「このくらいの(規模の)モーターであれば、10分もあればモデル化できます」
SMTの本拠地であるイギリスとオンラインで繋がったPCの画面を前に、SMTジャパンの冨成氏はこう説明した。画面に表示されているのは、同社のツールであるMASTA、その最新版となるバージョン12。そして画面の向こう側で操作しているのは、イギリス本社で最新バージョンについての研修を受けているケビン・チャン氏(SMTジャパン)である。
我々が見守るなか、モデル化のプロセスにあったのはステーターの外径が225mm、軸方向の寸法130mmのモーター。EV用途のトラクションモーター(駆動用モーター)を想定したサイズである。冒頭の“モデル化”とは、モーターの動的な挙動を解析するための解析用モデルを生成する作業(ソフトウェア上の処理)のこと。ベースとなるのはCADデータなのだが、まずこのCADデータが出来上がるまでが驚くほどに速い。
すでにご存知の方も多いとは思うが、MASTAはもともとギヤの設計と解析に特化したツールである。処理の速さや解析精度の高さなど、さまざまな特徴を持つ同ツールにおいて、象徴的ともいえるがCADデータを作成する際の操作性。ギヤとシャフトという回転体にフォーカスした機能が巧みに盛り込まれており、シンプルな操作で(CAD)データを素早く作成することができる。インターフェースはドラッグ&ドロップのPCライクな使いやすいもので“、分単位”という時間感覚でCADデータ制作が可能だ。
今回はモデル化のプロセスに先立ち、CADデータを作成する様子から披露していただいたのだが、ローターやステーターの形状構成をテンプレートから選択して配置していくチャン氏の作業を見ていると、我々でもできそうな気分になってくる。そして、みるみるうちにCADデータが完成、実際に要した時間は5分ほどであった。モーターもギヤと同様に軸対称の回転体を基とするということで、CADデータ作成の際の操作もギヤのそれとの共通性、連続性を感じさせるものとなっている。対象がモーターになっても操作性の高さ、そして速さは健在だ。
モデル化のプロセスが完了すると、画面にその解析結果が表示された。モーターのトルク特性を示すT-N曲線にカラフルな等高線を重ねた効率マップや、ステーターとローターの間の磁束の振る舞いを矢印群で表現したものなど、モーターの性能、特性が一目瞭然である。
これまでのMASTAではギヤにかかる物理的な力を解くことで、ギヤやシャフトの変形や、それにともなう伝達の効率、振動などの振る舞いを解析してきたのだが、最新バージョンの12ではここに電磁界解析の機能が新たに加わっている。モーターのCADデータが作成できるようになり、力学的な解析ができるだけでなく、それを電磁気という要素と連成させた解析が可能になったのである。当然ながらモデルにはこの電磁界解析を前提としたメッシュも含まれる。
このことは今回のアップデートの目玉であることはもちろんだが、MASTAにとっても転機ともいえる大きな変化だ。というのも、これまでのMASTAではギヤという“伝達系”のみを扱っていたわけだが、モーターという“動力源”を迎えたことで、電動パワートレーンを統合的に捉えることができるようになるのである。しかも、電磁界解析は他のシステムとの連携というレベルではなく(従来バージョンにも電磁界解析のインポート機能はあった)、SMTがノッティンガム大学との協力のもとに作りあげた独自開発であり、そのアルゴリズムにも解析精度を確保しながら処理負荷を最小限に抑えるという、MASTA伝統のコンセプトが貫かれているとのこと。モーターからギヤまでを同一のシステムで扱えるということで、開発効率の向上など、さまざまなメリットが期待できるはずだ。