欧州勢はBEV=CO₂ゼロで回避、トヨタはHEVで CO₂排出規制の罰金は重い

なぜ、自動車メーカーは「電気自動車」を売るのか? その理由は単純明快。「罰金回避」である

レクサス・ブランド初のBEV(バッテリー・エレクトリック・ビークル=日本でいう電気自動車)が発表された。プラットフォームはトヨタbZ4X/スバル・ソルテラと同じe-TNGAを使いコストを抑えている。レクサスはいずれ「電動車ブランド」になる。なぜ、トヨタはそういう選択をしたのか。トヨタだけではない。メルセデス・ベンツもBMWも、BEVを増やしている。その理由は、極論すればたったひとつつしかない。「罰金の回避」である。
TEXT:牧野茂雄(MAKINO Shigeo)

BEVは「CO₂ゼロ」換算のマジック

レクサス初のBEV、RZ

EU(欧州連合)27ヵ国と英国/ノルウェー/アイスランドでは、乗用車とLCV(小型商用車)1台当たりのCO₂(二酸化炭素)排出量を走行1km当たり95g以下に規制している。この95gをベースに、OEM(オリジナル・エクィップメント・マニュファクチャラー=自動車メーカーのこと)ごとに販売モデルの構成などからCO₂目標値が与えられる。これをクリアしなければ罰金を支払わなければならない。

ただしBEVは無条件でCO₂排出ゼロになる。どんなに大きくても、電費(走行1km当たりの電力消費)がどんなに悪くても関係ない。すべてのBEVについて「CO₂ゼロ」という計算だ。だから、BEVを1台売ればICE(内燃エンジン)車数台分のCO₂超過をリカバーできる。

アメリカでは、カリフォルニア州、ニューヨーク州、マサチューセッツ州など13州で一定台数以上の年間販売台数のあるOEMは、排ガスを出さないZEV(ゼロ・エミッション・ビークル)を一定割合販売しなければならない義務がある(カリフォルニアGHG=グリーン・ハウス・ガス排出規制を準拠しているのは16州)。未達成の場合の罰金はクレジット制だ。

また、カリフォルニア規制を採用していない州に適用される連邦平均燃費規制(CAFE=コーポレート・アベレージ・フューエル・エフィシェンシー)もある。これは政府が定める燃費目標に対し0.1mpg(マイル・パー・ガロン)満たないごとに5.5ドルの罰金が全販売台数に対して課せられる。

オバマ政権下では2019年製造車から0.1mpg=14ドルへの罰金値上げが決まったが、トランプ政権がこれを撤回した。現バイデン政権下で再び、2019年製造車に遡って0.1mpg=14ドルを徴収する案が発表されたが、これが適用されるかどうかは5月末に決まる。

EUは1g未達成で1台あたり約1万3000円の罰金

アメリカのCAFE罰金は厳しいが、日系メーカーはクリアしている。いっぽう前述の欧州CO₂規制はアメリカ以上に厳しい。EU委員会が各OEMに与えた目標に対し、1g未達成ごとに95ユーロの罰金が課せられ、しかもそのOEMの年間販売を掛けた金額が罰金総額になるのだ。

たとえば年間112万台を売ったOEMが1台平均102.4gのCO₂排出実績で、目標値が101gだった場合は、102.4−101=1.4だから95ユーロ×1.4=133ユーロが1台当たりの罰金になる。1台当たり1.4gの目標オーバーで133ユーロだ。「大したことはない」と思ってはいけない。これに112万台を掛けると1億4896万ユーロになる。1ユーロ=138.7円で計算して約207億円の罰金だ。

ただし救済措置がある。CO₂規制をクリアしてもなおCO₂クレジットが余っているOEM、たとえばテスラのようにBEVしか生産していないOEMは、CO₂排出基準をオーバーしてしまったOEMにクレジットを販売することができる。クレジット販売価格は「当事者同士で決める」ことになっている。

アメリカのカリフォルニア規制でも、このクレジット売買による罰金回避策が手段として残されている。ZEV規制未達成の場合にはCARB(カリフォルニア州大気保全局)に1クレジット(車両1台ではない)ごとの罰金を収めることになっているが、EU同様にOEM間でのクレジット取引が可能だ。

メルセデス、BMW、VWが罰金を回避できた理由

昨年(2021年)については、「EUでの罰金支払い間違いなし」と言われていたメルセデス・ベンツ乗用車グループが罰金を回避した。目標値125gに対し実績値は115gだった。BEVシリーズ「EQ」の販売が好調だったことが効き、ゼロCO₂の効果で相当数のICE車を救った。同時にS/E/Cクラスで導入したICEと変速機の間に電気モーターをはさむP2方式HEV(ハイブリッド・エレクトリック・ビークル)の存在も無視できない。

BMWのBEVブランドは「I」だ。写真はiXとi4

BMWグループも罰金を回避した。目標値125.8gに対し実績値115.9gだった。BMWは「EUでの販売台数の4分の1がBEVまたはPHEV(プラグイン・ハイブリッド・ビークル)だった」とコメントした。EUではPHEVもCO₂排出値では優遇されている。

VW(フォルクスワーゲン)ブループは目標値120.8gに対し実績値118.5gであり、メルセデスベンツとBMWに比べギリギリのセーフだったものの、罰金は回避した。グループ内にはポルシェやアウディがいるが、経過措置のためランボルギーニとベントレーの分がノーカウントになっていることにも救われた。

CO₂排出平均が100g/km以下で済んでいるのはトヨタ、旧PSA(現在はステランティスの一部)、ルノー・日産・三菱の3グループである。PSAは小型軽量のモデルが中心でありDセグメント以上のモデルはわずかしかない。小排気量の低排出車が全体のCO₂を押し下げているほか、小型のBEVがそこそこ売れた。

ルノーは小型で安価なBEV「ゾエ(Zoe)」が売れており、このぶんのCO₂ゼロが全体を救った。ルノーはHEVも新規開発したが、「ゾエ」が好調のためHEVはまだ量産していない。ルノーのパートナーである日産では「リーフ」売れた。三菱はPHEVが売れた。この3社の組み合わせにより、グループとしてのCO₂罰金を回避できた。

トヨタはBEVなしでも罰金ゼロ

注目はトヨタ・グループだ。レクサスを抱え重量級SUVモデルも多い。しかも、欧州でのラインアップにBEVはまだない。なのにCO₂排出を1台平均100g以下に抑えた。その理由は、EUでの販売台数の半数以上がHEVだったことだ。どんなに無様な電費でも「CO₂=ゼロ」になる飛び道具としてのBEVを持っていなくても、地道にHEVを改良し続け、欧州でもHEV支持層を増やした。この点が「アンダー100gクラブ」としてのトヨタを支えている。

一時期、1990年代末期から2000年代前半にかけて、欧州でもHEV開発熱が盛り上がった。しかし、HEVにはいかずクリーンディーゼルとダウンサイジングターボ(ICE排気量を小さくしてターボで空気を大量に取り込む)へと舵を切った。

その方向が、VWのディーゼル排ガス不正発覚を機に修正を余儀なくされた。ダイムラー(メルセデス・ベンツ)とBMWもVW同様に非難され、排ガス不正の制裁金を課せられた。そして、欧州全体がBEVへと一気に動いた。

EUでは当初、2021年に全OEMが支払うCO₂罰金は140億ユーロ(1ユーロ132円で計算して1兆8500億円)とも試算されていた。このうちいくらかはクレジット売買で回避できても、相当な額の罰金がEU政府に転がり込むだろうと見られていた。

しかし、ドイツの3グループは罰金を回避した。各OEMはBEV投入計画を前倒しで進め、半導体不足にもかかわらずBEV生産を優先した。そしてドイツ政府と自治体は手厚いBEV補助金を用意した。

罰金を払うくらいならBEVを開発したほうがいい…

ある市場調査会社の試算では、VWグループの2021年CO₂罰金は40億ユーロ(1ユーロ=132円で計算して5940億円)、メルセデス・ベンツ・グループは10億ユーロ(同1320億円)、BMWグループは7.5億ユーロ(同990億円)だった。しかし終わってみれば、予測した3グループ合計で8250億円の罰金が完全に回避された。

新型車の開発費と生産設備導入費用は、大雑把に1モデル1000億円だ。これにはプラットフォーム開発費用は含まれない。新規にプラットフォームを開発し、それを使って3モデルの新車を世に送り出せば、最低でも3500億円はかかる。ならば新規のBEVプラットフォーム開発に1000億円を投じても、全量が「CO₂=ゼロ」になるBEVを作るほうが得策と考えるのは、ごく自然なことだ。

VWのBEVブランド「ID.」のID.4の生産の模様

VWグループは「ID.」シリーズのBEVをすでに4モデル開発終了または開発中である。新規開発のBEV専用プラットフォーム「MEB」は、コストをかけずにBEVを作ることを念頭に置いている。LiB(リチウムイオン2次電池)は中国と韓国(一部は韓国・LGのポーランド工場製)の企業から調達した。まだ「ID.」シリーズの出荷台数は少ないが、関係者によれば「とにかく登録台数を確保することを優先した」という。その結果、罰金を回避できた。

ただし、VWの場合もBEVだけの「CO₂ゼロ効果」で罰金を回避できたわけではない。PHEVも売れた。さらに新型「ゴルフ」などに設定した48V電源使用のマイルドHEVが売れた。これは多くの台数が売れ、規制に対してはBEVのようなピンポイントではなく「面積」で効いた。ゼロ排出にはならなくても、1台ずつのCO₂排出量を確実に下げた。

しかし、すでにEU委員会は次の目標を設定している。昨年7月に発表した環境対策政策パッケージ「フィット・フォー・55(FF55)」だ。新車からのCO₂排出を2030年までに2021年比で55%減、2035年までに「完全BEV化」を義務とする方向でEU閣僚理事会と欧州議会に諮っている。

トヨタのBEV用プラットフォームはe-TNGA。bZ4Xもスバル・ソルテラもレクサスRZもこのプラットフォームを使う

じつに都合よく(と筆者は考える)ロシアによるウクライナ侵攻があり、ロシア産資源の不買と引き換えにEUでは原発回帰政策が始まった。原発をクリーンエネルギーに認定する動きが加速された。これはBEVにとっては極めて好都合だ。要は「CO₂さえ出なければいい」というのがEUの考え方であり、その方向にすべての産業の投資を集中させ、日本のICE、中国の低コスト、アメリカのIT産業に対抗する。原発歓迎ムードは「EU内でかなり盛り上がっている」と、旧知の在欧ジャーナシスト諸氏からは聞いている。

EUの政策が「BEV工場EU」である以上、自動車産業界はBEVを作るしかない。BEVを売れば「CO₂=ゼロ」。ならば、いまからICEに投資する必要はない。いくつものOEMが「脱ICE宣言」を行ない、EU政府に従う姿勢を見せた背景がここにある。投資効率である。

しかし、欧州企業、欧州の政府、欧州の政治家は、絶対に本音を語らない。筆者の取材に対しても、とても意味深な言葉を投げてくる。同時に、すでにLiBの材料調達は「極めて懸念される」と言い、その次の世代の動力用電池の開発ペースと期待している性能が「そう簡単には得られない」ことも知っている。政治家は楽観視しているが、企業は楽観視していない。

目下の心理戦の舞台は日本が支配する東南アジア市場

目下の心理作戦は、日本が支配する東南アジアの自動車市場をBEV化することへの世論誘導だ。欧州勢のプレゼンスが低いインドに対しても同様。この地域の自動車市場は、近い将来に年間1000万台規模になる。トルコから中東を通り、インドを経てシンガポール、ベトナムへと至る回廊に、欧州企業のBEVを売りたい。そのための下地づくりがすでに始まっている。

インドも東南アジア諸国も、まだ電力事情が安定しない。しかし、タイには中国勢、マレーシアには韓国・ヒョンデが「BEVのハブ」を作ろうとしている。市場開拓は中韓にまかせ、欧州勢はあとから雪崩れ込む。おそらくそういう腹づもりだろう。2040年代にも残るだろうと予測されている全世界4000万台のICE車市場を叩き潰してBEV市場に変える。だから全面的にBEVへ投資する。

見方を変えれば、EUのCO₂重視政策はBEVへの補助金、OEMへの資金援助と同じだ。BEVを作れば一律CO₂=ゼロ。「罰金を払うより、開発費に使うほうがいいでしょ?」である。これが「BEVばかり発売される、きょうこのごろ」の裏事情である。

著者プロフィール

牧野 茂雄 近影

牧野 茂雄

1958年東京生まれ。新聞記者、雑誌編集長を経てフリーに。技術解説から企業経営、行政まで幅広く自動車産…