その復讐は“勘違い”なのか…?

©LesFilmsPelleas

5月8日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほかにて全国公開中の『シンプル・アクシデント/偶然』。監督のジャファル・パナヒは、本作でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞したことにより、世界三大映画祭(カンヌ、ベルリン、ヴェネツィア)すべての最高賞を制覇するという史上4人目の快挙を達成。さぞかしエンタメ要素満載かと思いきや、なんと監督自身の「7ヶ月間におよぶ獄中体験」が映画のもとになっているというから、ますます興味を惹かれてしまいます。

物語は、かつて不当に投獄された過去を持つ男性ワヒドが、ある偶然の事故をきっかけに、自分の人生を奪った残忍な義足の看守と出会うところから始まります。ワヒドはとっさに男を拘束して荒野に連れて行き穴を掘って生き埋めにしようとするのですが、その男は必死に「人違いだ!」と主張してきて……。まるでブラックコメディのような展開に面食らってしまいますが、当然ながらその背景には過酷な歴史が横たわっています。

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主人公の一人であるワヒドが乗る車はバフマン・モーター(Bahman Motor)のInroadsという商用バンで、比較的新しい2022年モデル。このバンはほとんど物語のメイン舞台として機能し、登場人物たちと、彼らのやり取りを見つめる私たちの“不安の容れ物”のような存在になっていきます。その一方で、イラン国内に蔓延る“賄賂文化”をサラリと痛烈に風刺するなど、シリアスとユーモアを行ったり来たりしつつ、登場人物たちの癒えることのない「傷跡」が、じわじわと緊張感を高めていきます。

物語前半は町中でのドタバタがメインとなるため、様々な車が行き交います。欧米の映画と大きく異なるのは、その多くがイラン産の車という点。中でも、一瞬だけの登場ながら目を引くのがザミヤド(Zamyad)のZ24なのですが、その姿はかつて日産が製造していたピックアップトラック、ジュニアそのもの。70年代以降、国内での製造中止と入れ代わるようにイラン国内でライセンス生産・販売されていると聞けば納得の、ちょっと異質な存在感です。

その他にも、60年代にシトロエンのライセンス生産から始まったサーイパー社の乗用車なども多数映り込みますが、拉致される男が冒頭で乗っているプジョー・パース(2013年モデル)をはじめ、タクシーとしてもお馴染みの同じくプジョーの405や、すでに生産終了した206を独自にアップデートした207iなど、イランならではのプジョー車が続々とワヒドたちの目の前を通り過ぎていきます。なお、三菱のパジェロやホンダのCG125など日本車もチラリと登場するのでお見逃しなく。

『シンプル・アクシデント/偶然』公式サイト