロードドライブに適切な位置に合わせることができる。
クルマ任せもOKだが、ドライバーが楽しむ余地も残した巧みな制御
さて、最初は「NORMAL」モードで走り、基本的な走行フィールを体感した。これまで、いろいろなEVやPHEVに試乗させてもらったが、モーターというのはエンジンと違い、トルク変動がない。モーターなので、電気を流した瞬間から最大トルクが発生する。スイッチ、つまりアクセルは仕事量(回転数)を調整するだけとなる。瞬間的に大きなトルクが発生するのでおもしろいと言えるが、反面、繊細なコントロールが必要な時に、どう制御しているのかがカギとなる。
新型アウトランダーPHEVの場合、オンロードではある程度はモーターのおもしろさ、気持ち良さをドライバーに体感させながら、アクセルを開けた時のフィーリングはエンジン車のそれと大きく乖離しないように制御されていたと思う。エンジン車から乗り替えても、ギクシャクさせることなくドライブさせることができた。
果たして、多少アクセルワーク、バックトルクの感覚に違いはあるものの、オンロード同様に自然なハンドリングで運転することができた。また2トン超のSUVながら、操舵が非常に楽だ。これは前後輪の荷重バランスの巧みさもあるが、床下にバッテリーユニットを収納したことで低重心になっていることも要因のようだ。
感心したのはサスペンションの動きで、オンロードでは快適かつハリのある脚だったが、オフロードではトラベル量が大きく、激しい凹凸をもしっかりと追従してくれる。加えて、クルマが跳ねてもまるでサスペンションの底づき感がない。フロントはマクファーソンストラット、リアはマルチリンクを採用しているが、バネレートや減衰力を相当煮詰めたことが分かる。
基本的にドライブモードをオンロード向きに合わせると、駆動トルクや出力特性に違いがあるものの、概ねは弱アンダー気味の走りだった。オフロードに慣れている人が走れば、これらのモードでも十分に走れるだろうし、アクセルやステアリング操作さえ留意すれば、大きなテールスライドを起こすこともまずない。
では「GRAVEL」モードはどうかというと、これはランドクルーザーのマルチテレインセレクトと甲乙つけがたい制御だった。タイヤの空転具合をセンサーが瞬時にキャッチし、モーター出力や駆動トルク配分を積極的に制御。さらにプッシュアンダーが出そうになると、内輪のブレーキ制御を行い、ちょうどクローラー車のような感じで旋回を支援する。オフロードの運転経験が少なかったり、多少車両コントロールがラフでも、最終的にはすべてクルマの方が担ってくれる感じだ。
では「MUD」モードは何が違うのかというと、まず4WDをほぼ直結の状態にする。さらに曲がるという制御はカットし、前進することに注力させたプログラムとなる。単純に言えば、フルタイム4WDではなく、ジムニーのようなパートタイム4WD車に乗ったような状態だ。しかし、このモードは実におもしろい。かつてのV6パジェロを彷彿させるようなキャラになる。
燃費重視のエコタイヤなのにも関わらず、泥の中でも強力なトラクションを発揮させながら、クルマを前にグイグイ進ませる。また、ライン取りやステアリング操作次第で、テールスライドや4輪ドリフトに持ち込むことだって可能だ。もちろんモーター出力カットといった制御が皆無なわけではないが、極めてPHEVということを忘れさせてくれるモードだったりする。
試しに、このコースで「SNOW」モードを使ってみたが、他のモードよりもセーフティファーストな制御になり、ABSも他のモードよりも早めに利くようになった。スリップさせない、頭を変な方向に向かせないという、明確な意図が分かる制御になっており、冬のドライブでも安心だと思う。
どうしてドライブモードが7つもあるのだろうと思ったが、そこにはPHEVならではの舗装路での燃費追求、ランエボで培ったオンロードドライブでの楽しさの演出、そして三菱らしいオフロードでのアクティブさの実現といった、様々な理由があることが分かった。
トヨタRAV4のPHVもかなり完成度の高いクルマではあったが、新型アウトランダーPHEVはその上をいくクルマだと思う。燃費性能はさることながら、やはりS-AWCによって、プラグインハイブリッド車に“新しい楽しさ”を付加できたのは大きな功績だと思う。同車の開発は2014年から始まったというのが、長い時間をかけただけはあるクルマだと思う。
補助金と減税を考慮すると購入のハードルはグッと下がる
ちなみに今回試乗したPグレードは532万700円〜というプライスだが、このクルマならむしろ安いと思う。それにその下のGやMなら400万円台で購入できるし、装備的にも十分だと思う。個人的にはGが欲しい。それでもちょっと手が届きにくい思う方には、こんな朗報も飛び込んできた。
昨年11月、経産省は「クリーンエネルギー自動車・インフラ導入促進補助金」を発表。アウトランダーPHEVを購入する場合、全グレードで50万円が補助される予定になっている(さらに地方自治体より補助金が交付される場合もある)。さらに、グリーン減税も適用され、重量税が75%減免。同車の重量税は年間4万3500円なので、単純計算で1万875円になる見積もりだ。
値段も気になるが、燃費も大いに気になる時世。データ上では、満充電でEV走行をした場合、87km(WLTCモード・等価EVレンジ)。100km行かないのは電池の限界ゆえの仕方が無いが、まあシリーズ走行やパラレル走行がバックアップするので大きな問題はない。ハイブリッド燃費はWLTCモードで16.7km/L、実質15km/L程度だろう。一見するとプリウスよりも大分落ちるように見えるが、EVモードで走る分を差し引けば、実質燃費はもう少し良くなる。
ただ、遠出をする場合は、充電インフラや充電時間の問題から、やはりハイブリッドで走行する距離が長くなる。さらに、日常的にどう満充電させるかという問題もある。カーポートのある一軒家ならいいが、月極駐車場を借りていたり、マンションだったりする場合、まだまだ充電インフラは完備されていない。かつてはコインパーキングを充電設備にする計画があったが、それも進まず、近隣で充電器を探すのは結構大変だ。そういう点では、まだ所有するのは敷居があるのも否めない。
だが新型アウトランダーPHEVが、これからの三菱を牽引するモデルになったことは間違いない。十分な開発期間を経ただけあって、新型は非常に完成度の高いクルマに仕上がっていると思う。願わくば、オールド三菱ファンとしてはパジェロの復活を期待したいところだが、開発陣もそれを願っているようなので、遠くない未来に大名跡の復活もあり得るかもしれない。ラリーアートも復活したことだし、これからの三菱が大分楽しみになってきた。
三菱アウトランダーPHEV P・主要諸元
■ボディサイズ
全長×全幅×全高:4710×1860×1745mm
ホイールベース:2705mm
車両重量:2110kg
乗車定員:7名
最小回転半径:5.5m
燃料タンク容量:56L(無鉛レギュラー)
■エンジン
型式:4B12 MIVEC
形式:水冷直列4気筒DOHC16バルブ
排気量:2359cc
ボア×ストローク:88.0×97.0mm
圧縮比:11.7
最高出力:98kW/5000rpm
最大トルク:195Nm/4300rpm
燃料供給方式:ECI-MULTI(電子制御燃料噴射)
■フロントモーター
型式:S91
定格出力:40kW
最高出力:85kW
最大トルク:255Nm
■リヤモーター
型式:YA1
定格出力:40kW
最高出力:100kW
最大トルク:195Nm
■動力用主電池
種類:リチウムイオン電池
総電圧:350V
総電力量:20kWh
■シャシー系
サスペンション形式:Fマクファーソンストラット・Rマルチリンク
ブレーキ:Fベンチレーテッドディスク・Rベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:255/45R20
■燃費・性能
【ハイブリッド燃料消費率】
WLTCモード:16.2km/L
市街地モード:17.3km/L
郊外モード:15.4km/L
高速道路モード:16.4km/L
EV走行換算距離(等価EVレンジ):83km
充電電力使用時走行距離(プラグインレンジ):85km
【交流電力量消費率】
WLTCモード:239Wh/km
市街地モード:220Wh/km
郊外モード:221Wh/km
高速道路モード:262Wh/km
一充電消費電力量:19.90kWh/回
■価格
532万700円