日産GT-RのV6ターボ 高G高負荷に耐えられる補機設計[内燃機関超基礎講座]

VR38DETTは日産GT-Rのために専用開発されたエンジン。想定する走行性能を実現するためには、NAなら6ℓV10が必要になるが、それではパッケージが破綻。3.8ℓV6ツインターボに落ち着いた。横浜工場の一角に設けられた専用スペースで、熟練作業者が「手組み」している。
日産GT-RのVR38DETTは、3.8ℓV6DOHCターボは、専用工場でひとりの「匠」が1基のエンジンを手作業で組み立てるというスペシャルなエンジンだ。今回は、そのGT-Rのエンジン、VR38DETT型の「補機」に注目してみる。
TEXT:世良耕太(SERA Kota)
すべての補機類を取り外した状態。オイルパン、ロッカーカバーはマグネシウムを使用。アルミ合金に比べ、それぞれ2.5kg(-30%)、0.5kg(-31%)の軽量化を実現。燃料ポンプは電気負荷を減らすため、2個を流量に合わせて使い分ける。

世界各地のスポーツカーが性能を磨く鍛錬の場として訪れるニュルブルクリンク北コースを連続周回しても、音を上げないよう設計されたエンジンである。最高速度が300km/hに達するだけでなく、高回転・高負荷の状況で、強烈な前後左右方向のGにさらされる。吸気も排気も冷却も潤滑も、音を上げることは許されない。
特集の分類に則ってGT-Rのエンジンを観察すると、吸排気系は左右で完全に独立した設計(クロスフロータイプ)。インタークーラーは当初、横長の一体タイプを用い、上下で左右の吸気を分割する設計を検討したが、レスポンスを重視するため、左右独立式に改めた。空冷式オイルクーラーはサーモスタット付きで、オイルを適正温度まで素早く温める。
V型6気筒エンジンのヘッド上に横たわるインテークマニフォールドはクロスし、右側に見えるパイプの空気が左側のシリンダーに送り込まれる。サーキット走行や超高速巡航に対応するため、カルソニックカンセイ製ラジエーターの冷却水圧力は従来の乗用車のレベルを大きく超えて、2kg/㎠になるという。強度を確保するために板厚を増すなどして対処。一方、通気率を優先するため、ACコンデンサーのフィンピッチは粗くしている。通常1.4~1.6mmのところ、GT-Rは2.2mm。ピッチを粗くし、その後方にあるラジエーターの冷却を助けるためだ。

旋回中に強烈な横Gが掛かってオイルが偏ると、オイルパンにオイルが落ちてこないばかりか、逆流することもある(左)。オイルリターン通路を反対側バンクに設けて、逆流の問題を解決した。
前ふくらまし型のマグネシウム製オイルパンの中央部分を、フロントドライブシャフトが貫通する。ドライサンプはポンプ類の重量がかさむなどの理由で見送った。
ターボチャージャーは、強制的にオイルを回収し、潤滑させる仕組み。加速度1.6Gの横方向の重力を7秒与えても、不具合を出さないことが基準。VGターボ時代(フェアレディZ)に味わった苦い経験からのフィードバック。
サーキット走行など、強い横Gがかかった際にも安定した油圧を確保するための策が施されている。シリンダーから降りてきたオイルはバンクごとに独立した通路を通って、前側にあるオイルパンに導かれる。
タービンシャフトからのリターンオイルを専用スカベンジポンプで安定的に回収し、安定的に送り出す。スカベンジポンプとオイルポンプを同軸一体としたシンプルな構造とした。GT-Rならではの工夫である。

排気系の見どころはターボチャージャー一体のエキゾーストマニフォールド。エキゾーストポートからタービンコンプレッサーまでの容積を減らし、レスポンス向上を狙った措置。開発・製造はIHIが担当。電子制御による過給圧コントロールは日産が受け持った。ステンレス鋳鋼の薄肉設計としたことで、エンジン始動時の触媒活性化に貢献。エキマニ/ターボ別体型との比較では、始動15秒後の温度で40℃の向上効果が現れたという。
その触媒は、GT-Rがトランスアクスルのレイアウトを持つこともあってエキゾーストマニフォールド直下に置くことができている。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…