業界一丸でISO標準化を狙う「ワンタッチ車いす固定装置」が国際福祉機器展【H.C.R.2022】に初登場!福祉の車窓から

欲しい福祉装備を推してね!トヨタが「いいね!」の数で開発推進|国際福祉機器展の「リアル展」で福祉車両&装備をチェック

車いすワンタッチ固定装置を設置したハイエース
9月5日(月)から11月7日(月)までの会期中、10月5日(水)から7日(金)の3日間、東京ビッグサイトでリアル展が開催されている国際福祉機器展 H.C.R.2022。そのリアル展に展示されていた自動車関連の製品を紹介する。出展はトヨタ、日産、マツダの自動車メーカーによる福祉車両のほか、グイドシンプレックス ジャパンによる運転補助装置、豊通オールライフによる後付け福祉用品のレンタルなどがあった。トヨタの「トヨタ技術選挙」、日産キャラバンの車いす固定装置等、新しい試みも多く見られた出展内容だった。

今回イチバンの注目ブースはトヨタ。従来であれば登場したばかりの新型シエンタ、新型ノア・ヴォクシーのウェルキャブである車いす仕様車やノア・ヴォクシーのリフトアップチルトシート車などが展示されるところだが、今回はいままでと異なり市販品ではなく、開発途中の段階の製品の展示となった。

【トヨタ】Mobility for All すべての人に移動の自由を

展示テーマは「Mobility for All すべての人に移動の自由を」、出展車両はC+pod+(for All) Concept(シーポッド・プラス・フォーオール・コンセプト)、JUU(ジェイユーユー)、車いすワンタッチ固定装置の3種。ブースでは「トヨタ技術選挙」と銘打った投票が行われ、いいね!の投票数が1500件を超えた展示物は2023年にバージョンアップして展示、製品化するための開発が進むというもの。現場に来るユーザー、福祉関連の関係者などの声が直接開発に反映される形となる仕組みだ。

クルマ、電動車いす、車いすでの移動をシームレスで

選挙の対象となる製品、そのひとつめはC+pod+。これは、車いすでの移動、電動ユニットを取り付けた車いすでの移動、自動車による移動という三形態をシームレスに行うことができるモビリティの提案。すでに販売されている超小型BEV C+Podと、こちらも販売中のC+walk T(シーウォークティー)の販売前のC+walk T 車いす連結タイプを組み合わせて、これを可能にするというもの。

たとえば、自宅から出発する場合、上肢での運転に対応した超小型BEVであるC+Pod+で移動。出先ではリアゲート前に取り付けられたC+walk T 車いす連結タイプを車いすと連結させ、電動化した車いすで移動、用が済んで駐車場に戻ってきたら、C+walk T 車いす連結タイプをC+Pod+の後部に装着して、乗車して帰宅……というような流れが可能になる。

またC+Podが全幅1.3m未満、全長2.5m未満という小型サイズのため、車いす駐車枠ではなく一般的な駐車枠に停めてもドアを開けての運転席への移乗ができる可能性が高いため、出先での駐車場所も気にすることなく移動ができることもメリットだ。

まだ市販化前ということもあり、C+walk Tを車両に取り付けた際のナンバーの位置、取り付けたままリアゲートを開けたいというリクエストがあった場合にどう対応するかなどの検討材料もあるという。

「段差」を自らバリアフリー化する車いす

トヨタ技術選挙の対象、その2つめはJUU。シート後部に転倒防止のリアタイヤと、アメリカンドラッグマシンがスタート時にウイリーした際に車体を後ろ支えするウイリーバーのようなフリッパーアームを持つルックスの電動車いすだ。これらにより、玄関先の段差や職場の床の凹凸を乗り越えられる走破性と安全性を備えている。このバーを遠く伸ばすことで、階段すら登っていくポテンシャルを持つ。バリアフリーが進む世の中ではあるが、その想定ルートの中にひとつでもバリアがあれば、その前後のバリアフリー化があっても目的地に(迂回せずには)リーチできないという現実に対して、車いす側ができるバリアフリー化を進めたコンセプト・モビリティといえる。インフラ整備のコストに耐えられない自治体などで行動する場合にあり得る障害に対して自己解決型の車いすは頼りなる可能性もある。

車いすワンタッチ固定装置がリニューアル! ISO標準化を目指す

ISO規格化を目指すめざす車いすワンタッチ固定装置を装着したハイエース

3つめは、車いすワンタッチ固定装置。ハイエース車いす仕様車に装着されての展示だ。これは車いす側に固定用のバーが装着されていれば、ワンタッチで車いすを固定できるシステム。通常の車いす仕様車の場合、固定には前後4箇所にフックをかけベルトを引き込むという作業が必要だが、この装置の場合、フックにバーを押し込めばロックが完了するという利便性の高いものとなっている。

前身となる装置の付いた仕様が、先代のノア・ヴォクシー・エスクァイアに車いす仕様車タイプ3として2017年9月に登場しており、今回の製品はその進化系となる。

最新型が前身のモデルと大きく異なるのは、業界一丸となって標準化への一歩を踏み出したこと。狙うのはISO(国際標準化機構)の規格化。今年4月に国内の自動車メーカーや車いすメーカーなど12社が協力し、車椅子簡易固定標準化コンソーシアムを設立。車いすワンタッチ固定装置の普及に取り組みだした。今回展示される製品はその具体的なプロダクトとして初お目見えとなるものとなったが、製品仕様が目に見えるものとなったことで、さらに製品化が推進されると期待される。なお本規格では車体側の固定装置のほか、車いす側のバーの固定位置や取り付け強度なども規格化されるため、従来の車いすの丁度いい位置にバーを付ければ利用できるようになるというようなものではないようだ。

展示車両となったハイエースの車いす仕様車では、車内の固定箇所とリフトの固定箇所の2箇所に同装置が取り付けられており、いずれもワンタッチで固定、そしてボタン操作で固定解除ができる様子がプレゼンテーションされていた。この装置が普及すれば、多人数の車いす乗降への補助のある介護施設などでの乗降介助の作業負担軽減はもちろん、在宅介護のユーザーでも複雑な車いす固定方法を覚える必要がなくなり、固定時の操作ミスなどが減ることも考えられ、安全性の向上に役立つといえるだろう。

このほかバスでの固定も簡便になり、ドライバーの負担や運行時間への影響も軽減される可能性がある。またISO規格化のあかつきには、鉄道、航空、フェリーなどの輸送機関での導入も期待でき、メリットは計り知れない。場合によっては、アミューズメント施設で車いすのまま乗車ができるファンライド系の乗り物が登場することも考えられる。

今回の公開はトヨタブースという場であったものの、コンソーシアムの動きを反映したものと捉えてもよいのかもしれない。展示製品は、従来のフック固定の装置も使えるハイブリッド仕様となっており、現実味のあるものであったことも特徴的だった。今後の動向にも期待したい。

この先には、ワンタッチロックで固定した車いすのまま運転席に乗り込む未来も……あるかもしれない。

【日産】リフターに新型固定装置採用で現場の利便性アップが確実!

日産ブースでは、キャラバン チェアキャブリフタータイプ、セレナ チェアキャブ スロープタイプ、ルークス 助手席スライドアップシートの3台のライフケアビークルが展示された。

注目は、今年2月にマイナーチェンジが施された新型キャラバンをベースとしたチェアキャブリフタータイプ、そのリフトに装備された車いす固定装置部分。車いすをリフトに固定する際のフックが新デザインとなり、汎用性が増す設計となったこと。

新型キャラバンをベースとしたチェアキャブリフタータイプ、そのリフトに装備された車いす固定装置

リフトタイプの車いすは、車外に降ろしたリフターへ車いすを固定し、リフターごと上昇し車内へ前進して乗車が完了する。

リフターへの車いすの固定は、リフターのフロア前後から伸びたベルトの先にフックに取り付けたものが左右2組あり、その各々を車いすのセンター付近の指定されたフレームに掛けるのが一般的。このベルトを引き込むことで車いすをフロアに固定している。しかし特殊なフレーム形状の車いすの場合など、センターから前後に引けない場合、このフックのほか、別途タイダウンベルトを使ってフレーム後方などを固縛する必要があった。この作業の負担軽減のため、日産では従来のフックをワンタッチで前後2分割できる仕組みを考案し、新型キャラバンから採用した。

この固定装置は従来どおりの固定方法と、特殊なフレーム形状への対応を1つのフックで行え、ワンタッチでいずれの仕様にも変更できるところに、大きなメリットがある。なおタイダウン用の固定箇所も残されている。キャラバンに標準、セレナのリフタータイプにはオーテックジャパン扱いのオプション(仕様が異なる)となる。

また日産では福祉車両のオンライン相談会を定期開催しており、次回は今年12月、来年2月頃を予定しているという。詳細は開催1ヶ月前に公開。詳しくは同社のサイトにて。

【マツダ】MX-30 SeDVに参考出品装備を装着! 展示ブースでの自社開発の運転装置体験がよりイージーに!

Self-empowerment Driving VehicleのロードスターとMX-30

昨年のリアル展でメーカー系唯一の出展だったマツダ。出展車両は昨年と変わらず、MX-30 Self-empowerment Driving Vehicle(セルフ エンパワーメント ドライビング ビークル 略してSeDV)と、ロードスター Self-empowerment Driving Vehicleの2台となった。SeDVのコンセプトは、「手動運転とペダルによる運転を選択できる、自由な移動をサポートする新たな選択肢」。2台のSeDVのうちMX-30 SeDVは前回会期後の昨年12月から受注が開始されており、ロードスターに関しては架装としてRFも含めたAT全車に装備が可能となっている。

つまり今回のいずれの展示車両も、現時点で購入が可能な車体ということになる。

本年の車両の違いはホワイトを基調としたカラーリング。そしてMX-30 SeDVの展示車には、ルーフボックスに車いすを収納できるボックスを装着。これはミクニ ライフ&オートのオートボックスをMX-30 SeDVに専用にチューニングした参考出品装備で、リアゲートと干渉を避ける前後長や、ボディカラーに合わせたカラーリングを施したものとなっている。同装備により、車いすリフトがいる場合でも車内設置する必要がなくなる。

また、前回の出展時も展示されていたSelf-empowerment Driving Vehicle ドライビング・シミュレーターに関しては、バック時の画面表示もシミュレーション項目に新たに加わり、上半身を大きく動かさない状態で後方を確認する状況も体験できる仕様となった。

さらに、今回はステアリングホイール周りなどの操作系だけを車いすの高さに合わせたスタンドに装着したモデルも展示。車両やシミュレーターへの移乗しての体験は手間がかかるるというユーザーでも、ステアリングを両手で握ってアクセルリングなどを操作し、ブレーキレバーを押すという操作方法を疑似体験ができるようになったので、従来型のアクセル・ブレーキレバーを常に持って片手でステアリングを握るドライビングポジションとの違いを簡便に体感できることとなった。ブースを多く回りたいユーザーには朗報ともいえそうだ。

【グイドシンプレックス ジャパン】もはや定番60年以上の歴史をもつイタリアのメーカー

グイドシンプレックス ジャパンのブースでは、定番となったステアリングコントロールシステムなどが実車とともに展示されていた。アクセルリングもプッシュタイプ、プルタイプなどが用意され、ユーザーに合わせ、使い勝手の良い仕様が選べるのがポイントだ。アクセル、ステアリングなど電子化により、補助装置と車体間の通信を車両ごとに構築する必要があるケースが増えてきており、場合によっては2-3ヶ月ほどかかることもあるとのこと。装着を検討される場合は自車が該当するのか確認の意味でも、早めに相談しておくことも重要かもしれない。

【豊通】ウェルキャブの装備をレンタルで自車に後付け装着できる「いつでもウェルキャブ」サービス開始!

トヨタのウェルキャブの装備を自車に後付けできるサービスが豊通により開始された。アイテムはターンチルトシート、車いす収納装置の2タイプで、レンタルと購入の2種類が選べるようになっている。

対象車種はターンチルトシートが先代シエンタ、アクア、ヤリス、プリウス(PHV)、車いす収納装置が新型シエンタ、先代シエンタ、アクア、ヤリス、プリウス、ルーミー/タンクとなる。

ターンチルトシートは助手席タイプ。使わない自車のシートは自宅などでユーザーが管理する必要がある。車いす収納装置は車体から簡単に外せる設計で、ラゲッジルームを使用する際には取り外しが可能だ。

レンタルの場合、料金はいずれも月額3000円〜で、最短のレンタル期間は6ヶ月。解約は7ヶ月から可能となっている。また希望すれば期間後の買い取りも可能だ。家族の通院介助などの介護で、ウェルキャブなどの福祉車両の装備が短期的に必要になるという可能性もある。その期間のために乗り換えや車両の買い足しをするというのは負担も大きい。必要な間だけ装備を取り付けるという選択肢が増えることは朗報といえるだろう。

また、同装備を装着した新車の購入を考えているユーザーも、納車のタイミングが読めない現状で、先に介護生活に突入してしまったというケースなどで、乗り換え前のクルマに装着できれば中継ぎとして重宝するかもしれない。

以上が、今回の福祉車両関係の主な出展ブースをまわってのレポートなる。新型コロナ禍もあり、久々に複数メーカーの福祉車両が並ぶ国際福祉機器展となったが、やはり同じ会場内で同時に各メーカーの車両や装置に触れられるというのは比較もしやすく、ありがたいということだと感じた現場だった。

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著者プロフィール

古川 教夫 近影

古川 教夫

クルマとバリアフリー研究家。基本は自動車雑誌編集&ライター&DTP/WEBレイアウター。かつてはいわ…