ビルダーに「デュカト」デリバリー決定で、キャンピングカーはどうなる?
フィアットを輸入販売するインポーターのステランティス ジャパンは、日本のキャンピングビルダー5社とフィアット「デュカト」の販売契約を締結したことを発表した。2022年初頭に開催されたジャパンキャンピングカーショー2022に出展した際には、「あくまでも流通業などでの使用提案を前提とした出展だ」と広報スタッフは話していたが、同イベントに出した意味は、日本RV協会の主要な参加ビルダーとの契約にあったようだ。
デュカトは欧州では40年間も販売されているロングセラーモデルで、彼の地では小型商用車のカテゴリーに入っている。日本では巨大なサイズなわけだが、正規輸入されていなかったこともあって、一般的にはあまり馴染みのないモデルだった。だが、キャンピングカーユーザーにとってはそうではない。ドイツ・ハイマー社などが製造するキャンピングカーのベース車両になっており、キャブコンを超える高級キャンパーとして垂涎の的だったのである。
ステランティス ジャパンがデュカトを輸入するにあたり、流通業に販売することをメインに考えたのは当然だが、ハイマーも横目に見ていたに違いない。では、ステランティス ジャパンがデュカトを日本のビルダーに供給する意味とは何なのだろうか。
筆者も取材でハイマーに触れることがあるが、その車内は実にゴージャスだ。車内中央部にキッチンやシャワールーム、さらに後部にはレイアウトが変えられる巨大なベッドが備わっているのがスタンダードだ。運転席直後にはダイネットが備えられており、運転席・助手席を回転させることで、それは完成する。欧州のセンスでコーディネイトされたインテリアは、まるでお洒落なカフェにでもいるような気分にさせてくれる。
しかし一方で、使い勝手は必ずしも日本人向けとは言えない部分もある。やはり欧州人のサイズで考えられていることもあって、何でも大ぶりなのである。例えば、後部ベッドは非常に高く、平均的な日本の身長では登り降りに苦労する。また、ハイマーなどに装備されているシャワールーム&トイレは広くて豪華だが、各地に温泉や日帰り入浴施設がある日本では、そこまでシャワーの必要性を感じない。
この他にも、欧州市場と日本市場では実際に使用するシーンや国民性に乖離があり、すべての人に欧州製キャンパーがベストなわけでなかったのである。加えて、アフターサービスの面も大きい。これまで欧州製キャンパーはほとんどが並行輸入車であり、何かあった時の対応についてはスピーディに運ばないこともあった。特に、トラブルがあったパーツや部材の輸入には時間がかかり、販売店側も苦慮していた部分もある。
多くの日本のユーザーは「何かあったら販売店がすぐに対応してくれる」という心理が働くため、輸入キャンパーを売る側もリスクヘッジが難しかったに違いない。しかし今回、ステランティス ジャパンが正規輸入した車両を購入すれば良くなったために、アフターサービスという点で販売店が担保する範囲が大幅に減ったことになる。
つまり、もしキャンピングカーのどこかが壊れても、車両のパーツであればステランティス ジャパンがスピーディに対応してくれるであろうし、内装のトラブルであれば日本にいるビルダーがすぐに対処してくれるようになったのである。これは買う側にとっては、非常に大きなメリットだ。
さらに、輸入されるデュカトは右ハンドルで、ディーゼルエンジンを搭載。日本製のトランスミッションを使っているというから、従来よりもグッと身近な存在になったことは間違いない。
今回、契約を結んだビルダーは「ナッツ(福岡県)」「ホワイトハウス(愛知県)」「RVランド(茨城県)」「岡モータース(香川県)」「トイファクトリー(岐阜県)」の5社。いずれも日本を代表するキャンピングカービルダーだ。キャブコンやバンコンの知見を豊富に持っており、日本人にとって使いやすいキャンピングカーとは何かを熟知している。
日本のビルダーが、デュカトというクルマをベースに新たなキャンパーを創造したならば、日本人好みの秀作ができるのは間違いないだろう。おそらくハイマーを研究しつつ、日本人オリジナルの空間レイアウトを考えるに違いない。
5社は、2023年2月に開催されるジャパンキャンピングカーショー2023で、デュカトベースの新型車を発表する予定となっている。価格は1000万円オーバーになるかもしれないが、キャンピングカーユーザーは新たな選択肢を得ることになる。スタイリングの好みでキャブコンを選ばない人も、欧州車のデュカトなら手が出るかもしれない。