先代レヴォーグが搭載、スバルFA20DITとはどんなエンジンか[内燃機関超基礎講座 ]

5代目レガシィの年次改良に合わせて登場したFA20DIT。 直噴システムやツインスクロールターボの採用など、最新のアイテムを身にまとった高出力・低燃費エンジンである。
TEXT:世良耕太(SERA Kota) PHOTO:住吉道仁

FA20DIT:スバル初の直噴ターボエンジン。ツインスクロールターボ、キャビティ付きピストン、ロッカーアームなど、現時点の最新定番技術を投入することにより、排気量を20%縮小しながら、従来機種を上回る出力・トルクと燃費性能を実現した。既存シャシーへの適用でもあるし、衝突安全性の確保を含めたレイアウトの都合上もあり、インタークーラーはEJ型と同様にエンジン上部に置く。

FA20DIT型の2ℓ・水平対向直噴ターボは、2009年に発売された5代目レガシィが行なった3回目の年次改良に合わせて投入された。従来からあるEJ25型2.5ℓ・水平対向ポート噴射ターボを搭載するグレードを一部置き換える格好。ラインアップに残った285ps/350NmのEJ25ターボは「ゆとり」を訴求。新たに投入された300ps/400NmのFA20DITは「圧倒的な加速ときびきびした走り」で訴えかける。前者が5速ATとの組み合わせなのに対し、後者は高容量化したチェーン式CVT(=リニアトロニック。8段変速モードを備える)との組み合わせとなる。

「FA」のエンジン型式はBRZ向けに開発されたポート噴射&直噴併用の高回転型自然吸気エンジンとの関連を連想させるが、実のところ関連は薄い(直噴システムも異なる)。クランクシャフトと動弁系の一部を共用するものの、FA20DITは、実質的には2010年に登場した「FB」型をベースに、直噴ターボ化したと理解するのが正解。86×86mmのボア×ストロークがFA型と共通(FB型は84×90mm)なので、社内の決め事に従い、FA型を名乗ることになった。86×86mmとしたのは、ストロークを短くしてブロックジャーナル部を肉厚にし、過給による高い筒内圧に耐えるだけの強度を確保するためだ。

113mmのボアピッチは第2世代水平対向エンジンのEJ型やFB型自然吸気、FA型とも共通。ターボチャージャーをエンジン本体の前面下部に置くのは、EJ型ポート噴射ターボやEE型ディーゼルと共通。EJ型もFB型もノックセンサーは4番シリンダー(左バンク)の位置に1つだけ配置していたが、FA20DIT型ではノック検出精度を高めるため、3番シリンダー側(右バンク)にも追加した。ノック限界のマージンを削り、より最適な点火時期で燃焼させる。

開発の目標は、最高出力300ps、最大トルク400Nm、JC08モード燃費12.4km/ℓにあった。従来のEJ25型2.5ℓ・水平対向ポート噴射ターボ(JC08モード10.2km/ℓ)に対して出力/トルクで上回る数値を達成しつつ、燃費性能も上回るという二律背反を目指した。社内の車種ラインアップにあてはめてみればダウンサイジングと言えなくもないが、欧米を含めた世界的な流れの中に置いて俯瞰してみれば、相対的には高出力指向の過給エンジンである。

2.5ℓから2ℓに単純に排気量を落としたのでは出力が落ちてしまうので、直噴化すると同時に混合気をうまく混ぜるため、吸気ポートや燃焼室形状、ピストン冠面の設計に力を入れた。ツインスクロールターボ(EJ20型で採用経験あり)は主に、低回転域のレスポンス向上を目的とする。複数の高出力化アイテムを投入する一方で、ピストン冠面裏の肉を盛るなど、機能信頼性の確保にも力を注いでいる。

後方から。実質上のベースとなったFB型とブロック高さ/全長、ヘッド高さ、エンジン全幅は共通。FB型の場合、左右バンク間で冷却水をやりとりするウォーターパイプにクールドEGR機構を一体化させたが、FA20DITでは冷却性能を強化する狙いもあり、水冷式EGRクーラーを独立させた構造とした。右バンク後方の3番気筒から排気をとり、EGRクーラーを経由してサージタンクに合流させる。
左方から。真横のアングルから眺めると、2気筒+α分しかない水平対向4気筒エンジンの全長の短さがわかる。横置き2気筒エンジンを上から眺めたような格好。
下方から。排気が干渉しないよう4つの排気ポートを2つの流れにし、タービンに導く。ターボチャージャーの左隣に触媒を2つ収めるアイデアもあったそうだが、整備性を考慮し、プレ触媒のみ収める構造とした。

 直列4気筒なら、エキゾーストマニフォールドを短く設計して集合させ、ターボチャージャーに排気を導くことが可能。排気エネルギーの損失を抑えるためにも可能な限り短くしたいところだが、燃焼室が左右に大きく離れた水平対向エンジンではそうはいかない。最短距離で結んでもそれなりの長さになる。300psの高出力を達成するため、サイズの大きなターボチャージャーを採用。排気系の基本レイアウトはEJ25ターボと共通。ただし、EJ25はシングルスクロール。ツインスクロールの採用は先代インプレッサが積んだEJ20型で経験がある。

エキマニとターボ。排気系はエンジンの下側に集中させたレイアウト。必要かどうかは別にして、クランクプーリーや補機との整合性をとらなければならず、ターボチャージャーのサイズを大きくするにも限界がある。
ターボチャージャーはハネウェル製。排気バルブが同時に開くことのない気筒同士を集合させ、独立したスクロールに導くことで、排気干渉によるロスを減らす仕組み。低速域のレスポンス向上を狙う。

ディーゼルのEE20型は車軸と平行に置いた1本の燃料供給レールからインジェクターに燃料を供給しているが、FA20DIT型は左右バンク2気筒分のレールを配するレイアウトで、ひと足早く市場投入された直噴&ポート噴射併用のFA20型と同様のレイアウト。高圧燃料系は日立オートモーティブシステムズ製。最大噴射圧は15MPa。デンソー製のシステムで構成するFA20型の直噴インジェクター(最大噴射圧は20MPa)は扇形のファンスプレー噴射だが、FA20DITは6穴マルチホール噴射で思想が異なる。インジェクターの配置がトップではなくサイドなのは共通。

ピストンは、タンブル流をうまく閉じ込めるためのキャビティに加え、リード噴霧を受け止めるためのキャビティを掘った2段構造になっているのが特徴。FA20型と違って直噴インジェクターしか持っていないため、混合気をうまくまぜて燃やすための策。リード噴霧は6つ開いた穴の一番上から噴射される噴霧のこと。タンブル流の弱い始動時にはこの噴霧を速度差と圧力差で上手に巻き上げ、点火プラグまわりに集める。スカート部には従来のコーティング層の上に、二硫化モリブデンの層を載せている。表面の平滑化によるフリクション低減が目的。

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ベースとなった自然吸気エンジンのFB20型に比べて筒内圧は高くなるので、コンロッドを強化した。ピストン冠面裏側に肉を盛ったのは応力分散させるため。肉を盛るためにコンロッド小端側側面をテーパー状にした。自然吸気のFA20型もコンロッド小端側はテーパー状になっているが、こちらは軽量化が目的。

クランクシャフトは、7400rpmのレッドゾーンに耐えるために強化した設計のため、FA20型用をそのまま使える。

NAエンジンをベースにターボ化しようとする際、高くなる筒内圧に耐えるためブロックをセミクローズドにするのが従来の流れ。ただし、FA20DITを設計するにあたっては、燃焼室の近くを効率良く冷却するため、オープンデッキにこだわった。筒内圧がかかった際のライナーの動きを抑制するため、吸排気方向には浅底にして剛性を確保している。低フリクション化を徹底するため、エンジンオイルは4社競合で、のべ十数種類を試作。FA20DITにベストマッチする仕様に絞り込んだという。5W-30の規格自体はEJ25型ターボと同じ。

■FA20 DIT
シリンダー配列 水平対向4気筒
排気量 1998cc
内径×行程 86.0mm×86.0mm
圧縮比 10.6
最高出力 221kW/5600rpm
最大トルク 400Nm/2000-4800rpm
給気方式 ターボチャージャー
カム配置 DOHC
ブロック材 アルミ合金
吸気弁/排気弁数 2/2
バルブ駆動方式 ロッカーアーム
燃料噴射方式 DI
VVT/VVL In-Ex/×

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…