48Vハイブリッドシステム、なぜ48Vなのか[内燃機関超基礎講座]

欧州の95g/CO2規制がいよいよ適用されるとあり、マイクロハイブリッド:48Vシステムの普及が進む。ところでなぜ「48V」なのだろうか。
TEXT:髙橋一平(TAKAHASHI Ippey)

48Vを理解するうえでもっとも重要なのが、弱電に分類されるため扱いやすいということだ。じつは、高電圧を用いるフルハイブリッド(本稿では差別化のためにあえてこう呼ぶ)では、数百ボルトという電圧を扱うために、安全確保のための構造と技術が無数といえるほどに盛り込まれている。もちろんそのおかげで、我々ユーザーがなにも意識する必要がないわけで、逆にいえば普通に走らせているだけであれば絶対といえるほどに安全。これこそが、EV/フルハイブリッドを支える日本発の技術であり、高電圧を扱う自動車におけるキーテクノロジーともいえる部分なのだが、当然ながらそこにはコストが掛かる。

60Vを超える直流は強電に分類されるため、厳重な被覆処理の施された強電対応のハーネスが必要。マイナス側にも他の電圧系と完全に隔離された専用線が必要。コストアップ要因のひとつだ。

わかりやすいところでいうとハーネスだ。これがいわゆるプラス側だけでなく、マイナス側にも専用で用意することが求められる。12Vのようなボディアースなど、もってのほかであり、ほかの電圧系統とは完全に隔離することが必要。決して安いものとはいえない、高電圧、大電流に対応する電線が2本必須なのである。さらにいえば、短絡(ショート)を検出するセンサーや、その検出を受けてバッテリーからの放電ルートを遮断するコントローラーやそのリレー、バッテリーの蓋が開いた際などに外部との回路を断つインターロックなど、法令とそれに基づく規定に沿った仕様を満さないとならない。

これに対し、48Vは12Vとほぼ同様の扱いが可能で、同じ回路基板上でグラウンド(マイナス側の線)を共用とした状態で実装することすらできる。道路に例えるなら、高電圧は専用道路の建設が必須となる高速道路で、48V化は一般道の速度制限標識を掛け替えるだけと思って良い。電装系で標識にあたるのは回路を構成する部品だ。コストが掛かるとすれば、これまで扱ってこなかった48V仕様という規格の部品を調達する部分くらいなのだ(もちろん、その程度であってもコストアップ要因を意識せざるを得ないほど、自動車はシビアなのだが……)。

60Vを超えるとShock Protect:保護措置が必要。加えてFunctional Restrictions:機能制限に縛られない電圧帯となると上限52Vとなる。

こうして得られる大電力をハイブリッド用途に使わない手はないというわけだが、12Vと比べれば4倍の電力も、フルハイブリッドの数百ボルトという高電圧と比較すると、場合によっては1/10以下となることも忘れてはならない。じつは同じ体格のモーターであれば、高電圧であろうと48Vであろうと、流すことのできる電流量は変わらないため、電圧が低い分だけ投入できる電力量は小さくなる。電力は電圧と電流の積(電力=電圧×電流)という基本的な法則から逃れることはできないためだ。

三菱電機の48Vハイブリッドシステム。エンジン後端にステーター(コイル)を固定、クランクシャフトの出力側にローターを直結するP1配置とした48Vハイブリッドシステム(左)。メルセデス・ベンツS450用に 三菱電機が開発したもので、最高出力16kW、最大トルク250Nmというスペックを持つ。右はベルトスタータージェネレーター。オルタネーターの位置に装着する。

そして、自動車に搭載できるモーターの体格には限界があるため、ベルト式スタータージェネレーターのタイプで8~10kW程度、フルハイブリッドやEVと同様の形態のものでも15kW程度が上限というのが、48Vの自動車駆動用モーターの標準的なレベルとなっている。これが「48Vはマイルドハイブリッド用途」と言われてきた所以である。

しかし、現実に目を向けてみると少々違う状況が見えてくる。搭載されるバッテリーの容量次第という部分はあるが、WLTCモードであればその大半をこの出力でカバーすることも可能だというのだ。つまり、環境対応に有効に生かせるだけの性能も充分期待できるということである。

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