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新型ゴルフ ヴァリアントはスタイリッシュさと後席の広さが自慢
新型フォルクスワーゲン・ゴルフ(8代目)にヴァリアントが追加されたので、早速試乗してきた。
ゴルフ ヴァリアントは1995年に国内導入された3代目ゴルフのときにステーションワゴンタイプが誕生し、当時は「ゴルフワゴン」の名前で販売。輸入車Cセグメントのベストセラーとなり、5代目ゴルフで現在のヴァリアントへと名称変更されている。導入から25年間の累計販売台数で15万8000台を記録する人気モデルだ。
そして、今回のヴァリアントはベースとなるハッチバックのフルモデルチェンジに合わせ、ヴァリアントもモデルチェンジした。ベースはハッチバックではあるが、ヴァリアント専用のホイールベースを採用し+50mm長くなっている。その分足元スペースやラゲッジルームが広くなっていた。
ゴルフはドイツを代表する国民車であり、Cセグメントのベンチマークとされる、いわばお手本のクルマ。ヴァリアントも当然、こうしたワゴンタイプのお手本となるが、実際に試乗してみるとハッチバックよりホイールベースが伸びた分、クルマの動きにしなやかさが加わり、スポーティさというより、上品に、穏やかに、そして高級な感じに変わっていた。
サイズ:クラスは下だが全長は15mm長いゴルフ ヴァリアント
これだけ量販モデルとしてレベルが上がってきているのだから、ひとクラス上と比較してみるとどうかという提案が編集部からあった。ちょうどタカハシのマイカーがF31型BMW320dツーリングMスポーツなので、同じワゴンタイプで都合いいというわけだ。ちなみに試乗したヴァリアントはeTSI Activeで3気筒1.0Lガソリンターボ+48Vマイルドハイブリッド+7速DSG。出力は110ps/200Nm。BMWは2015年式で4気筒2.0Lディーゼルターボ+8速AT。出力は190ps/400Nm。
すると、最初に感じたのは良いとか、悪いとか、優れている、劣っているということではなく、ターゲットユーザーの違いが明確にあるということ。もちろん、セグメントもCセグメントとDセグメントでサイズは異なるし、プレミアムメーカーと量販メーカーの違いもある。さらに、FFとFRの違いもあって、価格に至ってはほぼ倍違うので、比較対象とはならない。ちなみに価格は試乗車が326万5000円、BMWは購入当時630万円だった。
とは言え、じつはボディサイズが似たような大きさなのだ。BMWの全長4625mmに対しゴルフ ヴァリアントは4640mmでヴァリアントのほうが+15mm大きい。全幅はBMWが1800mmで、ヴァリアントは1790mm。ホイールベースはBMWが2810mm、ヴァリアントが2670mmとなっていて、はほぼ同サイズと言っていい。つまり、ボディサイズが似ているから比べてみようと思ったわけ。
それにしてもゴルフ ヴァリアントが3シリーズツーリングとほぼ同等サイズというのも驚きで、本来であればVWのDセグメント、アルテオンシューティングブレークとの比較のほうが量販とプレミアムの違いはあるものの比較対象としては相応しいのではないかと。アルテオンの狙いはプレミアムイーターであるわけだから。
だが、こうして、ちょっと無理矢理感はあるものの、BMWからVWへ乗り換える選択肢が皆無かと言われれば、無下に否定もできない。値段は半分だし乗り換えてもいいのか?とも思う人がいるかもしれない。またプレミアムモデルまでの予算は使いたくない、300万円台で購入できるヴァリアントはどれほど引けを取らない魅力をもっているのか?ということも気になるではないか。
ということで、最初に違いを感じたターゲット層についてお伝えすると、シートとドラポジの違いからターゲット層の違いが感じ取れる。
走り:リニアで穏やかなゴルフ ヴァリアント、攻撃的に走れる3シリーズ
ゴルフ ヴァリアントはアップライトなドラポジが影を潜め、アシを前に投げ出す感覚が少し出ている。コンパクトなボディに大きなキャビンが必要というコンパクトカーの要件を満たすためにアップライトにしているが、ホイールベースの延長によりその要件は少し薄れ、通常のポジションに近くなっていた。が、アップライトなポジションはキャビンスペースの確保という理由だけでなく、それ以外にも見下ろしができる運転姿勢だからボンネットの先端が見やすくなるなど、手前の視界がよくなることから実用車向きのポジションとして採用している理由もある。
それに対し、BMWのドラポジはもともとが相当低く、速く走るためのポジションであることが明確であり、シート位置だけでもターゲット層の違いがわかる。そしてシート形状でもBMWはMスポーツだからホールド性は確保されている。が、ヴァリアントのシートは、ゆったりとリラックスできるようなデザインのシートが装着されていた。つまり、ターゲット層の違いを理解すれば、双方とも当然のシートデザイン、機能ということができる。
ハンドリングではゴルフ ヴァリアントの快適さは印象に残った。以前のフォルクスワーゲン車のようにセンタリングを強くして直進性の高さを強調することなく、センターの座りの強さは抑えられ、ジワリ操作もしやすくなった。また、回頭性の高さも素晴らしかった。そして冒頭に触れたがハッチバックよりホイールベースが長くなった分、ゆったりとした動きになり、それが穏やかさに繋がり、乗り心地の良さにもつながっている。
ちなみに試乗したゴルフ ヴァリアントのリヤサスペンションはトーションビーム。上級グレードのR-Lineになるとマルチリンクになる。だが、トーションビームのネガという部分は全く見当たらない。試乗コースは箱根のワインディングと市街地だが、そのサスペンション形式の違いは限界付近で挙動の違いが出るということだろうが、そこまでの体験はできなかった。
また、ゴルフ ヴァリアントは全体に腰高感はあるものの滑らかに走るし、旋回性も高い。4輪コーナリングブレーキというか、ESCをチューニングして旋回性を上げる制御を取り入れることで安全性とドライバビリティを向上させていることがわかる。BMW Mスポーツのどっしりとした安定感と地面に吸い付くようなコーナリングとは質は異なるが、ターゲット層を考えれば悪くない。
もっと言えばFFとFRの違いにより挙動や動き方に違いがあり、さらにジオメトリーの違いなどの作り方の違いも影響してダイアゴナルロールの動きが異なる。だからヨーレートの出方、ロールの始まり方も異なっている。ゴルフ ヴァリアントはコーナリング中にリヤの接地感が感じられるので、安心してアクセルが踏み込める。一方のBMWはコーナリング中もリヤを中心に旋回しているので、攻撃的にアクセルを開けていくことができる。この駆動方式の違いは大きな差異として伝わってくる。
タイヤサイズはゴルフ ヴァリアントが205/55R16。BMWはフロントとリヤが異サイズでフロントが225/45R18、リヤが255/40R18で、見た目では圧倒的に違いがあり、BMWのスポーティさとVWの実用車の違いは見栄えという点でも明確である。が、ここでもターゲット層が異なるのだから双方ベストチョイスと言える。もっともヴァリアントのR-Lineグレードは17インチを装着し、見た目はグッと良くなっている。
エンジン:スムーズな再始動が好印象のゴルフ。余裕のトルクが頼もしい3シリーズ
エンジンフィーリングでは、ディーゼルとガソリン、2.0Lと1.0Lという、比較しても意味をなさないほどスペックは異なるが、ゴルフ ヴァリアントの1.0Lターボ+マイルドハイブリッドが実用的でないかと言えば、そうではない。110ps/200Nmのパワーは、高速道路での追い越し加速やワインディングでは物足りないものの、市街地での常用域ではすこぶる快適である。ヴァリアントのユーザーターゲットは、スポーツドライブというよりファミリーユースをターゲットにし、もう少しスポーツドライブを楽しみたいと思うなら、ヴァリアントには1.5LターボのR-Lineという選択肢がある。
ただ、それだけの小排気量でもWLTCモード平均燃費は18.0km/Lであり、おそらくリアルでも同等の数値になると思うが、BMWの2.0Lディーゼルターボも同じくらいの燃費になる。日本では燃料価格差が大きいので、そこを考えると、そしていざという時のパワーを踏まえると2.0Lディーゼルターボの魅力が増大する。
アイドリングストップからの再始動はゴルフ ヴァリアントの勝ちだ。このポイントはターゲットユーザーはほぼ関係しない。単に発売時期の違いにより装備に新旧があるということになるが、F31型BMWではマイルドハイブリッドが採用されておらず、アイドリングストップからの再スタートにもセルモーターを使っている。そのため、音と振動がそれなりにあるのだ。一方、最新のヴァリアントは48VのBSGマイルドハイブリッドになり、ベルト駆動のオルタネータによってエンジンを始動させる。そのため、とても静かで滑らかだ。
トランスミッションはBMWが8速ATに対し、ヴァリアントは7速DSGを搭載。変速スピードやダイレクト感といったものは一般道を走行する限り違いは感じない。またヴァリアントは乾式のDSGのため、駐車場などでの切り返しでのギクシャク感が出やすいものの、ヴァリアントではそうした症状はなくATと同等と言っていい。
ただ、ブレーキホールド機能との相性はさほど良くなく、スイッチを入れたままで切り返しを行なうとガッツンと止まり、グッと飛び出すようなことになるので、その場合はブレーキホールドスイッチを切っておいたほうがスムースに操作できる。
室内:インフォテイメントと後席・荷室の広さはゴルフがリード
メーターまわりやナビモニターなどはBMWはスパルタンでスポーティな印象という一方、ヴァリアントは最新のデジタルインフォテイメントを搭載している。すべてがタッチパネル対応で、物理スイッチが極めて少ない。操作性の良し悪しはあるものの、BMWよりはるかに先進性を感じさせるデザインになっていた。もちろん、そこでつながるコネクテッド領域では圧倒的にゴルフ ヴァリアントのほうが最新のものにアップデートされているのは言うまでもない。
インフォテイメントにおいては決定的な時間差が出ている。つまり、Apple CarPlayやAndoridAutoへの対応はF30系の時代には対応できていない。そして車内Wi-Fiも当時は準備されていないというのがあった。当然だが、現行のG20系ではすべて対応済みである。そこで言うと運転支援システムについても仕様の違いはあると思うが、今回の試乗では試すことができていないので具体的な違いは別の機会に譲りたい。
さて、他にも圧倒的な違いがあった。それはキャビンスペースとラゲッジルームの広さだ。すべてゴルフ ヴァリアントに軍配があがる。後席足元の広さ、ラゲッジルームの広さBMW3シリーズは大敗を喫す。ボディサイズはほぼ同等、ホイールベースはBMWのほうが長い、にもかかわらずFFのヴァリアントはその理屈を存分に噛み砕き、FFだからこそのメリットを有意義に反映しているのだ。言い換えればFRのネガが出ているのがキャビンスペースと後席の広さということになる。
とくに、リヤシートが通常状態ではBMWが495Lに対しヴァリアントは611Lもある。さらに、リヤシートを倒すとBMWが1500Lとかなり大きいが、ヴァリアントはさらに上を行く1642Lもの大きさがあるのだ。ここは広ければ広いほど良い。その分ロードノイズが入りやすくなるリスクはあるがヴァリアントはそうした対策もきちんとできており、静粛性は保たれている。
ついでにリヤゲートの開閉に関し、ヴァリアントにも足の蹴り込み動作で開閉するパワーテールゲートが装備(オプション)され、電動開閉が両車ともに可能になっている。ただ、BMWにはリヤゲートウインドウだけを開閉できるような仕様があるので、開閉バリエーションではBMWのほうが多い。
ということで、無理矢理BMWと比較してきたが、実用領域に関わる性能、機能ではメーカーの生命線に関わるVWに軍配が上がり、反対にダイナミック性能やドライビングの愉しさはBMWの生命線が浮き彫りになる結果だ。また、車両開発の狙っているポイントが全く異なっているために魅力を感じる部分も異なってくるという当たり前の結果と言っていいだろう。
フォルクスワーゲン・ゴルフ ヴァリアント eTSI Active・主要諸元
■ボディサイズ
全長×全幅×全高:4640×1790×1485mm
ホイールベース:2670mm
車両重量:1360kg
乗車定員:5名
最小回転半径:5.1m
燃料タンク容量:47L(無鉛プレミアム)
■エンジン
型式:DLA
形式:水冷直列3気筒DOHCターボ
排気量:999cc
ボア×ストローク:74.5×76.4mm
最高出力:81kW(110ps)/5500rpm
最大トルク:200Nm/2000-3000rpm
■モーター
型式:4450
最高出力:9.4kW(13ps)
最大トルク:62Nm
■駆動用バッテリー
種類:リチウムイオン電池
槽電圧:44V
■駆動系
トランスミッション:7速DCT
■シャシー系
サスペンション形式:Fマクファーソンストラット・Rトレーリングアーム
ブレーキ:Fベンチレーテッドディスク・Rディスク
タイヤサイズ:F205/55R16
■燃費
WLTCモード:18.0km/L
市街地モード:14.5km/L
郊外モード:18.0km/L
高速道路モード:20.1km/L
■価格
326万5000円
BMW 320d ツーリング Mスポーツ・主要諸元
■ボディサイズ
全長×全幅×全高:4625×1800×1450mm
ホイールベース:2810mm
車両重量:1620kg
乗車定員:5名
最小回転半径:5.4m
燃料タンク容量:57L(軽油)
■エンジン
形式:水冷直列6気筒DOHCディーゼルターボ
排気量:1995cc
最高出力:135kW(184ps)/4000rpm
最大トルク:380Nm/1750-2750rpm
■駆動系
トランスミッション:8速AT
■シャシー系
サスペンション形式:Fマクファーソンストラット・R5リンク
ブレーキ:Fベンチレーテッドディスク・Rベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:F225/45R18・R255/40R18
■燃費
JC08モード燃費:19.4km/L
■価格
535万円(2012年の初登場時)