5G(第5世代移動通信システム)の普及に向け様々なサービスが開始され、すべてのモノがつながるIoE(Internet of Everything)へと社会は変化し続けている。これにより、通信データ量は今後も飛躍的に増加することが予想され、高速信号処理への対応と消費電力の増大が大きな社会課題となっている。
IoEを支える高速通信ネットワーク機器には現状の2倍の速度となる800ギガビットイーサーネット(GbE)[3](112 Gbps[4], PAM4[5])の対応が必要。また、電気信号の高速・高周波化が進むと、電子回路基板における伝送損失が大きくなり、信号品質の確保には伝送損失がより小さい基板材料が求められている。
そこでパナソニックでは、低伝送損失と高多層基板に求められる特性を両立する独自の樹脂設計・材料配合技術をベースに低誘電正接ガラスクロス・低粗度銅箔[6]との複合化技術を確立し、業界最高(※1)の低伝送損失多層基板材料「MEGTRON 8」を開発した。「MEGTRON 8」はデータ通信の大容量・高速化に貢献。また低伝送損失化は消費電力低減にもつながる。(※2)
■ パナソニック独自の樹脂設計・配合技術で業界最高(※1)の低伝送損失を実現。同社従来材比 約30%改善(※3)
優れた誘電特性を実現するパナソニック独自の樹脂設計・材料配合技術および低誘電正接ガラスクロスと低粗度銅箔との複合化技術で業界最高の低伝送損失を実現し、高速通信ネットワーク機器の性能向上に貢献する。また、伝送損失の低い基板材料を使用することで効率的に電気信号を送れるため、機器の消費電力低減が図れる。
■ 優れた耐熱性・信頼性を有し、高多層基板(20層以上)への適用可能(パナソニック従来材(※4)同等)
パナソニック独自の樹脂設計・材料配合技術により、優れた耐熱性、絶縁信頼性[7]に加えて高いガラス転移温度と熱分解温度を有している。これによりハイエンドサーバやルータ等で使われる20層を越える高多層基板においても、高温環境下での高い信頼性を確保することが可能であり、機器の安定稼働に貢献する。
■ パナソニック従来材(※4)と同等レベルの加工性を有し、一般的な多層電子回路基板プロセス条件の適用が可能
低伝送損失樹脂として広く知られているPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を用いたフッ素樹脂基板とは異なり、パナソニックの本材料は熱硬化性樹脂を用いており、従来材同等の回路基板プロセスでの製造が可能。
(※1)熱硬化性樹脂ベースの高多層基板材料として。2022年1月18日現在、パナソニック調べ。
(※2)同一機器・同一条件下でパナソニック従来材(MEGTRON7 R-5785(N))使用時と比較した場合
(※3)MEGTRON8 R-5795(U)とMEGTRON7 R-5785(N)との比較、28GHz時の伝送損失改善効果
(※4)MEGTRON7 R-5785(N)
[1]伝送損失
電子回路基板上の配線(伝送線路)を通る信号が材質や距離などに応じて減衰する度合い。
単位はデシベル(dB)。
[2]MEGTRON
「MEGTRON」はパナソニックの登録商標。同社の高速伝送対応多層基板材料をMEGTRONブランドでラインアップ。サーバ、ルータ、スーパーコンピュータ、基地局など高速通信ネットワーク機器や自動車・航空宇宙など幅広い分野の高速・大容量伝送に対応し、業界をリードする多層基板材料。
特に「MEGTRON6」(2004年量産開始)はハイエンドサーバに採用された低伝送損失多層基板材料の先駆けとして、2014年4月「第46回市村産業賞 功績賞」、2016年3月「第62回大河内記念生産賞」を受賞。
[3]800GbE(Gigabit Ethernet)
Ethernet Technology Consortium(イーサネットテクノロジーコンソーシアム)で標準化が進められている有線高速通信新規格。現在最速仕様の400GbEを上回る、次世代インターフェース仕様。
[4]bps(Bit per Second)
1秒間に送受信可能なデータ量(bit)を表す単位。数字が大きいほど通信速度は早い。
112 Gbpsは1秒間に112 Gbitのデータ量を転送できる。
[5]PAM4(4Pulse Amplitude Modulation)
4値パルス振幅変調方式。信号を伝送する方式の一つ。
[6]低粗度銅箔
銅箔表面の粗度が極めて小さい銅箔。高周波電流は銅箔表面を流れるため(表皮効果)、表面の凹凸が小さい低粗度銅箔を用いることで伝送損失を小さくすることができる。一方で表面の凹凸が小さい銅箔は基材樹脂への物理的な密着(アンカー効果)が低くなるため、接着強度を高める樹脂設計が重要となる。
[7]絶縁信頼性
電子回路基板での絶縁抵抗劣化に対する信頼性。(一般的には高温高湿下での電圧印加による加速試験によって評価される)
[8]ガラス転移温度(Tg)
高分子などを加熱した場合に物理物性が変化する点をガラス転移温度という。
[9]比誘電率(Dk)
誘電率とは絶縁性の物質に外部から電荷を与えたときの分極のしやすさをあらわし、物質固有の値をもつ。分極しやすい物質ほど電気を蓄えやすい傾向があるため、電気信号を効率よく流すためには分極しにくい(誘電率が小さい)物質が有利である。比誘電率とは、真空の誘電率を1とした場合の物質の誘電率の比率。
[10]誘電正接(Df)
絶縁性物質内部での電気エネルギー損失の度合い。誘電正接が小さいほど電気エネルギー損失は小さくなり、電気信号の伝送損失は減少する。