アルカナR.S. LINE E-TECH HYBRID ドッグクラッチを使ったE-TECH HYBRIDを試す

ルノー・アルカナ 独自のフルハイブリッドシステムもいいが、クルマの出来もいい

ルノー・アルカナ R.S. LINE E-TECH HYBRID 車両本体価格:429万円
ルノーのニューモデル、アルカナは独自のハイブリッドシステムを搭載した機体のニューカマーだ。マイルドハイブリッドではない。ドッグクラッチも使った2モーターのフルハイブリッドなのだ。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

ドッグクラッチを使うE-TECH HYBRIDとは?

ルノー・アルカナR.S. LINE E-TECH HYBRIDは、12Vや48Vのマイルドハイブリッドでも、高出力のモーターと大容量のバッテリーを搭載したプラグインハイブリッドでもなく、フルハイブリッド(あるいは、ストロングハイブリッド)である。ヨーロッパの自動車メーカーが作るハイブリッドとしては希有な存在だ。モーター走行(EV走行)するのに充分な出力とトルクを備えた走行用モーターを持ち、主に発電を受け持つモーターを加えた2モーターのハイブリッドシステムである。1.2kWhという、比較的大きなバッテリー容量を備えるのも特徴だ。

形式:直列4気筒DOHC 型式:H4M型 排気量:1597cc ボア×ストローク:78.0mm×83.6 mm 圧縮比: 最高出力:94ps(69kW)/5600pm 最大トルク:148Nm/3600rpm 燃料供給:PFI 燃料:プレミアム 燃料タンク:50ℓ
日産開発の1.6ℓエンジンとルノーのE-TECH HYBRIDの組み合わせ

しかも、メカニズムが独創的。ハイブリッドシステムの開発で先行するトヨタやホンダ、日産のいずれとも異なり、走りにこだわるルノーらしさが詰まったシステムとなっている。エンジンは、アライアンスパートナーの日産が開発したHR16DE型、1.6L直列4気筒自然吸気ガソリンを採用。最高出力は94ps(69kW)/5600rpm、最大トルクは148Nm/3600rpmだ。

「Eモーター」と呼ぶ走行用モーターは最高出力49ps(36kW)/1677-6000rpm、最大トルク205Nm/200-1677rpmを発生。「HSG(ハイボルテージ・スターター&ジェネレーター)」は最高出力20ps(15kW)/2865-10000rpm、最大トルク50Nm/200-2865rpmを発生する。エンジンとふたつのモーターをつなげるのが、「F1で培ったノウハウを活用し、ルノーが独自で開発した」電子制御ドッグクラッチマルチモードATだ。

リチウムイオン電池の容量は1.2kWhとハイブリッドとしては大きい。

自動変速機なのでATであることに変わりはないが、プラネタリーギヤ(遊星歯車)を用いたオートマチックトランスミッションと同種の機構を用いているわけではなく、マニュアルトランスミッション(MT)の機構に近い。変速操作をドライバーが手動で行なうのではなく、システムが自動で行なう。MTの場合は変速をスムーズに行なうためにシンクロナイザー(回転同期機構)を備えているが、ルノーのE-TECH HYBRIDは変速時間短縮とダイレクト感を重視し、シンクロナイザーを排除した。それでは変速の際にショックが生じてしまうので、HSGを使って回転を同期させる仕組みである。

ルノーがドッグクラッチと呼んでいるE-TECH HYBRIDの機構は、F1をはじめ、モータースポーツで使用例の多いドッグクラッチとは厳密には異なる形状をしている。実際にはMTからシンクロナイザーを取り去った機構に近いが、回転同期機構を持たない点では共通しており、変速時間の短さとダイレクト感がウリだ。

エンジンは4速、Eモーターは2速の変速段を持つ。HSGはエンジン側のシャフトで駆動する。エンジン、Eモーターともに変速可能なシステムとしたのは、それぞれ、効率のいい運転領域を使うためだ。それは、燃費のためでもあり、気持ちいい走りのためでもある。

発進は常にEV走行 燃費も良さそうだ

スタートは100%EVモード。

発進は常にEV走行だ。片側2車線の一般道を周囲の流れに合わせて移動している状況では、40km/hから50km/hの間でエンジンが始動するケースが多かった。制限速度が40km/hに指定された細い道路では、(バッテリー残量にもよるが)アクセルペダルを強く踏み込まない限り、ほぼEV走行でこなす。Eモーターの最高出力は49ps(36kW)なので、頼りないのでは、と思うかもしれない。だが、注目すべきは205Nmの最大トルクのほうで、発進直後の極低速域で2L自然吸気エンジンの最大トルクに匹敵する豊かなトルクを発生する。ドライバーの要求トルクがEモーターの能力を上回った場合にのみエンジンが始動するわけで、だから、発進~低速域はほとんどEV走行だ。

高速道路では70km/hから75km/hでエンジンが始動するというのがルノー側の説明だが、発進から100km/hまでエンジンは始動せず、ずっとEV走行だったという経験を、複数回の試乗で何度も経験した。意外とモーターの出番が多く、というよりエンジンの出番が少なくて、EVライクな走りが堪能できる。

モーターがもたらす静かで、応答性が高くスムーズな走りに慣れてしまうと、エンジンが始動した途端に「かかってしまたった」とがっかりするものだが、アルカナの場合はがっかり感が少ない。エンジンの回転が一気に上昇して後から車速が追いついてくるというような、ドライバーの感覚とマッチしない素振りは見せず、加速感とエンジンサウンドがシンクロした、気分の高揚感を促すような制御に終始している。ハイブリッド車にしてはめずらしく、エンジンの存在を邪魔に感じない。

カーボン調とレッドラインで仕上げられたダッシュボード

ハイブリッドシステムの話に終始したが、アルカナはクルマとしてよくまとまっているのが印象的だった。見てのとおりクーペスタイルのSUVなので後席のヘッドルームが気になったが、身長184cmの筆者が後席に陣取っても、頭が窮屈ということはない。前席に筆者が座ってドラポジをとったシート位置で、膝前にこぶし大のスペースが残る。後席用の空調吹き出し口があり、USBポートが2口あるのはポイントが高い。

ポイントが高いといえば、運転席だけでなく助手席も電動スライドとリクライニングができるのはポイントが高い。先進運転支援システム系は2020年に国内デビューを果たしたルーテシアで一気に競合に追い付いた感があるが、アルカナも同様。アダプティブクルーズコントロール(ストップ&ゴー機能付き)やレーンセンタリングアシスト(車線中央維持支援)などは、ただ機能が付いているだけでなく、「使える」ことを実地に確認した。

全長×全幅×全高:4570mm×1820mm×1580mm ホイールベース:2720mm
トレッド:F1550mm/R1560mm
最低地上高は200mm 最小回転半径 5.5m

扱いやすい手ごろなサイズ(伝え忘れたが、全長4570mmのCセグメントに属する。なので、扱いやすさのギリギリ?)で、実用性に関しては物理的にも機能面でも不足はない。新種のハイブリッドシステムはモーターの存在感が強く、助っ人として機能するエンジンは気持ち良さを演出しこそすれ、邪魔にはならない。気になる実用燃費は未確認だが、WLTCモード燃費が22.8km/Lだとすると、相当期待してよさそうだ。

ルノー・アルカナ R.S. LINE E-TECH HYBRID
 全長×全幅×全高:4570mm×1820mm×1580mm
 ホイールベース:2720mm
 車重:1470kg
 サスペンション:Fマクファーソンストラット式/Rトーションビーム式 
 駆動方式:FF
 エンジン
 形式:直列4気筒DOHC
 型式:H4M型
 排気量:1597cc
 ボア×ストローク:78.0mm×83.6 mm
 圧縮比:
 最高出力:94ps(69kW)/5600pm
 最大トルク:148Nm/3600rpm
 燃料供給:PFI
 燃料:プレミアム
 燃料タンク:50ℓ
 メインモーター:5DH型交流同期モーター
  最高出力:49ps(36kW)/1677-6000rpm
  最大トルク:205Nm/200-1677rpm
 サブモーター:3DA型交流同期モーター
  最高出力:20ps(15kW)/2865-10000rpm
  最大トルク:50Nm/200-2865rpm
 

 燃費:WLTCモード 22.8km/ℓ
  市街地モード19.6km/ℓ
  郊外モード:24.1km/ℓ
  高速道路:23.5km/ℓ
 トランスミッション:電子制御ドッグクラッチマルチモードAT
 車両本体価格:429万円

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…