SMT・MASTA12のインパクト:モーター向けの電磁界解析機能を新たに追加

SMT・MASTA12:ギヤ要素を素早く設計できるという、回転体に特化した独自のCAD機能はMASTAを象徴する要素のひとつ。今回のアップデートでは、この機能をさらに発展させることで、モーターの設計も可能になった。回転にともなう振動などの力学的な動解析が可能なことはもちろんだが、注目すべきは新たに組み込まれた電磁界解析のソルバ。これによりコイルに流れる電流にともなう磁束と、ローターで発生するトルクとリップル(揺らぎ)、鉄損や銅損などといったモーターで起きる現象をその根源から解析、ギヤ要素の解析にもシームレスにつなげていくことが可能となった。
複数のギヤを組み合わせた減速機やトランスミッションのモデリングから動解析まで、素早く正確にこなすことが可能なMASTA。その最新バージョンではモーターの性能や効率を電磁界解析で解くという機能が加わった。定評のある高い操作性はもちろんそのままである。
TEXT:髙橋一平(Ippey TAKAHASHI) FIGURE:SMT

「このくらいの(規模の)モーターであれば、10分もあればモデル化できます」

SMTの本拠地であるイギリスとオンラインで繋がったPCの画面を前に、SMTジャパンの冨成氏はこう説明した。画面に表示されているのは、同社のツールであるMASTA、その最新版となるバージョン12。そして画面の向こう側で操作しているのは、イギリス本社で最新バージョンについての研修を受けているケビン・チャン氏(SMTジャパン)である。

我々が見守るなか、モデル化のプロセスにあったのはステーターの外径が225mm、軸方向の寸法130mmのモーター。EV用途のトラクションモーター(駆動用モーター)を想定したサイズである。冒頭の“モデル化”とは、モーターの動的な挙動を解析するための解析用モデルを生成する作業(ソフトウェア上の処理)のこと。ベースとなるのはCADデータなのだが、まずこのCADデータが出来上がるまでが驚くほどに速い。

電磁界解析の礎となるマクスウェルの方程式(偏微分方程式)を離散的に解くために、メッシュの集合体として表現されたモーターの断面(1/6)。CADデータを基に自動生成されるもので、その生成条件については任意設定も可能だ。

すでにご存知の方も多いとは思うが、MASTAはもともとギヤの設計と解析に特化したツールである。処理の速さや解析精度の高さなど、さまざまな特徴を持つ同ツールにおいて、象徴的ともいえるがCADデータを作成する際の操作性。ギヤとシャフトという回転体にフォーカスした機能が巧みに盛り込まれており、シンプルな操作で(CAD)データを素早く作成することができる。インターフェースはドラッグ&ドロップのPCライクな使いやすいもので“、分単位”という時間感覚でCADデータ制作が可能だ。

電磁界解析で磁束の挙動とコア損失を可視化する:
飽和といった現象も伴いながら複雑に振る舞う磁束の挙動は、ヒステリシス損や渦電流損といったコア損失(鉄損)などと密接な関わりをもつだけに、高効率化が求められる現在のモーター設計において重要なカギといえる要素のひとつだが、実現象として視覚的に捉えることは基本的に不可能。これを数値計算で解くのが電磁界解析であり、MASTAのそれは設計から解析までが極めて速い。同ツールがもっとも得意とするギヤの音振、伝達効率の解析とシームレスに連携できる点も大きな魅力だ。
ローター表面にはたらく磁力の分布をみる:
ローター、ステーター部分の色分けは磁束密度の分布を、等高線のような線は磁路を表す。エアギャップ付近に並ぶ矢印群は、ステーター表面からローター表面へと働く磁力(磁気吸引力)の大きさと方向。モーターの音振に大きく影響する要素だ。

今回はモデル化のプロセスに先立ち、CADデータを作成する様子から披露していただいたのだが、ローターやステーターの形状構成をテンプレートから選択して配置していくチャン氏の作業を見ていると、我々でもできそうな気分になってくる。そして、みるみるうちにCADデータが完成、実際に要した時間は5分ほどであった。モーターもギヤと同様に軸対称の回転体を基とするということで、CADデータ作成の際の操作もギヤのそれとの共通性、連続性を感じさせるものとなっている。対象がモーターになっても操作性の高さ、そして速さは健在だ。

高速回転するボールベアリングの滑り挙動も可視化:
MASTA12ではモータの高速回転化のカギとなるボールベアリングの解析機能も強化された。これまでの解析ではボールは2つの自由度しかもたなかったが、6自由度の準静的な解析が可能となり、ボール接触部の滑り速度をより正確に解くことができる。これによって軌道の表面損傷やフリクションロスの予測など高速化の課題解決に有効な指標を与える。

モデル化のプロセスが完了すると、画面にその解析結果が表示された。モーターのトルク特性を示すT-N曲線にカラフルな等高線を重ねた効率マップや、ステーターとローターの間の磁束の振る舞いを矢印群で表現したものなど、モーターの性能、特性が一目瞭然である。

解析により生成された効率マップ:
運転領域における効率と損失の分布をT-N(トルク-回転数)グラフ上に色分けで示したもの。左上が電力効率、右上は銅損、そして下のふたつはステーター(左)とロータ側(右)それぞれの鉄損の分布となっている。MASTAならこうした解析結果が素早く得られるため、さまざまなアイディアを試してみることが可能だ。

これまでのMASTAではギヤにかかる物理的な力を解くことで、ギヤやシャフトの変形や、それにともなう伝達の効率、振動などの振る舞いを解析してきたのだが、最新バージョンの12ではここに電磁界解析の機能が新たに加わっている。モーターのCADデータが作成できるようになり、力学的な解析ができるだけでなく、それを電磁気という要素と連成させた解析が可能になったのである。当然ながらモデルにはこの電磁界解析を前提としたメッシュも含まれる。

モーターからギヤまでeアクスルの解析を一元化:
電磁界解析機能の追加は、音振、伝達効率といったギヤトレーン解析においてスタート地点ともいえる“動力源”から解析が可能になったことを意味。モーターのトルクリップル、そしてローターの振動、それらを支えるケースの変形、振動伝達の解析までもが、ひとつのシステムで完結する。MASTAの新フェーズの始まりである。

このことは今回のアップデートの目玉であることはもちろんだが、MASTAにとっても転機ともいえる大きな変化だ。というのも、これまでのMASTAではギヤという“伝達系”のみを扱っていたわけだが、モーターという“動力源”を迎えたことで、電動パワートレーンを統合的に捉えることができるようになるのである。しかも、電磁界解析は他のシステムとの連携というレベルではなく(従来バージョンにも電磁界解析のインポート機能はあった)、SMTがノッティンガム大学との協力のもとに作りあげた独自開発であり、そのアルゴリズムにも解析精度を確保しながら処理負荷を最小限に抑えるという、MASTA伝統のコンセプトが貫かれているとのこと。モーターからギヤまでを同一のシステムで扱えるということで、開発効率の向上など、さまざまなメリットが期待できるはずだ。

冨成敬史氏
SMART MANUFACTURING TECHNOLOGY JAPAN
テクニカルスペシャリスト
ケビン・チャン氏
SMART MANUFACTURING TECHNOLOGY JAPAN
シニアエンジニア

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Motor Fan illustrated編集部