簡単設定でギヤセットの最適諸元を自動探索する機能を大幅に改良[SMT MASTA]

軽量コンパクトなギヤボックス設計への最短距離——–簡単設定でギヤセットの最適諸元を自動探索する機能を大幅に改良[SMT MASTA]

ギヤやシャフトなどといった回転体にフォーカスするかたちで機能と操作性を最適化したモデリング機能により、驚くほど素早く、また簡単にモデルを作成することができ、またそれを伝達効率、応力にともなう挙動(ギヤやシャフトの変形による歯当たりの状態や振動など)といった面から解析することができるという機能がMASTAのコア。バージョン12 からはモーター向けの電磁界解析機能を追加。最新バージョンとなるMASTA13では、ここで紹介しているシステムオプティマイザーを大幅に改良した。スタンドアロンのPC上で実行可能であるという点も大きな特徴のひとつである。
PCで実行可能なCAEツールとしては異例なまでの解析速度と精度をもつ、ギヤトレーン設計解析用ソフトウェア、MASTA。最新バージョン13では、定評ある扱いやすさに磨きをかけながら、守備範囲を拡大。その進化はいまなお続いている。

TEXT:髙橋一平(Ippey TAKAHASHI) FIGURE:SMT

ここまで簡単にできるとは…… 英国 SMTの手がけるギヤトレーン向け CAE ツール、MASTA については、これまで幾度にもわたりその異例なまでの扱いやすさに注目しながら取り上げてきたわけだが、バージョン13で操作性と正確性が大きく向上した「システムオプティマイザー」は、このMASTA の原点にして最大の特徴ともいえる “扱いやすさ”をさらに強調するものだった。

その名が示すようにギヤシステムの基本的な構成を最適化するというこの新機能において、なんといっても印象的なのが、5つのタブから成る設定画面から始まるという、きわめてシンプルにまとめあげられたインターフェースだ。ウィンドウ画面で展開されるGU(I グラフィカルユーザーインターフェース)環境のPC 用アプリケーションソフトウェアでも馴染み深いダイアログボックスに現れる設定タブ、アレとまさに同じものである。これならばギヤ設計に関する専門知識を持ち合わせていなくても、入力から実行までという操作ならば誰にでもできるはず。一般にCAEというとエキスパートのための難しくて複雑なツールという先入観を抱きがちだが、それとはうらはらにシンプルで直感的に理解しやすい。そして驚くほど簡単だ。

「コンセプトが真っ白な状態から使っていただける機能がシステムオプティマイザーです。例えば最近の電動アクスルで主流の二段減速ギヤ、これらはだいたい9~12(9:1~12:1)のトータルレシオをもつわけですが、入力と出力、そして中間軸の間のギヤ比は自由に設定できるいっぽうで、そこには“ 最適解”が存在しないといっても過言ではありません。実際に、同じようなトータルレシオをもつギヤボックスであっても、メーカーそれぞれの考え方により、まったく違ったものになっています。入出力軸の位置、そして許容される寸法など、ギヤボックスの設計には制約がついてまわるわけですが、それでもギヤの組み合わせは無数にも近いかたちで存在します。システムオプティマイザーを用いれば、こうした組み合わせのなかからシステムとして強度と静粛性の要件を満たしたうえで、軽量かつコンパクトな組み合わせを、迅速に探し出すことが可能になります。いわば設計の“ 入り口”となる部分を強力にサポートする機能です」

今回、システムオプティマイザーについて説明してくださったのはSMT ジャパンの藤田氏。長年にわたり自動車メーカーでトランスミッションの設計に携わってきたという経歴をもつ、ギヤ設計のエキスパートである。「メーカー(に在籍していた当時)では表計算ソフトなどで組んだツールを使って、ギヤの組み合わせをひとつひとつ計算していました。このツール(MASTA のシステムオプティマイザー)が存在していたら、私も使いたかったというのが率直な気持ちです(笑)」

5つのタブから成るシステムオプティマイザーの設定画面。数値入力欄やプルダウンメニュー、チェックボックスなどに、設計の骨子として必要な数値や要件を入力するだけという、じつにシンプルなインターフェースである。

タブで選択されるそれぞれの画面で用意される数値入力欄やプルダウンメニュー、チェックボックスなど、ギヤボックスの設計に求められる制約や、目標とする性能といったものなど、設計の骨子として必要な項目を入力して実行すると、候補となるギヤ歯数や中間軸の位置などを絞り込むかたちで解析結果が出力される。前述しているようにこの実行に至るまでの入力操作が簡単であることもさることながら、さらに特筆すべき点が、実行開始から結果が出力されるまでの時間、すなわち解析の速さである。上で示している例ではわずか7分。藤田氏によれば表計算ソフトなどを応用した専用ツール(自動車メーカーではそれぞれが独自のノウハウを落とし込むかたちで、こうした諸元検討用の専用ツールを用意している)を用いた作業では1日がかり、場合によっては数日を要することも珍しくなかったという。

電動アクスル用ギヤボックスに用いられる二段変速ギヤの諸元を解析した例。一般にこうしたギヤボックスは入力軸と出力軸の位置があらかじめ決められており、またギヤボックスに与えられる空間(縦横高さ方向の寸法)には制約が設けられ、その範囲内に収めながら、かつ軽量に仕上げることが求められる。いっぽうで入力と出力の間に設けられる中間軸の存在により、それぞれのギヤ比(入力軸と中間軸/中間軸と出力軸)の組み合わせは無数といえるかたちで存在することになる。これらを歯幅やモジュール(ギヤを構成する歯の大きさ)、互いに素の関係(偏摩耗や異物噛み込みによる異音などを抑制する歯数)の組み合わせを見つけることは容易ではない。これを自動探索することで、より多くの例を検討しながら、その時間も大幅に短縮することができるというのが、システムオプティマイザーの利点。この例では解析にかかった時間はわずか7分。強度や寸法など、条件にそぐわない組み合わせを排除しながら、最終的に17の候補に絞るかたちで、重量と歯幅の関係をプロットしたグラフ(歯幅は合計で表示。これが小さいほど横方向の寸法が抑えられることになる)などの“内訳”も示している。

「検討するすべてのパターンにおいてモデルを作成したうえで解析を行なうので、候補として出力されるものは、すべて3D 表示として確認することができます。また、このモデルを基にパラメトリックスタディなどの手法を用い、効率や耐摩耗性など、さらに詳細な解析を行なう、“ デザインスペースサーチ”という機能もMASTAには実装されています。ギヤの加工に使う刃物をデータベースとして収録することで、手持ちの設備(刃物)の範囲内という条件で絞り込みながら検討することも可能です」

ギヤやシャフトという回転体に特化するかたちで操作性に工夫が凝らされたモデリング機能により、設計から解析までを素早く、しかもきわめて高い精度をもってこなすことが可能という特徴をもつMASTA は、バージョンアップを重ねながら高機能化が進められている。システムオプティマイザーの機能もそのひとつだが、解析処理の速さはいまなお健在である。

藤田高裕
Takahiro FUJITA
SMTジャパン
テクニカルスペシャリスト

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