三菱「eKクロスEV」試乗。ガソリン車を超えた経済性と加速感に注目!

三菱「eKクロスEV」試乗。ガソリン価格に換算すると74km/ℓという経済性に驚愕

eKクロスEVは、日産と三菱自のJVである軽自動車の企画会社NMKVによって開発され、三菱の水島工場で生産される
近所使いをメインとするならば電気自動車は必要最小限のバッテリーを積むことが正義という見方もある。実質的には100kmも走れるバッテリーであれば不満はない……というのは電気自動車オーナーであれば実感しているのではないだろうか。過去に初代リーフを所有、現在は軽バンライフを送っている自動車コラムニストが、日産と三菱自動車が共同開発した「軽自動車の電気自動車」を公道で試乗する機会に恵まれて感じたこととは?
PHOTO & TEXT◎山本晋也(YAMAMOTO Shinya)

新たな小型EVではなく、eKクロスシリーズの最上級車としての位置づけ

話題の軽自動車・電気自動車として三菱自動車が生み出した「eKクロスEV」を公道で乗る機会に恵まれました。個人的にいえば、電気自動車(初代リーフ)から軽バン(スズキ・エブリイ)に乗り換えているなど電気自動車と軽自動車のいずれもオーナーとして感じている部分があるだけに、新型の軽BEVには興味津々の試乗となりました。

試乗したのはeKクロスEVの上位グレードとなる「P」。車両本体価格は293万2600円、有料の2トーンカラーやルーフレールといったメーカーオプションの合計33万円、フロアマットなどディーラーオプション合計10万3972円を加えた仕様です。軽自動車としては非常に高価といえますが、電気自動車としてはエントリーモデルといえる価格帯といえるでしょう。

右が電気自動車のeKクロスEV。左のイエローボディはeKクロスのターボエンジン車

注目すべきはeKクロスEVが、三菱の軽自動車として認知されている「eKクロス」シリーズのフラッグシップ的モデルとして生まれていることです。電動化に伴い、内外装で多少の違いはありますが、メーカーの商品企画としては、小さな電気自動車ではなく、「最上級の軽自動車」と位置づけられていると理解できます。

つまり、グローバルに通用する小型BEVではなく、日本での使いやすさを最大限に意識した軽自動車として開発されたと考えるべきでしょう。そこで軽自動車に求められる経済性とパフォーマンスにおいて、どのような仕上がりなのかをメインテーマに試乗することにしました。

エアコン使用でも実測で10.2km/kWh。電費性能の良さに驚かされた。

経済性については、そもそも車両価格が高価という点はありますが、そこはひとまず置いておいて、電気自動車として見たときの電費性能がどうなのかという点についてチェックしたいと思います。

前述したように個人的に初代リーフに4年近く乗っていた過去があります。リーフはCセグメントのBEVですから、軽BEVにはそれより優れた電費を求めたくなるわけです。

自分自身の経験としてリーフでのベスト電費はエアコンオフで10km/kWhあたりでした。そうした経験をもとにエコドライブをしたときに、eKクロスEVはどのような実電費となるのでしょうか。

後ろから車体を見ると、床下のバッテリーや、エンジン車とは異なるリヤサスペンションが確認できる

結論からいえば、市街地をエアコンオフで10分以上走ったのちの電費は、メーター表示で「13.4km/kWh」でした。その後、エアコンをオンにして(設定温度25℃)にして同じように走ったときの電費は10.2km/kWhとなりました。過去の経験からして、軽BEVとして期待するに十分以上の電費性能といえます。

エコドライブといっても大人しく走ったわけではありません。あくまで流れに乗ることを意識していましたし、むしろ信号ダッシュでは隣のエンジン車をリードするような加速もしての結果です。もっともBEVの場合は、それなりに加速して、そこから先は惰性で走行するといった運転が電費向上につながる傾向がありますので、そうした特徴を意識した運転だったという面はあります。

右リヤフェンダー部分に充電口を配置。上が普通充電、下が急速充電となる

またメーターに表示されるバッテリー充電率と航続可能距離については、出発時が150km/94%で、1時間の試乗を終えた段階では104km/73%となっていました(エアコンオフでの数字)。だいたい充電率1%が1.4~1.5km走行の目安になるという表示です。カタログスペックではWLTCモード180kmの一充電航続距離となっていますが、実際の数値に近い数字を辛めに表示しているといえます。

実際にBEVを日常的に乗っていると、航続可能距離のメーター表示は欠かせない情報です。その際に、実態をかけ離れた数字では参考になりませんし、実際より甘めの表示では電欠の危機に瀕することになります。今回の試乗で感じたのは、航続可能距離の表示が適切で日常的に使ってもストレスを感じない絶妙なバランスに仕上げてあるということです。

それにしてもエアコンオフで13.4km/kWhという実電費は期待以上のもので、驚かされました。20kWhの駆動用バッテリーを積んでいますから、このくらいの電費で走ってくれれば、毎日20km程度の近距離ユースに使ったとして充電は1週間に一度くらいで済むでしょう。そうであれば充電の手間も感じないはずです。

エンジン車と同じプラットフォームに電動ユニットが見事に収まっている

ガソリン価格1ℓ分のコストで74km走行可能な経済性の良さ。

eKクロスEVは急速充電にも対応していますが、普通充電の電気代と急速充電の使用料金を比べると、圧倒的に前者がリーズナブルです。急速充電はたまの遠出でエマージェンシー的に利用するくらいにとどめておく意識が、経済的な運用につながります。軽BEVとして考えると、「おうち充電」と呼ばれる自宅での普通充電利用を基本とすべきでしょうす。

言うまでもなく、13.4km/kWhという電費は1kWhで13.4kmを走れるという意味です。家庭向けの電気料金は1kWhが20~30円程度ですから、イメージとしては30円で13.4kmを走行できるという風に理解できます。このコストをレギュラーガソリン170円/ℓとして計算すると、0.18ℓで13.4kmが走れるということになり、燃費換算では74km/Lということになります。

ガソリンと電気では課税状況が異なるという部分はありますが、BEVの経済性は圧倒的で、それは軽自動車に求められる性能を高い次元で実現しているということです。

トルクを感じつつも、ことさらに電動をアピールしない自然な加速。

走りについても軽自動車への期待値を大きく超えるものでした。BEVに「発進から最大トルクを発生するモーターの爆発的な加速力」を期待する向きは拍子抜けするかもしれません。そうした点についてはあえて抑えているという味つけです。このあたり、すでに軽BEVとして2009年にアイミーブを発売してきたという過去やアウトランダーなどPHEVのラインナップを充実させていることで、いまさら電動車両らしさをアピールする必要はないと考えているようです。

あくまでも軽自動車として乗りやすい加速感になっています。もちろん、多段変速機構を持たない電動車両ですから加速はシームレスですし、中間域での再加速もレスポンスよくスムースです。インバーターのノイズも抑えられているので、駆動系由来の騒音は皆無です。

シートレイアウトはエンジン車と同様で、フロントはベンチシートになっています。アームレストも備わっていますから、かなりゆったりとした気分でドライブできるでしょう。

リヤシートのスライド機能をはじめ使い勝手の面ではエンジン車と変わらない

特筆すべきは駆動力が乗り心地につながっている点です。ラフなアクセルワークをしてもシャシーの持つトラクション性能に合わせて、モーターがトルクを発するようセッティングされているようで、加減速の荷重移動で車体が大きくピッチングするようなこともありません。そもそも駆動輪がフロントだということも意識していないとわからないほど滑らかに走ります。ふとした瞬間に後輪駆動ではないかと思うようなフィーリングもあるのです。

このあたり、バッテリーを床下に搭載したことで前後重量配分が最適化されている点もあるでしょうし、エンジン車とは異なるリヤサスペンションの設計における工夫が効いている面もあるでしょう。いずれにしても軽自動車としては最高級の乗り味となっています。

三菱自動車がeKクロス・シリーズの最上級グレードとしてeKクロスEVを位置づけるという商品企画は見事にカタチになっているといえるでしょう。2050年カーボンニュートラルを社会目標としているということは、将来的には市販車のほとんどがBEVになるはずです。

とくに近距離ユースの多い軽自動車はBEVとの相性もいいわけですが、eKクロスEVが示した経済性とドライブフィールにおけるBEVのアドバンテージからすると、軽BEVへのシフトは想像以上に素早く進むかもしれません。

eKクロスEVの骨格はエンジン車と共通だが、メーターが7インチ液晶になるなど差別化している
こちらはエンジン車のeKクロス。指針式のオーソドックスなメーターとなる

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著者プロフィール

山本 晋也 近影

山本 晋也

1969年生まれ。編集者を経て、過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰することをモットーに自動車コ…