MAZDA3 e-SKYACTIV-X搭載モデル長期レポート | 16 vs 18インチ 新旧ディテール比較

e-SKYACTIV Xを身近に 16インチタイヤ&お手頃価格を実現したMAZDA3 X Smart Editionを試乗

左が筆者のMAZDA3、右が今回のテーマ、X Smart Edition(FF 6AT)だ。
気になるクルマを確認した。2021年10月28日にMAZDA3に追加された新機種、「Smart Edition(スマートエディション)」だ。「e-SKYACTIV Xをより広い層に」がコンセプトである。e-SKYACTIV Xを搭載した筆者のPROACTIVE Touring Selection、AWD、6MTと比べてみた。タイヤSmart Editionが16インチ、筆者のマイカーは18インチである。

TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

価格設定が高くて手が出しにくかったe-SKYACTIV X

MAZDA3 FASTBACK X SMART EDITION(FF 6AT)

e-SKYACTIV Xは熱効率の向上に大きく寄与するガソリン圧縮着火燃焼を、SPCCIと呼ぶマツダ独自の火花点火制御圧縮着火によって実現した画期的なエンジンだ。国内での販売は2019年に始まっているが、量産ガソリンエンジンで圧縮着火を実現しているのはいまだにマツダのe-SKYACTIV Xだけである。唯一無二の存在だ。

e-SKYACTIV Xは応答性が高いため、ドライバーの意のままに反応しつつ必要充分な力を出し、それでいて燃費がいい。エンジンとの対話を独特のサウンドと力感を通じて楽しんだ後で、給油時などに燃費を確認してみると、「意外にいいね」と感じさせるエンジンだ。1年とちょっと自分のクルマとして付き合った実感としては、燃費の良さよりも、エンジンの気持ち良さのほうに魅力を感じる。付き合いを深めるほどに味わいが増すエンジンだ。

ただし、選択する側の身になって考えてみると、価格設定が二の足を踏む要素となって立ちはだかるのも事実だ。MAZDA3のファストバックには、ガソリン1.5L直列4気筒自然吸気エンジンと、2.0L直列4気筒自然吸気エンジン、それに1.8L直列4気筒ディーゼルの設定がある(e- SKYACTIV Xは2.0L直列4気筒だ)。

1.5Lガソリンの価格帯(税込)は222万1389円〜260万1500円。2.0Lガソリンは251万5741円〜287万3241円、ディーゼルは279万741円〜328万1055円である。e- SKYACTIV X搭載車は新機種のスマートエディションを除くと324万5000円〜368万8463円となる。特別仕様車のBlack Tone Edition(ブラックトーンエディション)同士(2WD、AT)で比較してみると、e-SKYACTIV X搭載車の価格は324万5000円で、ディーゼル(XD)より40万7000円、2.0Lガソリン(20S)より68万2000円、1.5Lガソリン(15S)より88万円それぞれ高い。

価格差に見合うだけの価値があると信じて疑わない人(例えば筆者)は迷わずe-SKYACTIV Xを選択するだろうが、「これだけの価格差があると考えちゃうな」と思って普通である。なにしろ、e-SKYACTIV Xも20S系も、2.0L直列4気筒のガソリンエンジンであることに変わりはない。そう考えると、68万2000円の差は大きい。

価格もいいが、16インチタイヤもいい

SPCCI燃焼の革新的エンジン、SKYACTIV-Xの価値はその気持ちよさにある。それはX Smart Editionでも変わらない。

そこでマツダは、「広い層のお客さまにお選びいただきやすい機種」として、スマートエディションを追加したというわけだ。価格は279万741円である。2WD(前輪駆動)かつATのみの設定だ。e-SKYACTIV Xのブラックトーンエディションより45万4259円も安く、20Sのブラックトーンエディションとの価格差は22万7741円まで縮まった。e-SKYACTIV Xの価値を重視する向きには最良の選択肢になるだろう。

Xスマートエディションはスマート・ブレーキ・サポート(後退時にクルマや障害物を検知)やレーンキープ・アシスト・システム(LAS)、ブラインド・スポット・モニタリング(BSM)、アクティブ・ドライビング・ディスプレイ(ヘッドアップディスプレイ)といった安心安全技術を装備しつつ、Xブラックトーンエディションが搭載する装備を一部簡略化して「お選びいただきやすい」価格を実現している。

手前がX Smart edition(205/60R16 ヨコハマ・ブルーアース)、奥が筆者の18インチ(215/45R18)

例えば、タイヤ&ホイールだ。Xブラックトーンエディションのタイヤサイズは215/45R18(ブリヂストン・トランザT005A)で、ホイールはブラックメタリック塗装の18インチとなる。いっぽう、Xスマートエディションのタイヤサイズは205/60R16(ヨコハマ・ブルーアースGT)で、シルバーメタリック塗装の16インチが標準。メーカーオプション(4万4000円)でブラックメタリック塗装の18インチホイールとタイヤが選択できる。

18インチタイヤ+ブラックメタリック塗装ホイール装着車と16インチタイヤ+シルバーメタリック塗装のXスマートエディションを並べてみた。18インチ装着車のほうが明らかにスポーティだが、16インチ装着車が貧弱かというと、そうとは言い切れない。知っている人が見れば「X(フロントフェンダーのバッジを見ればわかる)なのにあえて16インチを選んだのか。ツウだな」と認識するに違いない。

X Smart edition(205/60R16 ヨコハマ・ブルーアース)

筆者もX購入時、18インチにするか16インチにするかで迷った口だ。「16インチの乗り味もいいですよ」と開発者から聞いていたからだ。さんざん迷ったが、お目当ての機種では商品改良を機に16インチタイヤ&ホイールが選択できなくなり、やむを得ず諦めた経緯がある(迷う必要がなくなってホッとした面もある)。実はMAZDA3と16インチタイヤ&ホイールの組み合わせに乗るのは今回が初めてだったこともあり、楽しみだった。

そして、聞いていたとおり、良かった。商品改良の内容を告げるプレスリリースには記載されていないが、スマートエディションを追加した商品改良に合わせ、ダンパーの仕様が変更されている模様。一般的にサスペンションの動きは、新車時は硬く、使い続けるうちに摺動部がなじんで動きがマイルドになっていく傾向がある。商品改良後は新車時からこなれた状態のマイルドな動きを出す方向で仕様変更がなされたようだ。

16インチタイヤだからといって外観が貧弱(!)というわけではない。

エアボリュームがあるタイヤの効果もあり、16インチサイズのタイヤを履くスマートエディションの縦方向の動きは、18インチを履く仕様に比べてマイルドだ。18インチの場合は路面状況によって強い入力を減衰しきれず、ときおり、「硬い」と思わせる瞬間が訪れるが、16インチのスマートエディションはそうした歓迎したくない体験をしなくて済む。サーキットでタイムを削る走りを重視するのではない限り、総合バランスは16インチのほうが上だ。ただし、18インチと16インチの見た目の差は明確で、4万4000円のオプションを選ぶかどうかは悩ましい判断になりそうだ。

オーナーだから気になるディテールも比較してみた

左が筆者のMAZDA3、右がX Smart edition。オーナーだからこそ気づく微妙な変更がある。

スマートエディション追加時の一部商品改良の一環で、ターンランプがCX-30で初採用されたディミングターンシグナルに変更された。鼓動を打つような生命感ある点滅の仕方が特徴で、縦置きパワートレーンを採用したクロスオーバーSUVのCX-60にも採用されている。ディミングターンシグナルの採用に合わせ、リヤコンビランプの仕様も変更された。従来は4つの○で構成されていたレンズは、大きなひとつの○と十を組み合わせた形状になっている。また、ターンランプを囲むドーナツ状のテールランプが太くなっている。

フロントのターンランプもディミングターンシグナル(サイドミラーのランプも同様)となるが、スマートエディションの場合はMAZDA3の象徴ともいえる、生き物の目を連想させるヘッドランプユニット内シグネチャーLEDランプは非搭載となる。外装では、バックドアに貼ってある車名ロゴの仕様が変更されている。従来はMAZDAの文字が一体となっていたが、最新の一部改良版は5つのアルファベットが独立した構成となっている。細かな変更であり気遣いだが、このほうがスマートだ。

ブラックトーンエディションとの対比でいえば、クルージング&トラフィック・サポート(CTS:追従走行時のステアリングアシスト機能)は付かないが、先行車との車間距離を一定に保ちながら追従走行できるマツダ・レーダー・クルーズ・コントロール(MRCC)は搭載しており、同種の機能に慣れ親しんでいる人にとっては朗報だろう。装備を簡略化した機種ではエアコンをオートからマニュアルに変更する例が散見されるが、スマートエディションの場合、エアコンはフルオートが備わっており、この面でも「いくら選びやすい価格だからといって……」と、悩ましい(所有してみればみすぼらしい)思いをしなくて済む。

エンジン形式:直列4気筒DOHC エンジン型式:HF-VPH型 排気量:1997cc ボア×ストローク:83.5mm×91.2mm 圧縮比:15.0 最高出力:190ps(140kW)/6000rpm 最大トルク:240Nm/4500rpm 過給機:スーパーチャージャー 燃料供給:筒内燃料直接噴射(DI) 使用燃料:プレミアム 燃料タンク容量:51ℓ モーター:MK型交流同期モーター モーター最高出力:6.5ps(4.8kW)/1000rpm モーター最大トルク:61Nm/100rpm

肝心要のe-SKYACTIV Xに関しては、上位機種との違いはまったくない。後日公開するレポートで詳しく触れるが、スマートエディションが追加された一部商品改良で吸排気エンジンサウンドが進化しており、「ドライバーの意のままに操る自在感と爽快感」の向上が図られている。独特のエンジンサウンドの変化と背中をシートに押し付ける感覚の変化がシンクロすることで味わえる気持ち良さがe-SKYACTIV Xの真骨頂で、この気持ち良さは上位機種と何ら変わらない。そう考えると間違いなく、スマートエディションはお買い得な機種だ。

最後に付け加えておくと、このレポートをまとめるにあたって公式サイトを確認したところ、「MAZDA3は現行モデルのご注文受付を終了しております。販売時期は改めてご案内いたします」とのメッセージが表示されていた。次の商品改良が近いということだろう。e-SKYACTIV X選択時の敷居を下げる「広い層のお客さまにお選びいただきやすい機種」の存続を期待したいところだ。

長期レポートのすべてはこちらに
MAZDA3 FASTBACK X SMART EDITION(FF 6AT)
 全長×全幅×全高:4460mm×1795mm×1440mm
 ホイールベース:2725mm
 車重:1430kg
 サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rトーションビーム式
 エンジン形式:直列4気筒DOHC
 エンジン型式:HF-VPH型
 排気量:1997cc
 ボア×ストローク:83.5mm×91.2mm
 圧縮比:15.0
 最高出力:190ps(140kW)/6000rpm
 最大トルク:240Nm/4500rpm
 過給機:スーパーチャージャー
 燃料供給:筒内燃料直接噴射(DI)
 使用燃料:プレミアム
 燃料タンク容量:51ℓ
 モーター:MK型交流同期モーター
 モーター最高出力:6.5ps(4.8kW)/1000rpm
 モーター最大トルク:61Nm/100rpm
 WLTCモード燃費:17.4km/ℓ
  市街地モード 13.9km/ℓ
  郊外モード 18.3km/ℓ
  高速道路モード 18.9km/ℓ
 車両価格○284万5741円 op込み価格289万5241円(特別色5万5000円、スーパーUVカットガラス(フロント)IRカットガラス(フロント)+CD/DVDプレーヤー、地上デジタルTVチューナー 4万9500円

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…