日産復活の象徴として2002年7月に華々しく登場し、その後も改良や追加モデルの投入が毎年行われ手厚く扱われた先代(5代目)Z33型と比較すると、2008年12月デビューの現行(6代目)Z34型は、その一年前に発売された現行R35型GT-Rにイメージリーダーの座を奪われたことや世界的なダウンサイズ化の波もありテコ入れの頻度は低く、不遇な扱いを受けている。最後に走りの改良を受けたのは2017年7月で、その後は二度の特別仕様車投入によって辛うじて存在感を保っているのが実情だ。
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その一方で2020年9月には、新型7代目のプロトタイプを発表。2021年8月17日にニューヨークで生産モデル北米仕様の世界初公開が見込まれている。
こうしてデビューから13年を経てようやく世代交代の時を迎えたZ34だが、そのエクステリアは今なお古くささを感じさせない。基本的なプロポーションはロングノーズ・ショートデッキの古典的なファストバッククーペのそれだが、かえってタイムレスな魅力を備えるのに功を奏したのかもしれない。
インテリアもまた、歴代Z伝統の3連メーターを備えた良い意味で古典的な装いだが、ナビ・オーディオ関連のスイッチ類が多く煩雑なセンターパネルには悪い意味で基本設計の古さを感じずにはいられない。だが、ナビ画面はタッチパネル式でスイッチ・ダイヤルと併用でき、好みに応じて使い分けられるのは親切設計と言えるだろう。
なお、今回のようなロングツーリングで重要度が増す積載能力は優秀といえるレベル。この手のファストバッククーペではバックドアに干渉しやすいキャリーバッグも積み込めるだけの深さがある。そのほかビジネスバッグやカメラ、傘なども問題なく収納できた。
そして運転席に乗り込んでクラッチペダルを踏み込み、6速MTのシフトレバーを1速に入れると、ズシリと重い感触を返してくる。ステアリングもまた同様で、車庫や交差点を曲がる速度域でもアシスト量は少ないため相応に腕力を要求されるのだが、ニスモ専用のアルカンターラが見た目に反して滑りやすく、その重さをより一層助長していた。
一方、同じくニスモ専用のレカロシートは、絶対的なサイズ、ヒップポイントの落とし込みの深さ(注:運転席は座面前側と後ろ側の高さを調整可能)、サイドサポートの高さ、クッションのフィット感、生地の滑りにくさとも申し分なし。筆者が知るスポーツカーのシートのなかでもワースト1、2を争うベース車のそれとは雲泥の差だ。
日産本社がある横浜みなとみらいを出て、石畳路のある元町商店街へ。こうした細かな凹凸が続く路面を低速域で走るのはむしろ得意技で、突き上げを乗員へほとんど伝えず、フラットな姿勢を保ったまま通過できる。
これらはニスモ専用のサスペンションセッティングやボディ補強に加え、車体の変形エネルギーを減衰するヤマハ製パフォーマンスダンパーを追加したことが、プラスに作用しているのだろう。
また、港が見える丘公園へ至る急な上り坂のコーナーも、わずかなロールを伴いながらオンザレールで、かつ3.7Lの大排気量を活かし力強い加速でクリアすることができた。
このVQ37VHR型3.7L V6自然吸気エンジン、吸気バルブの作動角とリフト量を可変制御し吸気バルブで吸入空気量を直接コントロールする「VVEL」を備えながら、ニスモにはさらに専用のチューニングを施している。
具体的には、V6の片バンクごとに独立したフルデュアルエキゾーストシステムを採用して排気ロスを低減しつつ、ECUを専用セッティング。ベース車の336ps/7000rpm&365Nm/5200rpmに対し、19psと9Nm高い(注:レブリミットはいずれも7500rpm)355ps/7400rpm&374Nm/5200rpmになっているが、極低回転域のトルク不足は全く感じられない。しかもアクセルレスポンスが鋭いながらも過渡特性はリニアなため、速度のコントロール性は抜群だ。
こうした美点は、街乗りあるいは高速道路を流れに沿って巡航する際など、比較的負荷が低い走行状況の方がむしろ体感しやすい。2000rpmまで回せば充分に加速でき、心理的負担は非常に少ないのだ。
そして高速道路では、ニスモ専用エアロパーツのおかげもあって操縦安定性は高く、乗り心地も低速域と変わらずいたって快適。これでタイヤノイズ、とりわけ荒れた路面でのロードノイズがもっと抑えられていたら、もっと快適にロングドライブが楽しめたのに……と初日の往路、良路の直線が続く首都高速道路湾岸線と常磐自動車道を走行中に感じていたが、その先の道中では……そうは問屋が卸さなかった。