SF映画に出てくるような外観! 水面を滑るヨットのような乗り味! ヒョンデ IONIQ5は、じつに新鮮なクルマである【瀨在仁志の新型車チェック】

ヒョンデIONIQ5 Lounge 車両本体価格:549万円
「大胆なフォルムでいいね」と初見から好印象のクルマは、今春に日本へ再上陸を果たしたヒョンデ(旧ヒュンダイ=Hyundai)から発売されたBEV、IONIQ5(アイオニック5)である。ゼロエミッションのブランドとして再上陸をしたヒョンデだが、その走りをモータージャーナリスト・瀨在仁志はどう見たか。

TEXT:瀨在仁志(SEZAI Hitoshi) PHOTO:山上博也(YAMAGAMI Hiroya)/ Motor-Fan.jp

ヒョンデIONIQ5 抜群のコストパフォーマンス 日産アリアやトヨタbZ4Xのライバルになれるか

2022年春に、日本再上陸を果たしたヒョンデ(ヒュンダイ=Hyundai)。今度はゼロエミッションのブランドとしての再上陸で、BEVのIONIQ5(アイオニック5)とFCEVのNEXOの2モデルをラインアップする。注目はBEVのIONIQ5だ。 PHOTO:山上博也(YAMAGAMI Hiroya)/Motor-Fan.jp

初見はすこぶる好感触

SF映画に出てくる空飛ぶクルマのようなフォルムを持つヒョンデIONIQ5に乗った。まずは初見からその大胆なフォルムには大いに期待が持てた。次の100年に向けて大変革が始まっている自動車業界だけに、見た目からして大胆に変わることも重要だ。クルマのあらゆる可能性の出発点として、既成概念をぶっ飛ばし、何でも受け入れる柔軟さを感じさせてくれている。

室内に目を向けてみてもイマ風の横長の大型ディスプレイと、そこに映し出される映像グラフィックに目が釘づけになる。大型の全面ガラスルーフの採用とホワイト基調のインテリアによって生まれた明るく先進的なムードは、最近の流行でもあるが新鮮さがピカイチだ。

車室内はホワイト基調のインテリアのおかげで明るい。

走るラウンジを演出してくれたのは、もちろんいまが旬のモーター駆動があってこそ、である。フロア下に敷き詰められた電力源はリヤアクスル上に設けられたモーターを駆動させ、ほぼ無音状態でドライブが楽しめる。ドライバーから遠いリヤとはいえ、フロアに近いところに駆動源があることで振動や音の侵入が気がかりだったが、市街地からワインディング、高速に至るまで試乗をしたが、気になることはなかった。

日本の各EVモデルはフロントボンネット内に動力源を持ち、少なからずモーター作動音が耳に届くが、ここは遠くにレイアウトしたリヤ駆動のIONIQ5に分があった。もっともリヤからのノイズの侵入は、モーター音よりもロードノイズのほうが大きいことは日本のEVヨンクモデルで確認済みだから、IONIQ5に関してはボディ剛性感の高さや徹底した遮音性対策が実を結んだとも言える。

そんな快適空間を生み出すリヤ駆動のEVパッケージングもやはり走ってナンボである。

街中ではトヨタのEVでロングホイールベースのbZ4Xよりもさらに150mmも長い3000mmによって最小半径は6.0mに限りなく近い5.99m(これはもはや6.0mと言っていいであろう)、1890mmのワイドボディとあいまって狭い道などではやはり慣れが必要だが、モーター駆動のいいところは、そんなときにもゆっくりと滑らかに動かせることができる。

繊細な操作が得意なところは、さすがモーター駆動、である。しかし、Honda eのようにもっとフロントの切れ角を増やせなかったものだろうか。ここは残念なポイントであった。

スタート時のスムーズさを体感するや「これはいい!」と、瀨在氏。

クルマの新たな価値観

高速ドライブではロングホイールベースが効果を発揮して直進安定性は高い。ステアリングはちょっとルーズさを持たせていることで、リヤから押し出してくる加速力の影響を受けづらく、一昔前のアメ車のような大らかな安定感をも生み出してくれている。

乗り心地もカドがなく、リヤに荷重が多く載っているにも関わらず、硬さが伝わってくることはなく、全体にマイルド。ひと言で言えばソフトタッチでロードノイズも抑えられていることで、ラウンジ感覚はしっかりと保たれている。

全長×全幅×全高:4635mm×1890mm×1645mm/ホイールベース:3000mm/最小回転半径:5.99m/トレッド:F|1638mm R|1647mm/最低地上高:160mm/車両重量:1990kg/前軸軸重950kg/後軸軸重1040kg

半面、ハンドリングなど運動性能的に見ると、リヤを基点にしてフロントの上下動が大きいことや、高速の突起通過時などの前後のピッチングがなかなか収まらない。突き上げは解消されても揺れ自体が多いのが気になった。

ワインディングではリヤの安定感がしっかりしていることで、EVパワーを活かして滑らかなコーナリングを楽しめる。ステアリングの操作量に対して動きがやや掴みづらいのはリヤに荷重が乗っていることや、旋回中にレーンキープアシストが強めに介入してくることが大きい。もう少しゆったりとした操舵フィールに合せた味つけが必要だろう。

それでも遠慮なく積極的なドライブを楽しめたのは、とにかくモーター駆動のダイレクトな蹴り出し感と、ロングホイールベースによる安定感の高さが大きい。ステアリングの動きに過敏になりすぎず、リヤ駆動によるステア特性への影響も少なく、滑らかなパワーを最大限引き出せるのがいい。

IONIQ5はSF映画に出てくるような外観同様に、乗り味もまた音もなくリヤを沈ませて水面を滑るように移動するヨットのようでじつに新鮮。リヤ駆動EVパッケージングと快適空間の作り込みによって、新たなクルマの価値観を提供してくれた。

次世代モデルを代表する意欲作として妥協のいクルマ作りはライバルメーカーを大いに刺激したに違いない。これからさらに熾烈さを増すEVモデル開発競争に注目すると共に、その走りの性能をしっかりと見極めていきたい。

ヒョンデIONIQ5 Lounge

全長×全幅×全高:4635mm×1890mm×1645mm
 ホイールベース:3000mm
 車両重量:1990kg
 サスペンション:Fマクファーソンストラット式/Rマルチリンク式
 タイヤ:235/55R19
 
リヤモーター
 EM17型交流同期モーター
 最高出力:160kW(217ps)/4400-9000rpm
 最大トルク:350Nm/0-4200rpm
 リチウムイオン電池
 総電圧:653V
 総電力量:72.6kWh
 
 WLTC交流電力量消費率:132Wh/km
 一充電走行距離618km

キーワードで検索する

著者プロフィール

瀨在 仁志 近影

瀨在 仁志

子どものころからモータースポーツをこよなく愛し、学生時代にはカート、その後国内外のラリーやレースに…